銃を構えた男
滅多に足を踏み入れる事のない繁華街の中の高級ブランド店が並ぶ通り。俺はそんな中の高級ブランドバッグの店の中に置いてあるソファに座って、その時を待っている。
ショーケースにおさまった高級バッグ。平日の昼間だと言うのに、お店の中は多くの人が、そんなお高いバッグを買い求めに来ている。鞄を持った制服姿の俺は全く場違いで似つかわしくない存在である。店員たちも時折、不審げに俺にちらりと視線を向ける。
まだかよ!
そんな思いの俺の手の中で、スマホが震えた。
俺がそのディスプレイを確認する。
また優奈か。
待っているメールは来ない。その代りと言う訳ではないだろが、何度も何度も優奈からメールが来る。離れて寂しい訳だし、全くうれしくないとか、鬱陶しいとか言う事はないのだが、どうも俺の生活の中に割り込まれた気分になってしまう。ましてや、今は大事なメールを待っている時である。
「翔くん。街に出かけてるって?
街はにぎやかなんだろうな。
でも、デートなんかじゃないよね?
だったら、許さないんだから」
んな訳ねぇだろう!
俺がそうメールを返そうとし始めた時、新しいメールの着信があった。
来た!
差出人は飯田の右腕、いや飯田のマスターかもしれない鍵山麻代がやって来るのを監視している優奈のお兄ちゃんの仲間の人だ。
俺は優奈への返事を止めて、立ち上がるとスマホをポケットにしまい、床に置いていた鞄を手に取った。
視線をこの店の入り口に向ける。
大きなガラスの自動ドア。その向こうには大勢の人が行きかう歩道があって、さらにその先に車道が続いていた。その車道を減速して停車しようとしている真っ赤なベンツが俺の視界の中に入った。俺はゆっくりと自動ドアの入り口に向かって行く。
自動ドアの周辺にも何人かの客が立って、壁際のガラス棚の中の商品に目を向けている。
俺はそんな客たちの中、自動ドアを目指して歩いて行く。
やがて、歩道側からサングラスをかけた二人の女性が自動ドアを開けて、中に入ってきた。
飯田たちが興した新興宗教のイメージカラーは白である。飯田も鍵山もマスコミに映る時はいつも白の服を着ているのに、今入ってきた女性の一人が身に着けているのは黒のワンピースである。自分だと気付かせないための工夫なのかも知れない。とは言え、細面気味の顔立ち、ほっそりとした顎先、背の中ほどまで届く、ストレートの黒髪。間違いなく、鍵山麻代である。
その横を半歩下がって歩いているのが、優奈のお兄ちゃんの仲間のはずだ。
今から芝居が始まる。
主人公は俺だ。
そう思うと、体が強張るのを感じた。
俺の前を二人が通り過ぎる。二人の甘い香りが俺の鼻をくずぐった。
「鍵山麻代?」
俺が疑問形の言葉を投げかけると、二人がちらりと俺に振り返った。
鍵山たちの後を追うように、一人の男が入ってきた。
帽子を目深にかぶり、顔にはマスクに黒いサングラス。
アロハか?と思わせる柄物のシャツにジーパン。
左手には茶色の紙袋。そこに右手を突っ込んでいる。
怪しげな男の登場に警備員が早足で、近づいて行く。
男はその警備員に顔を向けたかと思うと、紙袋から右手を抜き取った。
その次の瞬間、銃声が響いた。
警備員も客も全ての動きが止まった。
銃を手にした男の登場に客たちの顔色が変わった。
鍵山たちも男の数m先で、立ち止まり振り返った状態で、真っ青になっている。
その鍵山に向かって、男は銃口を向けて、叫び声を上げた。
「おやっさんのたまぁ、よくもとりやがったなぁ。
仇をとったるわぁ」




