優奈を守るのはあんたじゃない!俺だ!
優奈が襲われた時に感じた感覚とは何だったんだろうか。俺には分からないままだった。俺はその日、ベッドの上で眠れぬ夜を過ごした。
解けない謎。優奈を守る手段。
どれも答えなど出る訳も無く、思考は迷走するし、ほんの小さな物音でも、また北村のように優奈を襲いに誰かが来たのではないだろうか、そんな不安が俺に睡魔を寄せ付けなかった。
気が付けば、窓の外から小鳥のさえずりと太陽の光が朝を告げて来ていた。
いつもなら、マラソンに出かける時間だが、俺は外に出られないでいる。理由はほとんど眠っていないと言うだけではない。優奈の家には刑事であるお兄ちゃんもいる訳で、俺がここにいる必要は無いとは思いはするが、優奈をおいて、この場を離れる気になれなかった。
「いってきます」
気が張りつめているからか、それとも眠気のピークを過ぎているからか、眠いと言う気も無く、鞄を持って、俺は家を出た。まだじりじりするほどではないが、太陽の日差しが俺の腕を突き刺す。
何人もの人たちが、通勤や通学のため目の前の道路を駅を目指して、急いでいる。いつものように、俺は皆とは逆方向に向かい、隣の優奈の家の玄関を目指す。
今日も俺の方が早かった。昨日、あんな事があった優奈に、どう接しようか。そんな事を考えながら、優奈の家の前で、俺は優奈が出てくるのを待っている。しばらくすると、玄関の向こうに人の気配を感じた。
俺は身構えた。優奈ではない事を感じ取ったからだ。
無言のまま、玄関のドアが開いた。
そこから現れたのは、俺の予想通り、優奈のお兄ちゃんだった。だが、この前とは違って、俺に睨み付けるような視線は送ってこなかった。
後ろ手に玄関を閉じると、俺に手招きをした。玄関のすぐ横に広がる優奈の家の駐車スペース。優奈のお兄ちゃんがそこに向かって行ったので、俺も後に続いた。優奈のお兄ちゃんが乗っているステーションワゴンと壁の隙間に立ち止まって、俺が来るのを待っている。俺が近づいて行くと、小声で俺に話しはじめた。
「妹はまだ眠っている」
えっ?学校は?
俺のそんな表情にも、優奈のお兄ちゃんは表情を変えず、話を続けた。
「妹はしばらくこの家を離れて、祖父の家に行くことになった。
学校もしばらく休ませる。
この事は誰にも言うな」
優奈と離れてしまう。俺はちょっと寂しかった。でも、それは安全な策である。と一瞬思ったが、そうでもないんじゃないかと思い直した。
「でも、あの力はここにいると効かないんじゃないですか?
離れた場所で、あの力に襲われたら」
「いいか。
もう一つ、鍵を教えてやろう」
いつも上から目線じゃないか。まぁ、年上だし、社会人だし、優奈のお兄ちゃんだから、仕方ないが。
「あの不思議な力を使える者は、なぜかこの近辺にしか現れていない」
それって、どう言うことなんだ?
知りたいことは一つだ。
「この近くにいる者だけが、あの力に目覚めると言う事ですか?
それとも、飯田たちもこの場所を離れると、力を使えなくなると言う事ですか?」
優奈のお兄ちゃんはにやりとしてから、俺に言った。
「まだ分からん」
は?そうですか。
俺はがっくし気分だ。
「それを確かめたるための計画が進行している。
そこでだ。
お前にやってもらいたい事がある」
「はいぃ?」
どう言う展開なんだ。どうして、俺が何かをしなければならないんだ?
俺の不満げな反応に、優奈のお兄ちゃんが冷たい視線を俺に向けた。
「お前は俺の妹を助けたくはないのか?」
そう言われてしまっては、断る事なんてできやしない。優奈を守るのはあんたじゃない!俺だ!そんな気概だってあるくらいだ。
「岡本さんを助けたいのは当たり前じゃないですかっ!」
ちょっと、強い口調と睨み付けるような視線で返した。この人とは穏便にすませたい。そう思っていても、この場合だけは俺の感情を抑え込む事なんて、できやしなかった。
「よし。では」
優奈のお兄ちゃんは俺にとんでもない事を言ってきた。簡単に言えば、飯田たちのところに潜入すると言う事だった。だが、その話を聞き終えた俺には、納得いかないところが一つあった。
「すみません。
一つ、分かんないんですけど。
そこにはすでに潜入している仲間がいるんですよね?
どうして、俺まで潜入しなければならないんですか?」
俺の言葉に、優奈のお兄ちゃんはふふっと意味ありげな笑みを浮かべ、俺の肩をポンと叩いて、家の中に戻って行った。
おいおい、俺の疑問に答えてねぇじゃんか!




