飯田はただの人形に過ぎない?
優奈は語り始めた。
優奈の話では、あの時、何人もの男たちに囲まれている感覚に襲われたらしかった。しかも、その男たちとは、飯田の手によって、首を切断して殺された俺の学校の生徒たち。
頭の側から手を押えているのが井上。
馬乗りになっているのが佐々木。
足を開くようにして押えているのが中浜。
少し離れたところで、見下ろしているのが綾菜。
まじかよ?
その時、恐怖よりも悲しい気持ちを感じたと言う。
どう言うことなのか。それはただの混乱した優奈の頭が造り出した幻なのか、それとも飯田が言っているレイプ犯と言う話と関係があるのか。
俺は優奈の横で黙ったまま考え込んでいた。
優奈は俺といる事での安心感を求めるかのように、俺に完全に寄りかかったままじっとしている。そんな時、ドアが開いた。
そこから姿を現したのは優奈のお兄ちゃんだった。俺は仰天顔で、座ったままぴんと背筋が伸びた。優奈も慌てて、俺から体を離した。しかし、すでに時遅しだった。
「お前たち、何をやっている」
優奈のお兄ちゃんの顔は鬼のような形相だ!
ずかずかとやって来て、俺と優奈の間に両手を差し込み、俺たち二人が離れるように押し開いた。俺は立ち上がり、部屋の壁際に立った。
「妹を守ってくれとは言ったが、ひっついてくれとは言っていない」
優奈のお兄ちゃんが怒鳴り気味にそう言って、俺のところに近寄ってきた。俺は肩をすくめて、じっと嵐が過ぎるのを待つことにした。
「ちよっと来い」
俺は優奈のお兄ちゃんに胸ぐらをつかまれ、廊下に連れ出された。
「お兄ちゃん、いい加減にしてよね!」
「心配するな。
こいつに話があるだけだ」
優奈のお兄ちゃんが、そう言って、後ろ手に優奈がいる部屋のドアを閉めた。
狭い廊下。狭い空間に苦手な優奈のお兄ちゃんと、超接近状態で二人きり。奥のリビングでは優奈のお母さんが何事?と言う顔で、こちらを見ている。
「大事な話だ。
この異様な事件の謎を解く二つの鍵だ。
飯田も優奈を殺したくなったそうだ。だが、飯田と一緒にいる鍵山麻代が飯田を平手打ちして引き留めたらしい。あの二人の関係は鍵山に飯田が隷属しているようなものだからな。
そして、もう一つ。この場所では飯田も力が使えない」
俺は目が見開いた。あの力を持つ者たちはみんな優奈を殺したくなったと言うことなのか?
「つまりだ。
優奈を襲ってきた二人だけでなく、あの三人の力の源は全て同じであり、その源が優奈の事を憎んでいる。
そう考えるのが自然だ」
そう言った優奈のお兄ちゃんの顔は真剣そのものだ。そのきりりと引き締まった顔を見ていて、俺は思い出した。この人はこの辺りでは神童と言われたくらい、頭がよかった事を。きっと、高級官僚にだってなれたはずだ。いきなり、警察署長にだってなれただろう。なのに、一刑事になっている。そこに何か裏があるんじゃないだろうか。
「飯田に目を奪われていてはならない。飯田はただの人形に過ぎず、力の源を見つけなければならない。
この力を利用したいと考えている各勢力の者たちが、この事実に目をつけて、動き出すはずだ」
何かとんでもない事件に俺は巻き込まれちまった。そんな思いが、俺をぶるっと一度大きく震わせ、生唾をごくりと飲まずにいられなくさせた。
その日、結局北村はパトカーで連行されていく途中で、飯田に抹殺されたと聞いた。




