第四十七話 グラディウス帝国の未来
無事《嫉妬》と記憶を取り戻したわけだが。
暫しの間喜んでいると、不意にカーティスの顔付きが変わった。
「さて、レア。貴様が犯した罪を覚えているか?」
そういえばレアはここから追い出された身だったな。
記憶が無いおかげで何とか受け入れられてはいたものの、自分がやった事を覚えているなら話は別だろう。
「……当たり前。私だけ許されるのもおかしな話」
「ああ。今までに例外なく、禁忌を犯した者は国外追放だ。それがどれほど高尚な者であれど、どれほど才に優れていたとしても。……私は、貴様を失わなければならない事が無念で堪らない」
そうレアに言うカーティスは残念そうな表情をしていた。
まあ、これ程の鬼才を捨てるような真似はしたくないのだろう。
それに、例外なくという事は今までにも同じ状況に陥った者がいるのだろう。
禁忌が何かは分からないが、それほどまでに大事な掟なんだろうな。
「そんなわけだ、すまんな。レア、そして伴侶ルクス。貴様らを国外追放とする」
カーティスが詠唱を始め、俺達の足元に大きな魔法陣が出現した。
恐らく転移魔法陣だろう。
どこに飛ばされるのかは分からないのが問題だな。
「セレネヴィア。いつでも帰ってきて良いのよ」
「またね、お母さん」
ヴァレンティーナが微笑んでレアを見送る。
魔法陣の動きがぴたりと止まり、煌々と輝き出した。
「それではさらばだ。聖霊皇の加護があらんことを」
その言葉を最後に視界が草原へと変わった。
ムート王国内であれば見覚えがありそうなものだが……。
……ところでゼドはどこだ?
そう思った瞬間にふっとゼドが現れた。
「どうしたんだ?」
「ああ、どうも俺は忘れられてたみたいだ……」
可哀想に。
さて、ここがどこなのかを確認するところからだな。
といっても辺り一面は草原で、人影などあるはずもない。
どうしたものか。
「……よし、あっちだな。ゼド。全速力で着いて来いよ?」
「は? な――」
一方的にゼドに呼び掛け、レアを抱えたまま《怒気解放》を発動させて走る事にした。
何かしらの魔法が森の中から空へと放たれたのが見えたからだ。
恐らく人がいるだろう。
そこまで距離があるわけでもないので、すぐに魔法が見えた辺りに着いた。
ゼドは何とか着いてこれたようだ。
付近から魔力反応を複数感知している。
全て人か?
とりあえずは魔力反応の方に向かうか。
一応警戒しながら歩いていくと、声が聞こえてきた。
「クソが! 何でこんな結界一つ破れねえんだよ!」
何が起こっているのだろうか。
茂みからすっと顔だけを出して覗いてみると、五人程の男が少女とその従者と思われる女性を襲っているようだった。
少女が発動している結界のおかげで耐えられてはいるが、もうすぐ魔力が切れるのは目に見えていた。
「まあ、仕方ねえか……」
別に意識してはいないのだが、人助けばかりしている気がする。
まあ旅をしていればそんな事もあるかと、自分を納得させて茂みを出た。
「おーい、何やってんだ?」
「あ? 何だ、てめえ。関係ねえやつはさっさとどっか行けや」
「だから、男共が女二人相手に何してんだって聞いてんだよ!」
その言葉と共に近くにいた一人を殴り飛ばした。
木に思いっ切りぶつかったのでもしかしたら死んでるかもしれない。
俺の知ったこっちゃないが。
「っ、てめえ! お前ら、まずはこいつからだ!」
そう言いながら剣を構えて囲む姿勢に入る。
たった四人程度で俺を倒せるわけないだろ。
怒剣を使うまでもない。
一番近いやつを殴り飛ばす。
まずは一人。
斬りかかって来たので手で刃を握り潰し、そのまま腕を掴んで投げ飛ばす。
これで二人。
やけになって二人同時に斬りかかって来たので、一度頭上を飛んで回避、その後頭を掴んでぶつけて二人とも気絶。
「ふう、早かったな」
こんな野盗紛いの割には意外と良い物付けてんな。
せっかくだし剥いで持って行くか。
「お、見ろよレア。このアクセサリーに使われてる魔石、結構純度高いぞ」
「……カイ、人の物を盗るのは良くない」
「んな事言ったら人殺そうとしてる方が良くないだろ。命まで奪おうとしてない事に感謝してほしいくらいだけどな」
そうレアを無理矢理納得させて一緒に物色していると、襲われていた少女が話しかけて来た。
「あの……ありがとうございました」
「あ? 別に良いんだよ。……お? これ現行の金じゃねえな。どこで使ってんだ?」
顔を一瞬チラっと見てひらひらと手を振りながらも漁る手を止めない。
男達の持っていた通貨に疑問を持ったのに答えるように少女が話しかけた。
「私はグラディウス帝国第十五代帝位継承予定者、ヴィユノーク・グラディウスです。そちらのお金はグラディウス帝国で主に流通しているものになります」
帝位継承予定者!?
俺はとんでもない人を助けてしまったのかもしれない。
だが、何故そのような人物がこんな場所に……?
「付近の村にて視察の任務があったのですが、馬車での移動中に襲われてしまったもので……」
その後も話を聞いたところ、背景が何となく見えてきた。
元々の帝位継承者は兄ミハイルだったのだが、生まれより身体が弱かったがために病死してしまった事でヴィユノークが正当な次の継承者となったのだそう。
だが、グラディウス帝国は強さこそが正義。
女帝を認めまいとする派閥がヴィユノークを暗殺しようとしているのだと。
母親の違う義兄ボリスに帝位を譲らせようとしているようだ。
行く先々でこのような事態に見舞われ、今回も例外ではなかったらしい。
普段ならば騎士団長がついているのだが今回は都合が悪く、副団長が視察任務に随行。
副団長はボリスの派閥であり、わざと目を離していたそうだ。
視察任務はまだ終わっていないようなので、もう暫く暗殺の警戒をしなければならないらしい。
「その、よければで構いませんし、勿論報酬も払います。なので、私の護衛をして頂けないでしょうか?」
確かに副団長が信用出来ないのなら護衛はいないも同然。
そして目の前にいる俺は、この程度の暗殺要員ならば簡単に倒せる。
別に俺としてはグラディウス帝国の事などどうでも良いが……。
「カイ、助けてあげたら?」
「……レアがそう言うならしょうがねえな。その話、受けてやる」
「協力に感謝します!」
そう目を輝かせてお辞儀をするヴィユノークに続き、従者も頭を下げる。
ヴィユノークのゆらりと揺れる長い銀髪に目が吸い込まれる。
よく手入れされているのだろうか、長さも整っている。
そろそろ金目の物もほとんど取ったな。
ついていってやるか。




