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第四十六話 シルヴァレイン城にて

 変わらぬ日々を過ごしていると、ゼドから一通の手紙を貰った。

 誰が出したものかは分からないが、花を模した封蝋がしてあった。

 とりあえず開けてみるか。


「マジかよ……」


 何となく察してはいたが、まさか本当に来るとは。

 というのも、ヴァレンティーナからそれっぽい話は聞いていた。

 内容を読むと、ただただ俺に会ってみたいとのことだ。


 面倒だな。

 とはいえ拒否するわけにもいかない。

 三日後か……。

 少し不安だ。




 とうとう城に来てしまった。

 遠くからも見えていたが、屋敷よりも大きい上に高い。


 もしも何かやらかしたら、最悪の場合殺せば良いか。

 そういうスタンスで行った方が気が楽だ。

 まあ、まず俺が勝てる相手なのか分からないが。


「セレネヴィア、国王とは普段から会うのか?」


「基本的に国王様は人の世で仕事してるか、外界からの敵の対処をしてるから私はあんまり会った事無い。……でも、即位する前は一緒に遊んでくれた」


 懐かしそうに語ってくれた。

 それだけ聞けば優しい人なのだろう。

 というよりも、俺に会って何がしたいのかが気になるな。

 流石に会って終わりじゃないだろう。


「ま、入るか」


 門番にあの手紙を見せて了承を得てから中に入る。

 通路を歩いて行った先に、大広間と思わしき部屋があった。

 ……ここにいるのか。


 その大広間には、荘厳で精巧な装飾の施された椅子に座っている男性と、数人の女性がいた。

 あの短髪で金髪の男性が王か。

 俺達の姿を視認して、男性の口が重々しく開かれた。


「私はカーティス・シルヴァレインだ。貴様がルクスか?」


「ああ。俺で間違いない」


「そうか。……して、セレネヴィア。何故帰って来た?」


 カーティスの雰囲気が変わった。

 やはり過去に何かを犯して追放された身だったんだろうな。

 セレネヴィアはまさかの言葉に絶句し、口を開けないでいる。

 俺が代わりに答えてやるか。


「俺はセレネヴィアと共に旅をしていたんだが、どうも一度殺された時に記憶が無くなったみたいだ。で、とりあえずここに逃げて来たみたいな感じだな」


「……ほう。珍しいな、記憶喪失とは。我が旧友セレスト以外に見た事は無かったが、そうか」


 顎に手を添えて考え始めた。

 セレストが誰かは分からないが、もしかしたらエーヴァルトの言っていた過去の《怠惰(スロウス)》の事か?

 仮に同一人物とした場合、カーティスは《大罪》を知っている。


「……成程。カカッ、そうか、そうか……!!」


 カーティスが急に立ち上がり、どこからか剣を取り出した。

 まさか――


「ガフッ……」


 こいつ……!

 いつの間に俺の背後まで移動した?

 《怒気解放(ブレイズギア)》を全解放して一旦距離を取る。

 それでもカーティスは余裕そうに立っている。


「貴様が終末の《憤怒(ラース)》だな? その力を見せてみろ!」


 終末の《憤怒》……?

 それよりも、やはりこいつは《大罪》について知っている。

 本気の敵意には見えないが、それでも十分な殺気を感じ取れている。


 まずは先程のように背後に回られても良いように《怒統環界(ラース・ドミネイト)》を発動させる。

 また消えた。

 だが、今は初動のみだが視えている。


「喰らいやがれ!」


 頭上からの攻撃を受ける前に《怒炎顕現(インパルスフレア)》で妨害する。

 よく見えなかったが、恐らく空を蹴って避けたようだ。


「《眩惑栖耀擁榮ファントム・イリュージョン》」


 その言葉と共にカーティスの姿が消えた。

 さて、どうしたものか。

 正直当てられる気がしない。

 少しの間思考をしていると、不意にセレネヴィアの隣にカーティスが現れた。


「セレネヴィア。以前に俺がお前に言った言葉を覚えているか?」


「……知らない」


「そうか。ならば身を以て教えてやろう」


「やめ――」


 俺の口から言葉が出るよりも先に、カーティスの剣がセレネヴィアを貫いた。

 何故俺は三度も、恋人が致命傷を受ける瞬間を見なければならないのだろうか。

 湧き上がるその怒りに《憤怒》が応えた。


「《怒捷迅刹螢廻壊ラース・アクセラレーション》」


 無意識に口から言葉を発していた。

 世界が遅くなり、俺の身体が加速していく。

 カーティスが不敵な笑みを浮かべながら移動しだす。

 だが、今は初動どころかしっかりと視えている。


「逃げるなよ」


 カーティスの首元を掴み、動けなくした。


「ぐっ……やるな。だが、周りを良く見てみろ」


「は?」


 カーティスを手放して辺りを見渡してみる。

 気付けば、俺とカーティス以外の人が見えない。

 セレネヴィアは相変わらず倒れているが、魔力が弱すぎるように感じる。


 パチンとカーティスが指を鳴らした瞬間に無傷のセレネヴィアが見えた。

 これは幻影だったのか?


「流石の私もセレネヴィアを殺すような真似はしない。貴殿が見ていたのは私の作り出した幻だ」


 確かによく考えてみれば、途中でカーティスの魔力反応が弱くなったように感じた。

 あの時発動したスキルか。

 ならば、全力には程遠かったのではないだろうか。

 強いな……。


「貴殿を試すような事をしてしまいすまない。だが、見ておきたかったのだ。ロートの言っていた終末の《憤怒》を」


 ロート?

 先程からカーティスの言っている事が良く分からない。

 とはいえ聞き出すのも難しそうだ。


「さて、本題に入る。今日貴殿を城に呼んだ理由だが、最近噂になっているルクスとやらを一目見てみたかったというのが一つ。もう一つは彼女らだ」


 ……まさか縁談とでも言うのか。

 普段から悩まされているというのに、何故ここまで来て……。

 とはいえ国王たるカーティスが選んだという事もあってか、美人ばかりで身に着けている物も良さげだ。


 五人の女性がこちらへ近づいてくる。

 カーティスはにやりと笑いながら話しかけてくる。


「貴殿ほど強大な魔力を保持しているならば妻などいくらいても良いだろうよ。我が【シルヴァレイン聖樹王国】ならば尚更だ」


 だとしてもそんなに要らねえよ。

 元より誰かも知らないのだから。

 何も出来ずに立ち止まっていると、囲まれてしまった。


「ルクス様、私とご結婚なさって?」


「私も、側室で構いませんよ?」


 口々に何か色々言ってくる。

 下手に相手しても意味が無い。

 今の俺には沈黙を貫く事しか出来ない。


 誰でも良いから助けてくれ。

 俺は女に興味は無い。

 以前ガルヴァンとゼドが有名な風俗街に行った時も俺は行かなかった。

 形だけの関係や身体なんかどうだって良い。


 困り果てていたその時、正しく救世主とも呼べる人物が現れた。

 濃密で強大な、どこか懐かしい魔力。


「私のルクスに触れるな」


 その言葉と共に女性達が弾かれ、小さな身体に抱き締められる。

 《嫉妬(エンヴィ)》が帰って来たのだ。


「レア……!! 記憶が戻ったんだな?」


 そうレアに問うとこくりと頷き、カーティスに向けて威嚇しだした。


「カーティス、貴方分かってやってるでしょ?」


「カカカッ、そんな顔をしないでくれ。我が友セレネヴィアよ」


「その名前は捨てた。今はレアだから」


「そうか、レア。すまないな。ヴァレンティーナに言われたものだから、私がやりたくてやったわけではない」


 ヘイトを他に向けようとするなよ。

 というかヴァレンティーナも何してくれてんだよ。


「お母さん……。うーん、いや、でも……」


 確かに目覚めるきっかけにはなったものの、自分の母親が娘の恋人に縁談を持ちかけたのが複雑な心境なんだろうな。

 そして俺は気付いている。

 通路のところから覗いているヴァレンティーナに。


 隠れるのが下手すぎるだろ。

 とはいえ魔力反応には引っかからなかったので、確かに隠れられてはいるのだが……。

 流石に目線を合わせたら諦めて出てきた。


「ごめんなさいね、セレネヴィア。ルクスさんも。ルクスさんから話を聞いた時に、もしかしたらと思って。カーティス様、ありがとうございました」


 そう言いながら頭を下げるヴァレンティーナに、レアが近づいて抱き締めた。


「……お母さん、久しぶり」


 少し恥じらいながらそう伝える。

 ヴァレンティーナも優しくレアを抱きしめ、先程の殺し合いはどこへやら、和やかな雰囲気になった。


「良かったわ、セレネヴィアの伴侶が強固な意志を持つ方で。もし縁談を受けていたら、殺してしまうところでした」


 さらっと怖い事を言うな。

 まあ母親としては正しいのかもしれないが。


 何はともあれセレネヴィアは目覚め、《嫉妬》が帰った。

 良い事だ。

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