第四十三話 《強欲》の心に潜むもの
ロカの放った《怒炎顕現》は俺が普段使っているものよりも少し威力は低いが、それでも十分な火力を保っている。
避けるしかないか。
《怒気解放》を発動させてセレネヴィアと共に避ける。
真っ向から勝負してやる必要は無い。
《怒炎顕現》が使えないとなると接近戦しかないか。
ロカがどんなスキルを使用してくるか分からないが、とりあえずはそれしかないだろう。
ロカに肉薄して斬りかかる。
「速いね。でも、その力は君には相応しくない」
身体能力強化系のスキルがあるのか、さらさらと避けられる。
こいつは魔導士だったはずだ。
こんな素早い動きが出来るわけがない。
「チッ、喰らえよ!」
反撃を喰らう覚悟で一気に距離を詰める。
が、ガルヴァンが邪魔をする。
「ルクス。まさか旧友に剣を振るうとは思っていなかったぞ」
そう言うガルヴァンの目は虚ろで、本心から言っているようには思えない。
「俺を裏切ったくせに何言ってやがる。俺を突き放したのは、お前らだろうが!」
ふつふつと滾る怒りに《憤怒》が応える。
速度を増していくが、それにもガルヴァンはついて来た。
ガルヴァンからも《強欲》の魔力を感じるため、恐らくロカによる強化がかかっている。
とはいえ俺の方が勝っており、少しずつガルヴァンの身体に傷が増えていく。
だが、ユレイラによる治癒がそれを振り出しに戻した。
面倒だな。
この際殺してしまっても構わない。
人を殺したくは無い。
が、俺の目の前にいるのは俺を蔑ろにした者達だ。
俺の心は、こいつらを殺せと叫んでいる。
「収積し、反絶し、追速し、撃ち抜け、光条の熱よ。悉くを貫き俺の道を示せ。《天穿灼煌光》!」
距離を取ってから放った熱線はガルヴァンを貫き、ユレイラごと撃ち抜いた。
狙ったのは心臓。
確実に殺すつもりで放った。
ガルヴァンとユレイラは地に伏し、立っているのはロカと困惑しているゼドと男。
あっちの二人からは敵意を感じないため放置で良い。
「ルクスぅ、元仲間を撃つなんて酷いじゃないかぁ? ……ああ、その力が欲しい! 僕にくれ!!」
人が変わったようにロカの眼が紫に光り、双つの剣を持って駆けてくる。
迫りくる連撃を捌きながら反撃のタイミングを待つ。
無理な姿勢で斬りかかって来たタイミングで剣を思い切り弾き、よろけたロカに斬りかかる。
「ざぁんねん。《奪収汎款》」
ロカの手が俺に触れる。
それと同時に《憤怒》の魔力が《強欲》のものに置き換わり、力が抜けていく。
「ぐっ……」
その隙を突かれ、体勢を立て直したロカに斬られていく。
「ははは、あははははは!! もっとくれよ! 君の力を、魔力を、全てを! 僕に全部寄越せ!!」
されるがままに傷付けられていたが、不意にロカが吹っ飛んでいった。
……何があった?
「……守られるばかりは嫌いなの」
セレネヴィアか……!
助かった。
斬られる度に魔力が奪われているような感覚がしていたため、恐らく《憤怒》は弱体化している。
ロカはすぐに立ち、こちらを向いている。
セレネヴィアが手助けしてくれるならまだ何とかなるかもしれない。
そう思っていると、ゼドが急に大声で話しかけて来た。
「ルクス! 何があったんだ!? 俺は、お前を仲間だと思っていたのに!」
何だと?
今になって尚、そんな事を言うのか。
「お前らが俺を捨てたんだろうが! 俺は、あの時までずっと、お前らを大切な仲間だと思っていた!」
「俺も、お前は大事な仲間だった! なのに、何故ガルヴァンとユレイラを……! 俺は、お前が死んでしまった事を悔いていたのに、あの時、連れて来ておけば良かったと後悔していたのに!」
……は?
いや、それはおかしいだろ。
しかし、王都地下迷宮に置いて行かれた時、確かにゼドは少し怪訝そうな顔をしていた。
全て仕組まれていたと考えていたのだが……違ったのか?
「あらぁ、ゼド? 私に歯向かうというの? なら、貴方も始末するしかないじゃない」
ロカの自我が揺らいでいる。
心底に眠る欲望がロカを染め上げているようだ。
「ロカ……。やはり、お前は異端だ。何時しか、ガルヴァンがロカを頼るようになった時からおかしいとは思ってたんだ」
ロカの凶刃がゼドに迫る。
しかし、ゼドは斥候だ。
常人とはいえ速さで負ける事は無い。
「クソッ、ルクス。良く分からないが、ロカの対処を手伝ってくれ!」
「……仕方ない。話は後だ」
そうは言ったものの、魔力の廻りが悪いせいで思うように動けない。
試しにもう一度《怒炎顕現》を放ってみる。
今度は炎が放たれたが、どうにも火力が低い上に範囲が狭い。
どうしたものか。
……ああ、あれがあったな。
「来い、《怒剣ネメシス》」
地中からせり上がるネメシスを手に取り、《憤怒》の魔力で身体を満たす。
《強欲》の魔力に妨害されているため全快とはいかないものの、戦えるようにはなった。
とりあえずはゼドを助けてやるか。
ロカへと近寄り邪魔をする。
「ルクス、なぁに? その剣。良いな、強そうだなぁ……。僕に頂戴?」
「お前なんかにはやらねえよ。これは俺の怒りの象徴だ」
こちらを振り向いて斬りかかってくる。
標的が俺に向いたのならば良い。
ゼドには何とか手伝ってもらおう。
ロカとの斬りあいの最中に、セレネヴィアの魔法やゼドの遠隔術が援護してくれている。
その度に意識がそっちに向く為、少しずつ勝てている。
「あぁ! もう、うざったいなぁ。《渇慾執利魔澱》!!」
唐突にロカから発せられる魔力が増大した。
単純な《強欲》の魔力だけではない。
《憤怒》の魔力と思われるものや様々な種類の魔力を感じる。
恐らくだが、今まで奪って来た魔力を行使しているのだろうな。
正直なところ、ここまでの魔力を使えるとなると勝ち目が見えない。
「セレネヴィア。逃げろ」
「……そう。あのゼド? って人をここに呼んで。三人で飛ぶから」
「複数人飛べるのか。分かった。……ゼド! こっちに来い!」
俺の呼び声にゼドが反応する。
しかし、ロカが逃がしてくれるわけもない。
何とか止められないものだろうか。
「《|怒統環界=第二相《ラース・ドミネイト=イクシード》》!」
ゼドが既にこちらまで退いて来たので、足止めの為に領域を展開させる。
「こんなもので止められると思ってるのぉ?」
すぐに突破されてしまった。
セレネヴィアは魔法の構築のために魔力を練っている。
まだ時間がかかりそうだ。
ゼドも何かを発動させようとしている。
「俺が何の意味も無く逃げ回っているだけだと思っていたか? 《縛堅霞巣》!」
ゼドの作り出した魔力の糸がロカを絡めとった。
俺でも見た事の無い技を使ったようだ。
今まで隠していたのか、それとも今使えるようになったのかは分からないが、それでも今ここでロカを足止めするには最適だろう。
何度切っても現れ、こちらに近寄る事が出来ていない。
セレネヴィアの詠唱が終わり、準備が出来たようだ。
「ロカ! いつかお前を殺す。その時まで待っていろ」
「逃げちゃだめだよ! ルクス、もっと遊ぼうよぉ……?」
その言葉を最後に視界が光に染まった。




