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第三十八話 消失する平穏

 【廃都眠湖(ドミトリア)】から〈ノルディア〉へ暫く歩いて到着した。

 広大な麦畑は黄金に輝いており、中心に聳え立つ塔は遠くからでも見えるくらいに〈ノルディア〉を象徴していた。


「おお、すげえな。流石農耕都市と言われるだけはある」


 畑は街の数十倍の大きさがあり、事実ムート王国における麦の七割は〈ノルディア〉産だ。

 居住者の大半が農家であり、日が昇ると共に働き出し、沈むと共に眠る。

 〈ノルディア〉の民は日と生活をしているらしい。


「綺麗だね。……そういえば、〈ノルディア〉には何しに来たんだっけ」


「正直、俺も分からん。王都から遠く離れる事しか考えてなかった」


「えぇ……」


 レアが呆れるような眼差しを向けてくるが、仕方ないだろ。

 アズールと戦うためだけに北に向かっただけで、別に〈ノルディア〉で何かしようという気は無かったからな。

 とはいえ〈ダリウム〉のように、何かしら《大罪》に関する情報がどこかにあるかもしれない。


「どうしようか。次に行く場所を決めるまで、ここで暇潰しでもするか?」


「ん。ご飯食べたい」


 相変わらずだな……。

 ま、適当に色々見ながら先を考えていくか。

 そう思いながら身分証を提示して〈ノルディア〉の中に入る。

 街自体に特色は無いが、それでも綺麗に整備された街だ。

 道は広い上に舗道されている。


「とりあえずギルドに向かうか」




 ギルドで飯を摂って、今は地図を見ている。

 ちなみにここら辺に迷宮は無いので、総合ギルドが少し小さい。

 代わりに商業ギルドがとんでもなく大きい。

 〈ノルディア〉の主な収入源は農作物だからな。


 さて、思考が逸れたが、次に向かう場所だ。

 王都から更に離れるには西に行く必要がある。

 そうなると、西にあるいくつかの王国の内どれかだな。

 今ならロカに勝てるかもしれないが、万全を期すためにアバドンの言っていた禁罪封具とやらを集めよう。


 そんな風に先について考えていると。

 不意に魔力の高まりを感じた。


「これは……地下か?」


 地中から魔力の高まりを感じる。

 《大罪》とは関係無い、ただの魔力。

 しかし、その量はどんどんと増していき、地上へ近づいてきているような気がする。

 刹那――。


「グアアアアアァァァァァ!!!!!!」


 咆哮が街中に轟いた。

 周囲の人は外に出て異変を確認しようとしている。

 が、それよりも早く外から人が逃げ込んで来た。


「大変だ!! 魔物が地中から出てきやがった!!」


 一人の男が大声で注意喚起した後、魔物の対処をするために出ていく。

 突然地中から魔物が溢れ出てくる……。

 まさか、迷宮の異常発生か?

 基本的に迷宮がいきなり出来るなんて事は無いのだが、それでも例外は存在する。


 仕方ねえ。

 俺も手伝ってやるか。


「レア。行くぞ」


「ん」


 ギルドを出ると、先程まで見ていた光景とは違い、阿鼻叫喚とでも言えるような状況と化していた。

 塔は崩れ、人々は逃げ惑い、空は陰り、転んで今正に殺されかけている女性がいる。

 怯えた瞳を瞑り、迫りくる死を迎合しているようだが。


「それは、許さねえぞ?」


 《怒気解放(ブレイズギア)》を全解放し、女性を抱きかかえて退避させる。

 突然の事に吃驚しているようだが、構ってやれる暇は無い。

 女性を置き、《怒剣ラグナ・レイジ》を顕現させて魔物を殺す。

 大して強そうな魔物は見られないが、一般人にとっては十分危険だ。


 とりあえずはギルドを指差し、女性に逃げるよう合図する。

 頭を下げて走って行ったようだ。


「さて……。どうすっかな」


「私が皆助けて来ようか?」


 レアがいつの間にか横に来ていた。

 そうだな、まずは住民の安全確保からだ。


「ああ。頼む。俺は……こいつらを対処する」


 気付けばとうにボロボロになった街の残骸に、一際目立つものがある。

 塔があった場所の下辺りに穴が出来ており、どうやらそこから魔物が溢れ出しているようだ。

 魔力反応からするに、街中に強そうな魔物が何体かいる。

 恐らくだが、A級相当のパーティでないと勝てない。

 俺が全部やるしかない。


「まずは……一番近いし、東だな」


 レアが蔦で人々を救出しているのを横目に東へと走る。

 《怒気解放(ブレイズギア)》のおかげで一瞬で着いた。

 案の定立ち向かった冒険者が圧倒的と言っていい程に負けている。

 五人程地に伏しており、残る一人が頑張っている。


「良く耐えた。後は俺に任せろ」


 倒れている全員を後方に回収し、耐えている男性に話しかけて下がるよう指で示す。

 そんな、まるで救世主でも見たかのような顔をするな。

 俺はそんな高尚な人間じゃない。


「さあ、調理してやる」


 先程まで冒険者が戦っていた大型の鳥の魔物を睨みつける。

 翼には風を纏っており、偉そうに上から見下ろしてきやがる。

 今すぐ堕としてやるよ。


「《怒火斬刃(フレイム・エッジ)》!」


 強化された身体能力ならばその程度の高さは届く。

 対応する間もなく鳥は絶命した。

 死骸を回収し、応援に来た冒険者達に倒れている者を連れて行くよう指示して、次は南へ向かう。


 もう魔物に荒らされてるし、直線で行った方が早いな。

 申し訳ないが、屋根の上を走っていく事にする。

 そのおかげでまたもすぐ着いた。

 こっちには複数の魔物が来ているようだ。


 一体の王と思わしきゴブリンが先導して人々を襲っている。

 既にやられてしまった人も多くいる。


「……クソが」


 救えなかった人がいるのならば、今自分が救える者だけでも救ってやらねばならない。

 どこか不快感のようなものを覚えながら、斬りかかっているゴブリンを斬り伏せて着地する。

 個々は大して強くない。

 だが、統率されているとなると話は別だ。


「まとめて殺す。《怒炎顕現(インパルスフレア)》」


 炎がゴブリンを焼き、血肉の焦げる臭いが蔓延する。

 ただのゴブリン如きに耐えられるわけもなく、残ったのは灰のみだった。

 次は西だ。


 先程のように屋根を伝って向かう。

 すると、いきなり目の前に雷が落ちた。


「あっぶね」


 突然の落雷を避けながら走っていくと、巨大な魚のようなものが宙を泳いでいた。

 雷を纏っているようで、冒険者達も中々手を出せずにいたようだ。

 だが、俺にはそんなもの関係無い。

 わざわざ斬らねばならないわけではないからな。


「収積し、反絶し、追速し、撃ち抜け、光条の熱よ。悉くを貫き俺の道を示せ」


 丁度先程会得したスキルを使う時が来た。

 熱が指の先に集まり、小さな球体を成している。


「《天穿灼煌光ソルティックブレイザー》」


 魚の脳天を熱線が貫き、とりあえずは絶命したようだ。

 困惑している冒険者達をよそに、死骸を回収して北に向かう。

 これで最後だ。

 北には魔力反応が多く確認出来ているから、恐らくゴブリンのように群体なんだろうな。


 やはり予想は合っていたようで、オークの群れが家を破壊しながら走り回っている。

 中には子供をいたぶりつけて遊んでいるものもいる。

 ……気持ちわりい。


 オークの腕を切り落として子供を退かした後、思い切りぶん殴る。

 剣で斬るだけではこの苛つきを収める事が出来ない。

 怒剣をしまって全て殴り飛ばしていく。

 殴ったそばから頭が破裂していく様子は猟奇的で、それでも酷く楽しく思えた。


「ハハ、おい。逃げんなよ。お前らがやってた事だろ?」


 逃げている王と思われるオークを殺して、一旦は大き目の魔力反応を持っている魔物の対処を終了させる。

 一度レアのところに戻るか。


「おい、ここら辺で他に生きてるやつは?」


「……わかんない。おねえちゃんも、おかあさんも、ぼくのためにしんじゃった……」


「……」


 言葉が出ない。

 目の前の泣きじゃくる子供を落ち着かせてやれる事は俺には出来ない。

 だが、それでも。


「……お前のその怒りを忘れるな。いつか、お前自身を助ける武器となる」


 返答は無いが、構う暇も無い。

 抱えてギルドの方へ戻る。



 ルクスの行動は確かに、正しかった。

 それは住民を助ける為の最善策であった。

 しかし、世界は何時如何なる時も、罪人に残酷で無情である。

 だが仕方がない。

 それは世界の意思なのだから。


「レアアアアアアァァァァァァ!!!!!!」


 一人の男性が魔法でレアの身体を貫く瞬間を、またもルクスは眺めているしかなかった。

 以前の《色欲(ラスト)》の時と違い、今度は即死と言っていい程の致命傷。

 《憤怒(ラース)》の悲痛な咆哮は、虚しくも曇った空に轟くだけだった。

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