第三十二話 【火晶洞イグナ】
温泉に入り、夕食を摂って昨日はさっさと寝た。
いや、早くは寝れなかったが。
何はともあれ今日は火山にある迷宮に向かう事にする。
名は【火晶洞イグナ】。
閃火燃晶という赤い魔石が取れ、杖の核やアクセサリーなどに使われる。
「ま、とりあえずは普通に攻略してみるか」
「ん」
【イグナ】の出入り口をくぐり、中へと入っていく。
火山に位置しているだけあって温度が外よりも高い。
俺は《憤怒》のおかげで熱さは感じないが。
レアも若干はその恩恵を得ているようで、そこまで暑そうにはしていない。
【イグナ】は小さな迷宮なため第二階層までしか存在していない。
あくまで【イグナ】は、だが。
【イグナ】自体の攻略は一瞬で終わりそうだな。
案の定最短ルートで行ったところ、二十分ほどで第二階層のボスを倒した。
第三階層か……。
どこにあるんだろうか。
全くと言っていい程分からなかった。
ただ、確かにシトリーヌの言っていた通り、魔力の流れはおかしいような気がする。
はっきり見えているわけではないので、どこから狂っているのかは見当もつかない。
「一旦、全部見てみる?」
「そうだな。分からないなら全部確かめるしかない」
レアの提案の通り、俺には全てを見てみる事しか出来ない。
そう思い、ボス部屋から第二階層へと戻った。
徒労だったか。
どこにも無い。
第二階層の全てのルートを見たが、何も異変は無かった。
「何も無かったね」
「ああ。こうなると第一階層か?」
仕方ない。
第一階層に戻るか。
「どこにあんだよ!!」
つい口から大声が飛び出る。
それもそうだろう。
第二階層から第一階層の全てに至るまで確認したはずなのに、どこを見ても第三階層の入口らしきものは見えない。
「……一回シトリーヌに聞きに行ってみる? 疲れたし、休憩したい」
俺は平気だが、レアが動き過ぎて疲弊している。
攻略の数倍もの時間がかかっているため仕方ない。
一度〈エンキュトス〉に戻ってシトリーヌに詳しく聞くしかないな。
「ルクス……。おぶって……」
「しょうがねえな……ほら」
レアを抱きかかえて歩みを進めた。
シトリーヌの位置は《暴食》の魔力を辿って行けば良いので分かりやすい。
昨日とは別の料亭で相変わらず飯を平らげていた。
「おお、カイとレアか。どうした?」
「とりあえず【イグナ】に行ってみたんだが、どこにも下に続くような道は無かった。何となくどこにあるか分かるか?」
「お前ら、もしかして【イグナ】の中から行こうとしたのか? バッカだなぁ、ハハハ!」
何だこいつ。
ぶん殴りたくなる衝動を抑えて話を聞く事にする。
「中から行けるんだったら、とっくに誰かが行ってるだろ。あれはな、外から行くんだよ」
「外? というと……もしかして、火口の事を言ってるのか!?」
「ああ。ぱっと見は何も無かったし、面倒だから行ってねえけど、そっちにある事だけは確かだ」
何でそれを昨日言ってくれないんだよ……。
マジであれは徒労になったじゃねえか。
俺とレアの数時間を返してくれ。
「そうだなあ……。オレもそろそろ腹膨れてきたし、一緒に行ってやろうか?」
「良いのか? 助かる」
「まあ、その代わり、ちょっと頼みがあんだけどさ……」
なんだろうか。
わざわざ俺らに頼むような事があるのか?
「今全然金無いからちょっと出してくれねえか? ちょっとだけだからさ! な?」
あっけらかんとそう言うシトリーヌ。
幾らだろうか……。
これだけの料理となると相当な値段をしそうだが。
「はあ……。幾らだ?」
「多分これくらいだと金貨五枚くらいかなあ。今三枚あるから、二枚出してもらえるか?」
ほぼ半分じゃねえか。
まあ、それくらいなら払えるが……。
「しょうがねえなあ……。しっかり見つけろよ?」
「ありがてえ! ちゃんと働くよ! いやー、どうしたもんかと思ってたんだよな。お前らが来てくれて助かった」
逆に俺らが来なければどうするつもりだったんだろうか。
一か月皿洗いとかか?
《暴食》ともあろう者が皿洗いか……。
《暴食》が故かもしれないが。
金貨二枚をシトリーヌに渡して急かす。
せっせと食べているが、まだまだ料理はあるのでついでに俺とレアも食べてしまおう。
「あっ、それ取っておいたのに!」
「良いだろ、金出してやってんだから。さっさと食え」
少し恨んだ視線を受けながら食事を摂る。
すると、いきなりシトリーヌが噎せだした。
「ゴホッ、ゴホッ。水、水くれ……」
「お前な……。はいよ」
何だか子供の世話をしている気分になる。
子供を育てた経験は無いが。
「ふふ、可愛い」
レアが微笑みながらそう呟いている。
まあ百年は生きている者からすればガキみたいなものか。
実際のところシトリーヌが何歳なのかは知らないが。
無事飯を終え、金を払ってもう一度火山へと向かう。
レアは疲れ果てているので俺の腕の中だ。
そのまま歩いているとシトリーヌから質問を受けた。
「ところでさ、あんたらはどういう関係なんだ?」
「私達は二つで一つ。どんな時も絶対離れる事は無い。ね?」
レアが俺を見ながらそう説明するが、それで伝わるわけが無いだろ。
「ほーん、《大罪》で縛られた恋人みたいなもんか」
伝わったらしい。
何でだよ……。
若干困惑しつつも足を進めていく。
赤褐色をした地面に、まだここらは木が生えている。
【イグナ】は山の中腹ほどにあり、そこら辺まで行くと木は少なくなっていく。
【イグナ】の横を抜け、火口へと向かって行く。
流石に疲れて来たな。
まあ、レアを抱えているからというのもあるかもしれないが。
と思っていたら少し腕を抓られた。
痛い。
程なくして火口まで辿り着いた。
立ち上る煙に噎せそうになるが、何とか下を覗き込んでみる。
「マジでここに入口があんのか?」
「多分な。オレの目にはここが怪しく見えてる」
そう言われても俺には全く分からんな……。
レアなら何か分かるか?
「レア、何か見えるか?」
「んー……。分かんない……あ」
「どうした? あったか?」
「精霊が見える。こっちだよーって、手招きしてるけど……」
何をバカな事言ってるんだ。
火口の中に飛び込めだと?
ほとんど自殺行為じゃねえか。
「ひぇー、オレは行きたくねえな。昔の記憶が帰ってくる……」
シトリーヌはここに捨てられたんだったな。
子供をこんな高さから捨てるなど正気の沙汰でない。
余程シトリーヌが問題のタネだったか、村民の頭が狂ってるかの二択だな。
しっかしどうしたものか。
俺なら熱に耐えられるかもな。
ただ、もし耐えられなかった場合が悲惨な結果を齎す事になるのは明らかだ。
基本的に精霊は聖なるものであるから、人に害するような事はしないはずなのだが……。
「行って……みる?」
レアがそう少し怖気づきながら言って来た。
……仕方ねえな。
最悪《怒気解放》の自動再生で何とかなんだろ。
「行くか……」
「カイ……。一緒に連れてって……」
流石にこの高さから飛び降りるのは怖いだろうな。
良いだろう。
俺が抱えて飛ぶことにする。
「オレもあんま行きたくねえけど、金は払ってもらったしな……。行くか」
「着いて来いよ」
そうシトリーヌに言い残して飛び込む。
レアはぎゅっと目を瞑っている。
ひゅうひゅうと風切り音が耳を劈き、物凄い速さで落ちていく。
足元に溶岩が迫る。
これは終わったか?
そう思ったが、足が溶岩に触れるよりも先に空中で止まった。
「これは……魔力で堅固に作られた床のようなもの……か?」
「助かった……?」
シトリーヌも着地して辺りを見渡している。
「あれ? おかしいな。オレが捨てられた時は溶岩まで落ちた気がしたんだけど」
「実はここに打ちつけられてたんじゃないか? 流石に溶岩に落ちたら死ぬだろ。いやまあ、この高さから落ちても十分死ぬとは思うが」
何はともあれ無事に下まで来れたので先へと進みたいが、俺には精霊が見えない。
レアの目を頼りにするしかないな。
「あっちだって」
レアが一方を指差した。
そっちの方へ進んでいくと、岩に擬態した壁で出来た扉がうっすら確認出来る。
これは分かるわけがない。
「おー、ここなら上から見えないのも納得だな」
「ああ。未知のダンジョン攻略だ。気を引き締めて行け」
もしかしたらここにも《大罪》に関する情報が残されているかもしれない。
見逃さないようにしなければ。




