第二十九話 【王立大書庫シュターツ・ビブリオ】
ギルド長室へと転移魔法陣で戻り、昼食を摂ってからギルドを後にした。
もし今後《大罪》で困った事があれば是非とも頼って欲しいとの事だ。
暇なときにでも情報提供してやるか。
「レア。どこか行きたいところはあるか? そろそろ〈ヴァルグレイア〉を出ようと思ってるから、行くなら今の内だぞ」
「じゃあ、前言ってたあの図書館行きたい」
「図書館……。ああ。【王立大書庫シュターツ・ビブリオ】か。すぐそこだな」
国が建てているだけあって、数万冊を所蔵している図書館となっている。
製本は大変な上に職人が少ないからな。
普通の図書館では多くて数千、数百なんてのがざらだろう。
王立大書庫もギルドなどと同じく中央広場に隣接している。
歩きでもすぐに着いてしまう。
【王立大書庫シュターツ・ビブリオ】と大きく掲げられた看板の下を通り抜け、中へと入っていく。
下から上まで吹き抜けで壁が本棚になっており、部屋中を魔道具が飛び回っている。
本に魔力が登録されているため、司書に言えば対応した本を取り出してくれる。
更に全ての本の表紙とあらすじが載せられているカタログがあり、知らない本でもさっと見て読む事も出来る。
このシステムを作ったのはイザークであり、今はアルウィンというかつての弟子が継いでいるらしい。
「凄いね。これを、あの人が作ったの?」
「らしいな。実際、魔道具が普及するようになったきっかけはイザークだったはずだし、相当な天才なんだろう」
魔力効率や生産コスト、更には一番のネックだった耐久性までもを改善したという話を聞いた事がある。
何故あんな所で行方不明として研究ばかりしているのだろうか。
レアはカタログを見て目を輝かせている。
可愛いな。
この知的探求心が、レアの才能を最大限に発揮させているのだろう。
いつの間にかカウンターへと行き、数冊の本を抱えて帰って来た。
一冊一冊が物凄い分厚さをしている。
恐らく魔法に関する過去の論文集などだろうか。
「すげえな。それ全部読むのか?」
「うん。面白そうだったから」
長い間人の世から離れていたのであれば知らない事も多いだろう。
流石にこんな重そうな本を持たせておくのも可哀想なので、レアにすっと手を差し出して本を受け取る。
「確か二階に読書スペースがあった気がするから、上行くか」
「ん」
上機嫌で俺の腕に絡みつきながら歩いている。
何となく視線を逸らして前を向く。
階段を上って、二階の適当に空いている席に本を置いてから座る。
俺は何をしようか。
数時間経ち、レアがようやく全て読み終わったようだ。
俺はというと、主に体術などの参考書を読んでいた。
基礎的なものすら知らないので、多少は参考になった。
「面白かったか?」
「ん。昔とは全然違って感動した」
確かに数十年で魔法は大きく成長した。
魔道具の進化は主にイザークだが、魔法の研究をしているのはまた別の人物である。
名前は覚えていないが。
刹那、二人に一つの信号が走る。
「! レア……。これは」
「……《大罪》の魔力。凄く近い」
自分達の近くからいきなり《大罪》の魔力が発せられた。
しかしその居場所は、特に探す必要も無かった。
「皆の衆! 全く、勤勉だね。まあ、無能なのには変わりないが」
一階から何やら声が聞こえてくる。
覗き込むと、一人の青年が数人の仮面をつけた人を従えて何やら言っていた。
「さて、僕は君達のような矮小な者に興味は無い。僕が探しているのは――」
青年の姿が消えた。
そしていきなり真横に現れる。
更には唐突にレアの手を取った。
「貴方がセレネヴィア・フォン・アルクティア様ですね。嗚呼、何と美しい。是非とも、私の妃となって頂きたい」
「え、やだ」
そうレアに一蹴され、手をぺいっと振り払われる。
レアの表情は不快感や嫌悪感に染まっており、先程までの輝かしい笑顔が消えてしまっている。
これはいけない。
「とりあえず外出ろよ。な? ここじゃ被害が出る」
青年の肩をぽんぽんと叩きながら外に出るように促す。
確実にこいつが《大罪》の継承者だ。
もしこいつと戦闘になって本が壊れでもしたら、俺達に文句が来る。
それは避けたい。
「はあ? 貴様に用は無い。黙っていろ」
今すぐ殺してやろうかこいつ。
流石にそれはダメだと怒りを抑える。
まあ、何故今こんなにも俺に余裕があるのかといえば、俺とこいつには圧倒的な力量差がある。
何となく魔力の雰囲気で俺より上なのか、それとも下なのかが分かるようになってきた。
そして、この青年は確かに大きな魔力を宿しており多少は強くはあるんだろうが、それでも俺の方が強い。
「ふう。レア。外出んぞ」
「……ん」
仕方ないのでレアを連れて出る事にする。
勿論先程借りた本を持って、返してから外へ出る。
青年はその間もずっとレアの横に来ようとしていた。
外へ出たので、ようやく十分に暴れられる。
「おい、てめえ。まずは名前名乗ってからだろうが」
「だから、貴様に用は無いと言っている。だが、貴様の言う通り名乗りを忘れていたな。セレネヴィア様、私の名前はシグ・アルクトスと申します。気軽に、シグとお呼び下さい」
そう言いながらレアに触れようとするので、《怒気解放》を発動させてシグとやらの腕を掴む。
「なあ。俺の女に、何許可なく触れてんだ? おい」
「貴様……。《大罪》の継承者だか何だか知らないが、邪魔するな」
それでも尚シグが睨みつけてくるので、腕を思いっきり握ってみる。
「クッ」
お、結構良い音するじゃん。
バキッ、だのガキャッだの。
そういえばあまり骨の折れる音って聞いた事無かったな。
「邪魔するなと言っている。さっさと離せ」
「自分の力で抜け出せよ。それとも出来ないのか? 雑魚が」
そう口にした瞬間、シグの身体から魔力が溢れ出てくる。
どこか《怒統環界》のような領域を発生させている。
「貴様……! 遮る上に侮辱だと……。この僕を? ふざけるな」
シグの体内に循環する魔力が増えている。
だが、俺には敵わないな。
そういう風に思っていると、突然殴りかかって来た。
が、さっと避けて、続く打撃を受け止める。
「はは、おい。それが全力か? 【ノクティルム】のボスの方が強かったぞ」
「クッ……。セレネヴィア様、何故このような者と共にいるのですか! 貴方は高貴なるお方だ、貴方の横には同等の者がふさわしいでしょう!」
シグが少し退いてレアに話しかける。
それにレアが凄く嫌そうな顔をして返す。
「何で私を否定する者ばかりの場所に帰らなければならないの? カイは私の事を一番に考えてくれるし、戻る理由なんか無い。それに、昔の名前で呼ばないで。嫌いだから」
そうまくし立てると、シグはどう返答したものかと狼狽している。
しかし、レアは余程過去が嫌いなんだな。
先程からレアから不快だという感情が共有されてくる。
そこまで嫌いならば名前を捨てたいという気持ちも分かる。
「し、しかし……。では、アルクティア家に帰る必要はありません。このムート王国で私と共に過ごしましょう。それならいかがですか?」
「しつこい。黙ってもらえる?」
「そ、そう言われましても……」
きっぱりと否定するレアに食い下がるシグ。
そうだな、少し助けてやるか。
「おい、シグ。てめえが俺に勝てたらレアを連れて行っても良いぞ」
「!?」
一瞬でこっちを向くレア。
まさかそんな事を言われるとは思っていなかったようで、捨てないでとでも言うかのようにしがみついてくる。
「おいおい、俺が負けるわけないだろ?」
「それはそうだけど……むう」
納得いかないのか俺の背中に顔を埋めてしまった。
「はは、大丈夫だ。任せておけ」
「……絶対勝ってよ」
少しの怨恨を感じるが、まあ何とかなるだろう。
シグはというと、もうやる気十分のようだ。
レアが自分の嫁にでもなる妄想でもしてんだろう。
絶対にやらねえけど。
「おい、シグ。もっと戦うのに適してる場所は無いのか?」
「あるとも。本来ならば、君のような低俗な者が入れる場所ではないのだが、特別に入れてあげよう。こっちだ、着いてこい」
手招きをして王立大書庫の中へと入っていく。
図書館の中にあるわけないだろ……とも思うものの、そういえば先程あいつはいきなり図書館の中に現れた。
そういう部屋があってもおかしくないだろうな。
少しふてくされているレアを宥めながらシグの後を着いていく事にする。




