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第二十八話 《憤怒》と《嫉妬》

 その後も書斎や部屋に残された資料などを読んでいると、いくつかの事が分かった。


 どうも《大罪》というものは世界における異常らしく、成長すると世界線に干渉するようになってしまうらしい。

 そのため、異常を取り除く為の防衛機構のようなものが発展した文明を破壊するのだとか。

 その度に《憤怒(ラース)》と《嫉妬(エンヴィ)》がその防衛機構と戦う事になるようだ。


 防衛機構に勝つ事で世界の収束を免れるのだろう。

 恐らくだが、《憤怒》と《嫉妬》だけがそれを先導出来るのではなく、他の《大罪》では敵わないのではないだろうか。


 複数の世界線が存在するのならば、一つくらいは全員が協力するような世界線もあると思うのだが、そういう場合は負けてしまうんだろうな。

 だからこそ《憤怒》と《嫉妬》のみが協力し、他の《大罪》に勝った世界線のみが生き残ってこのように情報を残しているのか?


 だとするならば、あの怒剣から聞こえる声は別の俺なのか?

 いや、怒剣が俺だという確たる証拠は無いし、声も全く違う。

 まあ、俺だったとして何だという話ではあるのだが。


「ルクス。さっきのあの剣、抜けないの?」


「え? ああ、あの蔦に巻かれた怒剣か」


 確かに怒剣であるならば抜けるのか?

 〈ダリウム〉にあったものは実体が無かったから触れなかったが、ここに刺さっている物は実体を持っている。

 ならば抜けるのではないだろうか?


「確かに、抜けるかもしれないな。試してみるか」


 大広間へと戻り、蔦が巻かれている怒剣を引き抜こうとしてみる。

 が、《嫉妬》の魔力で作られた蔦が強固に張り付き、びくともしない。


「過去の《嫉妬》が作ったものだったら、私が何とか出来るかも」


 レアがそう言いながら蔦へのアクセスを試みる。

 しかし洗練された魔力構成のせいか、中々干渉が難しい。


「凄い……」


 レアが感嘆の声を零した。

 それもそうだろう。

 自分と同じ能力だというのに、ここまでの差を実感しているのだ。

 同時に自分の極限を知る事も出来ている。

 これ以上に成長できる機会はそうそう無いだろう。


『嫉妬の継承者よ。汝の妬みは更なる道を切り拓く。遥かなる高みを超越すべく研鑽を積み重ねなさい』


 女性の声が脳内に響く。

 レアの身体から魔力が迸り、密度が濃くなったように感じる。

 そしてもう一度蔦への干渉を試みる。

 すると、難儀はしているものの、少しずつ蔦が魔力となって消えていく。


「もう……ちょっと……!」


 柄の辺りから刃まで段々と消え、遂には完全に取り除かれた。

 これなら抜けそうだな。


「レア。よくやったな」


「うん。頑張った」


 疲れてぺたんと座っているレアの頭をぽんと撫で、剣へと手を伸ばす。

 しかと掴み引き抜くと、怒剣と似た様な声が聞こえて来た。


『憤怒の始祖エレボスよ。……違うな。貴様は誰だ?』


 怒剣が困惑したように問うてくる。

 まあ、この剣の所持者は俺じゃないからな。


「俺はルクスだ。現在の《憤怒(ラース)》を継承している」


『……そうか、エレボスはもういないのだったな。であれば、エレボスの意思を継ぎし者ルクスよ。汝が正なる道を進むならば、この《怒剣ネメシス》を振るう事を認めよう』


「助かる。……一つ聞きたいんだが、何故ネメシスは自我を持っている? ラグナ・レイジは会話など出来ないぞ」


『それはエレボスが憤怒の極致へと至ったからよ。汝のラグナ・レイジとやらも、いつかは成るだろう』


「成程な。俺はまだお前の全力を引き出せないかもしれないが、よろしく頼む」


 そう怒剣と会話していると、レアがふと気になったのか怒剣に質問した。


「……ねえ。その、エレボスさんって人は、《嫉妬(エンヴィ)》とどういう関係だったの?」


『ああ、汝は《嫉妬》の継承者か。《嫉妬》の始祖はエリスという。エレボスの唯一の理解者にして、伴侶よ』


 それを聞いて安心したのか、レアは感謝を伝えながら俺の腕を組んで手を繋ぎだした。


『すまないが、我は長らく封印の身であったがために力が不十分である。だが、ルクスが危機の際には呼び出すと良い。では、さらばだ』


 そう言い残して、ネメシスは魔力へと霧散し消えていった。

 まさか過去の、それも始祖の怒剣が俺の力となってくれるとは思わなかったな。

 どんな力を秘めているのかは分からないが、必ず俺を助けてくれるはずだ。


「……ね、ルクス。本当に《憤怒》と《嫉妬》は一つだったんだね」


「ああ。まあ、別に俺はお前が《嫉妬》じゃなくても良いけどな」


「だけど、私が《嫉妬》じゃなきゃ会えなかったし、ルクスが《憤怒》じゃないとダメだったよ」


 それもそうだな。

 俺が経験した苦痛も、レアが消し去りたい過去も、全て必要なものだった。


「でも、エリスさんは良いなあ……。エレボスさんと二人だけだもんな、妬いちゃうなぁ……」


「おいおい、俺もちゃんとレアを見てるだろ?」


 少し冷や汗をかきながら返すも、レアは更にからかうように続ける。


「それでも、私だけじゃないでしょ?」


「うーん、そうだけど、でもな……」


 そうやって困っているルクスを見て満足したようで、レアは少し微笑みながら返した。


「まあ、私がエルナを認めたんだから、ルクスは悪くないよ」


「おお、そうか……」


 よく分からないな……。

 俺は悪くないらしいし良いか。


「どうする? あらかた見たし、上戻るか?」


「ん。おかげで色々知れたし、強くなった。もう十分」


「そうか。エーヴァルトー! どこだー!」


 大声でエーヴァルトに呼び掛けると、奥の方からちょっと待ってー! と聞こえて来た。

 書物を読み漁っていたようで、少し焦りながら走って来た。


「ごめんね、少し集中していたよ。あれ、ここにあった剣はどうしたんだい?」


「ああ、レアに蔦を解除してもらって引き抜いたら、《憤怒》の始祖が使っていた《怒剣ネメシス》だった。継承者たる俺に力を貸してくれるんだとさ」


「本当かい! あれが、《怒剣ネメシス》だったのか……。もしよければ見せてくれるかな?」


「ネメシスじゃなくて、俺の使っている《怒剣ラグナ・レイジ》で良ければ見せてやるよ。どうも力を溜めるために今は顕現出来ないみたいだからな」


 そう言いながらエーヴァルトに《怒剣ラグナ・レイジ》を顕現させて見させる。


「凄いね……。近づくだけでこの熱気が……おや、刃に何やら刻印がされてるじゃないか。これは……ルクス?」


「俺の名前だな。という事は、ネメシスにも刻印があるのか? 今度見てみるか」


「ああ、君のか。《憤怒》の始祖の名前はどの文献にも《憤怒》の祖としか書かれていないから気になるね」


「それならさっきネメシスから聞いたぞ。エレボスというらしい」


「え? ちょっと待ってくれ、どういう事かな?」


 困惑するエーヴァルトにさっき起きた事を説明する。

 怒剣に自我がある事やエレボス、エリスについてを伝えてやった。

 初めて聞いたらしく、驚きが顔に凄く表れていた。

 その様子はとても面白く、レアと笑い合いながらエーヴァルトを眺めていた。

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