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第二十六話 真実を視る瞳

 ミレイナが撤退し、反応が感知されなくなった。

 一安心して地上へと戻り、《運命の輪シックザールスクライス》と合流した。

 レアも自分で歩ける程度には回復したようなので降ろしてやる。


「ルクス! 大丈夫? あの女の人は……」


「あいつは逃げた。俺の勝ちだ」


 ……まあ、本当に勝ちかは定かでないが。

 兎に角、問題が解決されたのには変わりない。


 第三階層の転移魔法陣で帰還したため、辺りにはミレイナの影響を受けた者達を保護して帰って来た冒険者達も多くいる。

 さて、どう誤魔化したものか。

 そういう風に考えていると、副ギルド長のエーヴァルトが話しかけた。


「君、パーティKのカイ君だね? 申し訳ないけど、レア君も連れて着いてきてくれるかな?」


 ……逃げられなさそうだ。

 恐らくだが、俺が出てくるよりも前に大半は撤収していたんだろうな。

 それに、エルナ達が転移魔法陣ではなく《帰途の楔(ウェイバック・ピン)》で帰って来た事もあるだろう。

 仕方ないか。


「ああ。レア、行くぞ」


「……ん」


 衆目に晒されながらギルドへと入り、そのまま上階の応接室へと向かう。

 接待用という事もあり、少し豪華な椅子や机だな。

 エーヴァルトが椅子を引き、俺達に座るよう合図する。


「どうも」


「ああ、そんなにかしこまらなくて良い。知ってはいると思うが、私も元は冒険者だ。礼儀など気にしなくても大丈夫さ」


 俺もそこまで礼儀正しくなどない。

 冒険者なんていうものはそんなものだ。


「さて、単刀直入に聞くよ。君達が下層にいた元凶を倒したのかな?」


「……倒したわけではない。瞬間移動系の技を持っていたようで、あと少しのところで逃げられた」


「ふむ。相対して、勝てそうだったという事か。成程、彼らの言っていた事は正しいようだね」


 彼ら?

 エルナ達だろうか。

 あいつらはそんな事しないだろうが。


「誰から聞いたんだ?」


「実は君達が出てくる直前くらいで我を失っていた冒険者達が急に正気に戻ったんだよ。で、エルナ君だったかな? 彼女達が一緒に連れて来た冒険者達が炎を扱う男と茨を扱う少女、そしてエルナ君らに助けられたと言っていたんだ」


 成程、ミレイナのスキルが切れたんだな。

 それで冒険者達が俺達について話したというわけか。

 いや、我を失ってるくせに記憶はあるのかよ……。


「……そうだな。俺とレアがやった」


「別に責めているわけではないさ。寧ろ君達には深く感謝している。我が街の冒険者をほぼ無傷で帰してくれたんだから」


 そうか。

 ならば良い。


「君達が《帰途の楔(ウェイバック・ピン)》なんて高価な物を持っている事やC級パーティに見合わない実力を持っている事は深くは聞かない。でも、一つだけ聞きたい事がある」


 何についてだろうか。

 ミレイナについてか?

 《大罪》に関しない事なら別に話せるが。


「もしかしてなんだけど、下層にいた元凶は《大罪》について語ったりしていなかったかい?」


「……!」


 エーヴァルトが何故《大罪》について知っているのだろうか。

 記録士として情報収集していた俺でさえ、《憤怒》と出会うまで聞いた事も無かったのに。


「その反応は肯定と見做して良いかな?」


 エーヴァルトの顔付きが先程と変わって真剣になる。

 いや、まだ俺とレアが《大罪》を所持している事はバレていないはずだ。

 焦る必要は無い。


「ああ。下層にいたのは長身の女だった。《色欲(ラスト)》がなんだとか言ってたな」


 少しはぐらかして説明する。

 詳細を伝えてやる必要は無い。


「ふむ。《色欲》か。確かに《大罪》の一つだね。他には何か無いかい?」


「知らんな。俺達はただその女と戦っただけだ」


「へえ。常人を圧倒的に凌駕する力を持つ者と? そりゃあ凄いね」


 クソ。

 流石に言い逃れる事が難しい。


「俺には分からん。ただあいつが戦闘は不向きだっただけなんじゃないか?」


 実際には近接戦闘も中々に強かったが。

 エーヴァルトは《色欲》のスキルなど知らないはずだ。


「カイ君。嘘をついているね?」


 ……!?

 何故分かった?

 つとめて平常でいたはずなのに。


「ごめんね。私には《真虚裁審(ヴァールハイト)》というスキルがあって、嘘は分かってしまうんだ」


 チッ。

 スキル所持者だったか……。

 常人は持っていない物だが、元A級冒険者ともなれば持っていてもおかしくはない。


「はぁ、分かったよ。で、何が聞きたいんだ?」


「はは、一つだけ聞きたいと言っておいて申し訳ないが、質問させてもらうよ。君、《大罪》を持っているね?」


 勘が鋭いな。

 もう諦めるしかないか。


「……ああ。俺は《憤怒(ラース)》を身に宿している。他には?」


「レア君。君もだね?」


 レアにも聞くのかよ。

 ……まあ良いさ。

 やりたくは無いが、必要なら殺してしまっても良い。

 エーヴァルトが俺達に敵対するのなら、な。


「ん。私は《嫉妬(エンヴィ)》」


「だろうね。正直、初めて見た時から薄々気付いてはいたよ。ああ、安心してくれ。私は君達について吹聴するような事はしないし、この部屋には既に隔離魔法をかけている」


 ……あくまでも秘匿はするのか。

 しかし何故エーヴァルトが《大罪》について知っているのだろうか。


「なあ、俺からも聞いて良いか?」


「勿論だとも。私ばっかり質問するのでは不公平だからね」


「何故《大罪》について知っている? 常人には知り得ない情報のはずだが」


「それはね、後日君達を連れて行こうと思っている場所にあるよ。君達は、【ノクティルム】には第六階層の下、隠匿された“第七階層”がある事を知っているかい?」


 第七階層だと?

 探知魔法には引っかからなかったし、《大罪》の魔力も感じない。

 そんな場所に《大罪》に関する情報があるのか?


「まあ、知らないよね。第七階層には私とロザリンデ、イザークしか入った事が無いから」


 【ノクティルム】を最初に攻略した者達か……。

 であるならば、その三人が隠したというのか?


「第六階層を攻略して転移魔法陣で帰ろうと思った時に、イザークが魔法陣に細工されてる事に気付いたんだ。で、それを弄ったら入口ではなく第七階層に辿り着いたってわけさ」


 成程。

 だったら【ノクティルム】は作られた迷宮だったのか?

 過去の大罪が作ったとして、何を残すためになのだろうか。


「そこで君達と同じような魔力を感じたよ。だから分かった。そして何故か、君達を第七階層に連れて行かなければいけない気がするんだ。本当に、何でかは分からないんだけども」


 第七階層には《憤怒》と《嫉妬》に関するものがあるのか?

 《大罪》は惹かれ合う関係にあるが、それが常人のエーヴァルトにも伝播しているようだな。

 《大罪》に関する情報があるのであれば一刻も早く行ってみたいものだが。


「で、いつ連れてってくれるんだ? その第七階層とやらに」


「すまないが、今回の件の処理があと数日は終わりそうになくてね。そうだな、五日後の昼にギルドの受付で僕を読んでもらえるかな? 職員の皆には君達を通すよう言っておくよ」


「分かった。五日後だな。……俺達については黙っておいてくれよ? 一応、訳ありの身分なんだ。情報が流出しようもんなら……分かってるな?」


「はは、怖いね。最初からそんな気は毛頭無いさ。それに、未だ命は惜しいしね」


 黙っておいてくれるのならそれで良い。

 五日後か……。

 暇だな。


「カイ。お腹空いた」


 レアの腹が鳴っている。

 俺も結構空腹だ。

 話も一段落したし、さっさと飯にしよう。


「だな。じゃあ、エーヴァルト、さん? 五日後に来る」


「ははは、呼び捨てで良いよ。すまないね、時間を取らせてしまって。出来るだけ早く仕事を終わらせておくよ」


 部屋から出る俺達を軽く手を振って見送るエーヴァルト。

 ……信用は出来ないが、疑うような真似はする必要が無さそうだ。

 第七階層か。

 何があるのか、気になるな。

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