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第二十五話 《貴方と私だけの園》

 レア……。

 レア、嘘だろ。

 ずっと俺と共にいると、そう言ってくれたじゃねえか。

 俺から名前を貰って、あんなに嬉しそうで、最初は疑ってたけど、本気で俺の事を思ってくれてて。


 俺の為に命を張ってもらったのに、俺はまだお前に何も返せてねえよ。

 確かに問題は起こすけど、全部俺の事を想っての事だった。

 俺はお前のいない世界で生きていきたくない。

 何をするにしてもお前がいて欲しい。

 いや、いなきゃダメだ。

 レアがいないと俺は、何も出来ない。


「ふふ。怒りもまた欲よ。貴方の欲をもっと曝け出しなさい!」


 ミレイナが更にレアに追撃をしようとしている。

 やめろ。

 まだ助かる。

 それ以上はさせない。


 王都地下迷宮で誓ったあの想いは果たせないのか?

 何と嘆かわしい。

 何と情けない。

 たった一人の大事な人を守る事さえ出来ないなど。


 頼むから致命傷は避けていてくれ……。

 必ず、こいつを殺してお前を助けてやる。

 だから、間に合え――!


 ルクスの強い気持ちに、《憤怒(ラース)》だけではない何かまでもが語り掛ける。


『『憤怒の継承者よ。汝の弱さを認め、それでも未来を求める者にのみ奇跡は存在する。汝の激情は更なる力を生むであろう』』


 怒剣の声以外にも、前にも聞いた女性の声がする。

 レアの《嫉妬(エンヴィ)》と同じような魔力を感じた。


 脳内でガチンと音が鳴り、《怒気解放(ブレイズギア)》を含める魔力の段階が更に上がる。

 それはルクスだけでなかったようで、レアの身体から強烈な《嫉妬》の魔力が溢れ出る。

 ミレイナが危険を察知して少し距離を取る。

 その隙にレアに駆け寄り、支える。


「……クフッ、大丈夫だよ、ルクス。私が死ぬのは貴方が死んだとき。……でも、ごめんね、今は戦えない。だから、これで頑張って」


「無理に喋るな。必ず、必ずあいつを殺して帰るぞ。約束だからな」


 幸い死には至らなかったが、それでも生命の危機に瀕する攻撃を治すのには力の大半を使ってしまう。

 次はもう無い。

 そういう風に思っていると、レアが一つの言葉を紡いだ。


「……《貴方と私だけの園ジャルダン・ダンテルディ》」


 迷宮の中だというのに、いきなり足元に草花が生えだした。

 深緑の草に紅の花、それだけではない。

 それはまるで、俺とレアを表しているようだった。

 そして同時に身体が凄く軽くなった。

 魔力がみるみる回復していく。


「レア……これは」


「……私とルクスしか入れないよ。だから、安心して戦って」


「ああ、待ってろ。すぐに戻る」


「うん。ルクスのかっこいいとこ、見せて……?」


 はは。

 そう言われてしまってはやるしかないな。

 しかし、レアが生きていて良かった。

 これで真面に戦えるな。


「――ミレイナ。てめえは絶対に殺す」


「こわーい。ふふ、やれるものならやってみなさい」


 容赦はしない。

 俺の最大火力を持ってこいつを屠る。


「《怒統環界(ラース・ドミネイト)》」


「《色炎解放フラムギア》。全解放(フルスロットル)!」


 紅と桃の魔力がぶつかり合う。

 レアの《貴方と私だけの園ジャルダン・ダンテルディ》で回復したおかげか、今なら圧倒出来る。

 恐らくだが、これはレアの力を俺に貸している。

 実際、紅の魔力だけではなく、若干深緑が混ざっている。


 レアを今までで一番近くに感じているような気がして、段々と心が落ち着いていく。

 暴走しそうだった怒りを正しい方向へと導いてくれる温かみがある。


「つまんないわね。さっきはあんなに良い顔をしていたのに」


 また、いつの間にか俺の後ろへと回っている。

 どのようにして避けているのかは全く分からない。

 だが、確実にこいつは疲弊している。

 魔力に若干の揺らぎがある。


「逃げるなよ。お前を殺せないだろ?」


「避けるに決まってるじゃない。死にたくはないもの」


 ならば避けられないようにするまでだ。

 推測だが、瞬間移動の類ではないように思える。

 あれは魔力反応が点から点に飛ぶ。

 だが、ミレイナの動きはいきなり飛ぶのではなく、超速で動いているような気がする。

 であるならば囲ってしまえば良い。


「《|怒統環界=第二相《ラース・ドミネイト=イクシード》》」


 放たれた魔力が燃える。

 ルクスを中心に前後の通路を塞ぎ、少しずつ狭まっていく。


「これなら逃げられねえよな?」


「うーん、不利ねぇ……。どうしたものかしら」


 ジリジリと距離を詰めていく。

 しかし、不意にミレイナの身体が霧散して桃色の魔力と化した。

 そして囁くような声だけが残った。


「楽しかったわ。また、あの顔を見せて?」


「チッ、クソが。一気に遠く行きやがった」


 ただ動いているだけではなかったのか?

 分からないが、撤退したのならば早くレアを治してやらなければならない。


「レア、大丈夫か?」


「……うん。何とか。……ルクス、私の為に怒ってくれてありがとう」


「当たり前だろ。俺にはお前がいないとダメなんだ」


 今までルクスからそういった言葉を聞いた事がなかったのか、ぼんと顔を赤らめ、少し俯く。

 そして不意にルクスへと口づけをした。


「ちょっ、お前。いつもいきなりだなあ」


「仕方ない。ルクスのせい」


「えぇ……。まあ、いい。さっさと帰るぞ」


「ん。お腹空いた」


「はは、そうだな。あー、ていうか、なんて報告したもんかなあ……」


 レアを抱きかかえ、帰った後の事を心配する。

 《憤怒》と《嫉妬》。

 二つの《大罪》の結びつきは更に強固なものとなった。






 【ノクティルム】第四階層にて。


「ふぅー。危なかったわね」


 《艶駆瞬影(ラスト・シルエット)》のお陰で何とかなったけど……。

 危うく、私の目標がこんなところで頓挫してしまうところだったわ。

 あの子、ルクスって言ったかしら?


 欲しいわぁ。

 凄く良い顔をするんですもの。

 私も、自分の為にあんな顔をしてくれる殿方が欲しいものですけど。


 《渇欲曝解(デザイアブレイク)》を使ってしまえば、皆性欲の赴くままに私を襲おうとするばかり。

 剥き出しの感情で大切にしてくれる方が良いわ。


 それで言えば、あの女の子も良かったわね。

 ルクスを安心させる為にあんなに無理して笑顔作っちゃって。

 実際のところ、どれだけ苦しんでいるのかしらね?


 《色欲》の魔力を纏った扇で斬りつけたんですもの。

 《渇欲曝解(デザイアブレイク)》よりも強く欲が溢れ出すはずなのに。

 それとも無効化されちゃったのかしら?


 分からないけれど、いつかあの二人を手に入れたい。

 暫くはそれを目標に頑張りましょう。



 鼻歌を歌いながら《色欲》は闇と共に溶けていった。

 行く先は本人にも分からないが、世界に災害を齎す愉快犯の姿は正に《大罪》と呼べるだろう。


 人を魅了し、欲を曝け出させ、選別する。

 ミレイナの欲するような人物はいるのだろうか。

 それも不明なまま、ただルクスとレアを手に入れる為に混沌を引き起こしていくだろう。

 《色欲》は己の欲のままに生きている。

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