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第二十四話 《色欲》との邂逅

 少しの休憩の後、第四階層へと進む。

 魔力の流れから確信する。

 確実に、第四階層に《大罪》がいる。


「もしかしたら奇襲されるかもしれない。全員、気を付けながら進んでくれ。万が一危険そうだったら、迷いなく《帰途の楔(ウェイバック・ピン)》を使って逃げてくれ」


「うん。分かった。でも、私達も精一杯ルクスの援護はするよ」


 エルナがそう言うも、申し訳ないがエルナらでは役に立たない可能性が高い。

 何せ冒険者を半ば操っているのだから、こいつらでは恐らく対抗出来ないだろう。


「ああ。だが、俺が逃げろと言ったら絶対に逃げてくれ」


「勿論、邪魔はしないよ」


 こいつらが無事に帰れれば良いのだが。

 仕方なく眠らせて引きずっている冒険者達もいるしな。


 さて、何となく《大罪》がどこにいるのか分かった。

 魔力の発信源が数百m程先にある。

 これ程濃く、《憤怒》が反応している魔力は《大罪》以外にあり得ないだろう。


 しかし。

 しっかりと警戒をしていたはずなのに。


「カハッ……」


「フリード!」


 何故だ……!?

 探知魔法は確かに遠くに反応を残していたはずなのに。

 だが、フリードは確かに今、死にはしないでも喉を切られている。


 リーゼルが必死の形相で治癒魔法を行使している。

 仕方なくエルナに撤退の指示を出す。


「エルナ! 逃げろ!」


「う、うん。分かった」


 エルナが《帰途の楔(ウェイバック・ピン)》を取り出して床に打ち込む。

 本来ならば次元の裂け目が生成されるはずなのだが。

 裂け目が開いたものの、すぐに閉じてしまう。


「何、これ……。糸……?」


 チッ。

 クソ、そういう事か。

 第一階層のボス、タナトスピアが縫い留めていやがる。


 ボスは迷宮の意思であり、守護者。

 実体は存在せず、別次元にあるとされていたが……。

 まさか、そいつらが干渉してくるとは知らなかった。


「《怒炎顕現(インパルスフレア)》!」


 辺りを警戒しながら糸を燃やせないか試してみる。

 が、すぐに修復されてしまう。


「どうしたら良いんだ……」


「私に任せて。固定出来ないか試してみる」


 レア……。

 空間魔法にも精通しているレアならば何とか出来るかもしれない。

 ここは大人しく任せよう。


「ああ、頼む。俺は……来ている冒険者共を制圧する」


 今までは一人ずつだったが、恐らく十数人はいる、

 さて、どう無力化したものか。

 別に殺す必要は無いからな。

 寧ろ生かす方が難しいが、何とかしてみよう。


 やはり冒険者達は操られているというよりかは、自我が剥き出しになっているような感じがする。

 であるならば恐怖心も、もしかしたら常人よりも感じやすいのでは?

 だったら今一番効果的なのはこれだな。


「《怒統環界(ラース・ドミネイト)》」


 出来るだけ通路を塞ぎ、冒険者達がレア達に関与出来ないようにする。

 効果てきめんだったのか、大半の冒険者は止まった。

 それでも三人前に進んできている。

 仕方ないが、歩けないようにするか。


「来い。《怒剣ラグナ・レイジ》」


 怒剣を顕現させて冒険者達に近づき、さっと足の健を切っていく。

 斬りかかってくるが、すらりと避けながら全員を転がして処理する。


「レア! あとどれくらいかかりそうだ?」


「……よし、出来た。早く入って」


 もう出来たのか。

 三人が必死に冒険者達を詰め込んでいく。

 レアも今来ている冒険者達を捕らえて放り込んでいる。


 後は、どこから来るか分からない《大罪》を警戒するべきだな。

 さっきの奇襲は一体どうやったんだ……?

 未だ魔力源は遠いままなのに。


 そう考えつつ思考していると、突然、冒険者が来た方から声がしてきた。


「あら、少し座標がずれてたみたいね。貴方を狙ったのに」


 腰までかかる長さの桃色をした髪に、少し露出が高めの服を着た女性。

 間違いない。

 こいつが《大罪》の所持者だ。


「……お前は、何が目的だ?」


「私の目的が気になるの? 教えてあげる。私は、世界中の人に人らしく生きて欲しいだけ」


 何を言っているんだ。

 今はもう全て上に送られてしまったが、あの冒険者の様相が人らしいだと?

 全く理解が出来ない。


「人らしい? どこがだ。俺にはお前の言っている事が分からない」


 とりあえず会話を続けて全員退避するまでの時間稼ぎをしよう。

 一応、こいつの行動理由も知っておきたいしな。


「皆、自分を抑えて生きてるでしょう? 好きな人とあんな事したいだとか、全部滅茶苦茶にしたいだとか。私にはその生き方は、綺麗に見えないわ」


「何を言う。自制が取れていなければ人は人足り得ないだろうが」


「あら、貴方がそれを言うのかしら? 《大罪》を犯しているのに?」


 ……それを言われると俺には何も言えないが。

 だが、それは俺が《憤怒(ラース)》を手にしているからであり、一般論としては女の言い分は間違っていると思う。


 そろそろ全員退避が終わったかと思い、振り返ると丁度エルナが最後に入っていく途中だった。


「確かに俺は怒りを力にしている。それは認めるが、それでもお前は間違っていると否定する。……お前の理想を実現したければ、まずは俺に勝つ事だ」


「そうねぇ、私もそれが一番簡単で分かりやすいと思うわ。ねえ、貴方の名前を教えて?」


「……《憤怒》の継承者、カイだ。お前は?」


「ありがとう。私は《色欲(ラスト)》の継承者、ミレイナ・アスモディア。さあ、始めましょう!」


 名乗りを終え、ミレイナが扇を取り出して構えると同時に魔力を練りだした。

 何が来るか分からないので、とりあえず《怒剣ラグナ・レイジ》を構えて待つ。


「《渇欲曝解(デザイアブレイク)》!」


 ミレイナから桃色の魔力が溢れ出しこちらへ向かってくるので身構える。


「……?」


 何も起きないが?

 いや、遅効性の何かかもしれない。


「あらぁ、やっぱり効かないのね。流石に、《大罪》持ちの感情は強固だわ」


「何をしたいのか分からないが……。ともかく、来ないならこっちから行くまでだ!」


 《怒気解放(ブレイズギア)》を発動させて近づく。

 そのまま何度か斬りかかるもひらりと避けられる。


「単調な動き。速いけど、私には届かないわ」


 クソ、あとちょっとが足りない。

 いや、恐らく足りていないのではなく、こいつが最小限で避けているのだろう。

 目が良いな……。


 そのまま攻め続けるも、決して届かない。

 と思っていると、後ろから茨が飛んでくる。

 レア、良い援護だ。


「女性に対して二人がかりだなんて卑怯だと思わない? まあ、私はそんな柔じゃないけど」


 流石に近接戦闘の継続は不利と判断し、ミレイナが魔力を練りながら後退する。

 そして桃色の炎によって距離を取られる。


「《色炎顕現(ピュルシオンフランベ)》!」


 あいつも炎を使うのか。

 ならば俺も炎で対抗してやろう。


「《怒炎顕現(インパルスフレア)》!」


 黒炎と桃炎がぶつかり合い、僅かに黒炎が押した程度で互いに消滅する。

 流石に勝てはしないか。

 だが、焦る事は無い。

 俺にはレアがいる。


「レア。いくぞ」


 後ろにいるであろうレアに話しかける。

 が、返事が無い。

 そういえばミレイナはどこへ行った?


 ふと後ろを振り返ると、ミレイナがレアに斬りかかっている最中だった。

 おかしい。

 いつの間に俺の後ろに?

 さっきのフリードの時も……。

 いや、それよりも――。


「レアアァァ!!」


「あら、良い顔するわねぇ。貴方の熱をもっと私に見せて頂戴!」


 こいつ……。

 許さねえ。

 絶対殺す。

 殺してやる。


 早く終わらせてレアを治さないといけない。

 ダメだ、レア、まだ死ぬな。

 俺にはお前がいないといけない。

 今や、お前も俺の存在理由の一つだ。


 レアを傷付けたこいつは敵だ。

 必ず殺さなければならない。

 レアは大丈夫か?

 まずはそれを確かめねば。


 身体はすぐに動き出した。

 だが、遅い。

 まだ距離が遠い。

 レアの首元に向けて振りかぶっている。

 間に合わない。


 俺はいつも後手に回ってばかりだ。

 何一つ事前に守れやしない。

 レアどころか、自分さえも。


 情けない。

 酷く惨めだ。

 そして何より、申し訳ない。

 レアは俺に期待し、信用してくれているのに。

 それに応えてやれない。

 裏切る事しか出来ていない。


 絶望の中、半ば諦めつつ、それでも足を進める。

 奇跡にかけて。

 レアを助けたいという望みを持って。

 そして、もう何も奪わせないと誓った自分の為に。


 《憤怒》は、いつでもルクスと共に在る。

 それは《嫉妬(エンヴィ)》も同じである。

 しかし、世界は無情にもルクスを突き放した。


 ミレイナの扇がレアの喉元を掻っ切るその瞬間を、ルクスはただ見ている事しか出来なかった。

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