第二十三話 “深潜夜皇 ノクティルム=ネザリオン”
順調に第三階層までは来た。
一度倒している上に人数も増えているので中々楽勝だった。
現在冒険者は七人程眠らせて連れてきている。
「恐らく、これからは冒険者が増えてくるだろうから気を付けろ」
《大罪》の残滓が強くなってきている。
第三、あるいは第四階層にはいそうだな。
さて、第三階層のボス部屋前に着いた。
第三階層のボスは“深潜夜皇 ノクティルム=ネザリオン”。
確か、かつて近くにあった国が滅びた際の王の怨嗟が生み出した魔物だったはずだ。
「さあ、行くぞ。レア。頼んだ」
「うん。任せて」
扉を開けると同時に《怒気解放》を最大出力で発動し、ネザリオンへと肉薄する。
約2m程の巨体に、その身長を超える大剣を片手に握っており、頭上にはボロボロになった不透明な王冠が虚ろに浮かんでいた。
《怒剣ラグナ・レイジ》を顕現させて斬りかかるも、それは大剣によって簡単に防がれる。
「――《黒星穿》」
ネザリオンがそう唱えると同時に、闇が槍の形を成して地面から突き出して来た。
あぶねえな……。
「《影喰》」
更に手を突き出して闇を射出して追撃が続く。
中々の速度だったのため間一髪で避けるも、途端に身体が動かなくなった。
「クソッ」
何とか後ろを振り返ると、射出されたダガーのような闇が俺の影を縫い留めていた。
精神攻撃のようなものだろうか、解除にあと三秒程かかりそうだ。
「《怒炎顕現》!」
牽制で《怒炎顕現》を発動させて時間を稼ぐ。
ネザリオンが斬りかかってくるギリギリで拘束が解け、咄嗟に怒剣で受け止める。
凄まじい重さに負けそうになるが、どうにか拮抗状態に持ち込む。
全力を尽くしても尚、少しずつ押し負けていく。
「ぐああぁぁっ!」
また、俺だけの力では勝てないのか。
それはダメだ。
俺は、強くならなければいけない。
今はただの俺の自己満足ではない。
レアを守るために。
エルナを、守るために。
もう二度と、何も、誰にも奪わせないために。
俺は、強くなりたい――。
そのルクスの願いに怒剣が呼応する。
そしてネザリオンが少し驚いたように後退する。
『憤怒の継承者、ルクスよ。汝の怒りは正となる。汝の熱情を支配下に置け』
様々な事を考えていた頭が不意にすっきりと澄んでいく。
感情が体外へと溢れ出ていくように。
それはまるで、怒りを我が物と従えているようだった。
「《怒統環界》」
ルクスの周囲が濃密な《憤怒》の魔力に包まれる。
《怒気解放》とはまた違った魔力が身体を流れていく。
「怒りは俺の存在理由だ。誰にも奪わせやしない」
そう呟いてネザリオンへと斬りかかる。
先程と違い、少なくとも負けはしていない。
いや、寧ろ少しずつ勝っていく。
そのままネザリオンの剣を弾き、返す刃でネザリオンの横腹を斬る。
近接で勝つのは難しいと判断したのか、ネザリオンが大きく距離を取って闇魔法を行使する。
「《深淵圧界》」
ネザリオンがそう呟くと同時に、闇の魔力が部屋を支配する。
ルクスの《怒統環界》はルクスの身体を中心に数m程だが、ネザリオンの《深淵圧界》は部屋の魔力を闇へと染めていく。
そしてルクスの《憤怒》とネザリオンの闇がぶつかり、互いに押し合う。
レアは、大丈夫か?
そう思い振り返ると、何とか結界を作って耐えている。
やはり闇の禁忌に触れただけはあるな。
これなら、俺は目の前だけに集中出来る。
さあ、ネザリオン。
俺とお前、どっちの魔力が上か、試そうじゃないか。
両者出力を上げていき、部屋の魔力が高まっていく。
刹那、魔力が弾け、支配領域が崩壊する。
領域は消えたが、それでもルクスの内に廻る魔力は増している。
ネザリオンは魔力出力が辛かったのか、少し息切れしている
今がチャンスだ。
鍔迫り合いには持ち込まない。
今の俺ならば耐えられるはずだ。
「オラァ! 《怒火斬刃》!」
「――《冥斬淵錯》」
二人を象徴する闇と炎が交差する。
「喰らえよ!」
と思いきや、ルクスが姿勢を崩し、無理矢理当てに行く。
勿論ネザリオンの斬撃を食らってしまうが、歯を食いしばり、耐える。
「くっ……」
流石に無理があったかもしれないが、《怒統環界》で強化された魔力が回復を早めていく。
一方ネザリオンは身体が焦げ、身体の一部が抉れている。
しかし、不意に何もなかったかのように立ち上がり、闇に包まれる。
「――《夜淵戴冠》」
闇が霧散し、ネザリオンの姿が現れた。
怪我は全回復しており、先程よりも変わっている点は頭上の王冠。
不透明で虚ろ気だった王冠は実体を持ち、ネザリオンの頭上で煌々と輝いている。
【|深潜夜装聯奧迷宮《アビサル・ノクス・ネクサ=メイズ》ノクティルム・ペスカ 第三階層支配者】
“深潜夜皇 ノクティルム=ネザリオン・マハト”
「成程、これから本気か。……来いよ」
次の一撃で全てが決まる。
互いに溜め、最高の一撃を放つ。
「《怒火斬刃》!!」
「――《宵王処罪》」
ルクスの全力と、ネザリオンの名を冠した一撃がぶつかる。
数瞬の押し合いの後に、ルクスの斬撃がネザリオンの身体を両断した。
……勝った。
俺の力を最大限利用し、勝利した。
しかし、第三階層のボスはここまで強いのだろうか?
恐らくだが、これは俺に与えられた試練のような気がする。
レアが駆け寄ってきて、ふらついている俺を支えてくれた。
「レア。助かる」
「……ルクス、かっこよかった」
「はは、そうか。ありがとな」
そう言われると少し恥ずかしいが、ノクスフェルの時とは違い、良い所を見せられたのではないだろうか。
俺はもっと強くなる。
……だが、これから《大罪》と戦うというのにこれでは勝てるのか不安だな。
「ルクス。私もいるよ。だから、大丈夫」
……思考を読んでいるのか? と疑いたくなるな。
だが、その言葉は確かに俺の中の不安を掻き消し、温もりを与えてくれた。
「ああ。頼りにしてる」
微笑んでいるレアを眺めていると、エルナ達も駆け寄って来た。
「ルクス、大丈夫? 身体、ボロボロじゃん……」
その言葉と共に回復薬を渡してくれた。
「何とか、な。ありがとう」
貰った回復薬を一息に飲み干し、そう告げる。
勿論《憤怒》の力でも回復するのだが、少しでも力を温存しておきたい。
「はは、ルクス。お前、いつの間にそんな強くなったんだよ」
フリードが苦笑いでそう問うてくる。
何と答えるべきだろうか。
「……あの王都地下迷宮攻略の時、俺は最下層の更に下へと落ちた。その先にあったのがこの、《怒剣ラグナ・レイジ》だ」
手にしている黒剣を見せながら、軽く説明する。
触ろうとしているが、俺の熱気のせいで触れる事が出来ていない。
しかし、エルナだけは手に取る事が出来た。
「え? エルナ、何で触れるの? 近づくだけでこんなに熱いのに……」
リーゼルが不思議がってエルナに問う。
だが、当の本人にも分かっていない。
「……恐らく、だが。エルナは俺の《憤怒》に認められたんだろうな。俺の守護対象だと」
「私と同じ。ルクスの大切な人だから」
レアが補足して説明してくれる。
恐らくその通りだろうな。
《憤怒》はレアに加え、エルナの事を傷つけてはいけないと処理したようだ。
「それって、本当にルクスが私の事を……。ふふ、良かったぁ。少し、不安だったの」
レアからの言葉を受け、安心しているエルナ。
俺が嘘をつくわけがないだろう。
……まあ、言葉よりも行動で示してやろう。
エルナの頭を疲れ切った手でさっと撫でてやる。
嬉しそうにしているエルナを見て、更に決意が高まってきた。
しかし《大罪》が、着々と五人に迫っている。




