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第三十四章 暗殺者たち①

【前回までのあらすじ】

乙女ゲームに似た異世界のサンクロニアに転生した川野星流。皇女アンジェとして転生したが、破滅ルートから逃れられず、さらわれた山賊一味から助けられたものの、悪役王子フェルゼンのいるラント国の王宮へと連れていかれる。滞在して二週間。フェルゼンの求愛と黒狼ルゥの執着に戸惑う日々を送っていたが、彼女のチートスキルのピアニストの手による演奏で、周囲の冷ややかな視線は段々と好意的になっていく。一方、アンジェ(川野)の養父であり、アンジェの生存を望まないダンテス・クレイモン伯爵は、彼女の居所を突き止めていた……


---ラント国 フェルゼンの執務室---



ラント国の王宮に、不穏な影が落ち始めていた。

昼下がり、第二王子フェルゼンは執務室で侍女から報告を受け、その顔を険しく歪ませていた。



「……アンジェの部屋で、黒狼が彼女を押し倒すようにして、顔を舐め回していたと?」


「はい。私共が駆けつけた時には既に離れておりましたが、アンジェ様はひどく、のぼせたご様子で……その直後、すぐに湯を使いたいとおっしゃいました」  



侍女の言葉に、フェルゼンの脳裏には、かつてアンジェの夜着に見つけた「白い塊」の記憶が鮮明に蘇った。あれは雄としての欲望の印、精液以外の何物でもない。

アンジェが着替えた服の匂いに興奮していたとは……

あの野獣は、ただの「相棒」を自称しながら、その実、アンジェに性的な執着を見せ始めているのではないか。


(アンジェは私に何も言わなかった。あの狼を庇うために、伏せておきたかったのか……)


フェルゼンは冷たい憤りを感じていた。

彼女が以前、「ルゥは大切な相棒だ」と微笑んでいた姿を思い出し、その無防備さが危うくてならなかった。



その日の夕刻、フェルゼンはアンジェの部屋を訪れ、避けては通れない宣告を下した。



「アンジェ、これ以上は看過できない。あの黒狼を鎖で繋ぐ。さもなければ、今すぐ城から追い出す。さあ、どちらにするか選んでくれ」



「そんな……ルゥを縛り付けるなんて、そんな酷いことできません!」


アンジェは必死に抗議したが、フェルゼンの瞳には一切の妥協がなかった。



「あいつは獣だ。おまえを襲う可能性があるものを放っておくわけにはいかない」



結局、アンジェは涙を呑んでルゥの元へ歩み寄った。彼女の手には、重々しい鉄の鎖がある。



「ルゥ……ごめんなさい。私、あなたと離れたくないの。だから、お願い。今はこれを我慢して。お散歩のときは、必ず外すから」



黒狼ギルバートは、アンジェの背後に立つフェルゼンを、黄金の瞳で鋭く睨みつけた。

人間の男としてのプライドが、この屈辱的な鎖を拒絶しろと叫んでいる。

だが、もしここで暴れれば、アンジェと引き離される。それは今の彼にとって、死よりも耐え難いことだった。


カチリ、と冷たい音が響き、首輪に鎖が繋がれる。



「ごめんね、ルゥ……」



アンジェは震える手で黒狼の額を引き寄せ、そっと口づけを落とした。

本来なら歓喜すべきその感触も、今は屈辱の味がした。

黒狼ギルバートは甘えた声を出すことすら拒み、固く口を閉ざしたまま、石のように黙り込んだ。



アンジェは、あの出来事を思い出していた。ルゥに組み敷かれ、強引にその舌を口内へ割り込まれた、あのおぞましい感触。



(……これで、良かったのかもしれない。これ以上、自分でも分からない感情に流されないためにも)


彼女は自分を納得させるように、静かに目を閉じた。




---ヴァレー国 ダンテス・クレイモン伯爵邸内---




一方その頃、国境を隔てたヴァレー国。

ダンテス・クレイモン伯爵家の裏口では、どす黒い金銭の授受が行われていた。



「グレイ……アンジェの居場所がわかった。ラント国の王宮だ。忍び込み、確実に仕留めろ。露見したら外交問題どころではない、俺もおまえも処刑台行きだ」



伯爵が差し出した重い袋を、灰色のマントを羽織ったグレイと呼ばれた男が受け取る。



「おまかせくださいし。私に失敗の二文字はありません。これまで通りに、仕留めて参ります。伯爵様、数日のうちに女の首級を持ち帰りましょう」



ダンテス・クレイモン伯爵は女の首と聞いて、血塗られた銀髪と、カッと目を見開いたアンジェの顔を想像し、一瞬、ぶるっと身震いした。



「くれぐれも仕損じるなよ。アンジェの首を持ち帰ったら、今の倍の報酬を約束しよう」


「かしこまりました。ところで、坊ちゃんのガイ様は、いかがいたしましょう。オルドリアの新興派閥が率いる聖騎士団に入団したことは、こちらでも確認が取れております」


「……ガイか……聖騎士団にいるとはな……若気の至りだろう。しばらく放置しておけ。いずれ、必ず連れ戻す。あれでも俺の血を引き継ぐ、たった一人の息子だ……」


「はっ、かしこまりました」



彼は一見すると、街の商人風の若い男だが、汚れ仕事に手慣れた男だった。

グレイは冷酷な笑みを浮かべ、深々とお辞儀をし、闇の中へと消えていった。

ダンテス・クレイモン伯爵は、その後姿を眺めていた。


(アンジェよ……おまえが俺の愛人になっていたら、殺すことはなかっただろう。だが、いま、ジュリエッタが皇女アンジェだ。皇女アンジェは一人でいい。俺の娘のジュリエッタだけでいいんだ……ガイ、おまえは俺の後を継ぐんだ、金山経営は娘婿のノーマンになど任せるものか。俺が愛したジェーンに生き写しの息子こそが、跡継ぎにふさわしい。おまえが、アンジェを欲するなら、黒魔法手術でアンジェそっくりの女を用意してやろうじゃないか……)

次回は9/1に投稿させて頂きますので、よろしくお願いいたしますm(*_ _)m


※アマゾンドットコムでBook2(英語版)を発売しました。日本のAmazonでも販売していますが英語版です。


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タイトルは、THE REBORN Princess Ange、です。作者は、riku masyu です。

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