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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十三章「失敗」
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バレ……ちゃった

 知らない場所で災害が起こった時、多くの人は「自分も備えをしよう」と思うだろう。非常持ち出し袋を購入したり避難経路を確認したり……だがそう思っていても、実際に行動している人は少ないのではないだろうか? 恐らく頭で理解していても「自分には当てはまらない」という根拠のない楽観的な考えが行動を起こせない理由だろう。


 そして……いざ備えをしても実際に遭遇する災いが「予想外」だったりする事は少なくない。例えば台風の備えをしていたら地震が起きたり、あるいはその逆だったり……要するに、世の中は自分の思った通りにはならないものだ。



 ※※※※※※※



 先日、カントリバースの元リーダー・荒川夢乃に付き纏っている男がいる……という話を聞いた。どうやら彼女の枕営業や自殺未遂のスキャンダルに関して何らかの不穏な動きがあったようだ。

 この件で他の現役メンバーにも注意喚起がなされた。当然、彼氏持ちの渡良瀬碧や相模絵美菜……つまり鮎川桂は相当な用心をしなければならない。ましてや桂に至っては一度疑惑を掛けられた身……幸いその時はシロだと証明されたが、火の無い所に二度も煙が立っては流石にアウトだろう。


 しばらくの間、僕も桂も気を引き締めて……そう思っていたのだが、


「あぁー! やっぱ仕事終わりのセックスは最高だわ」


 今夜も桂は僕に身体を求めてきた。しかもラブホを使っていたセフレの時とは違い、恋人として同棲を始めた現在の方が明らかにセックスの回数が増えている。


「仕事忙しいんだろ? 大丈夫か?」


 昨年末に再始動を宣言したカントリバース……現在は二月に予定している復活ライブの宣伝やテレビ出演など、再び「カンリバを見ない日が無い」という慌ただしい日々を送っている。当然このアパートに帰ってくる頃には心身ともに疲弊している……と思われるのだが、


「大丈夫! 私にとってセックスはエナドリみたいな物だから!」


 こう言われたら返す言葉も無い。この人は心の底からセックス……いや、愛し愛される事に飢えている人なのだ。幼い頃から「愛」の意味がわからないまま性欲の捌け口にされていた……そんな過去が彼女をそうさせたのだろう。

 そういえば以前、僕は桂から「セックスの相性が良い」と言われた事がある。彼女の話では、僕は桂の事をちゃんと愛しながら抱いている……と。

 僕は正直言って自分がそこまで考えているとは思っていなかった。思い当たるのは恐らく、前の彼女である渋谷小春さんを亡くした後悔……もう愛する人を失いたくない……という気持ちがそうさせているのだろう。


「今日はまた面白い話あるの?」

「うーんとねぇ、今日はいつもと趣向を変えてお話しまーす」


 最近は行為の後、桂と向かい合いながら会話をするのがルーティーンとなっている。所謂ピロートークというヤツだ。とは言うものの実際は桂が一方的にしゃべり続け、僕が聞き役に回る……というパターンが多い。

 話の内容は主に、桂こと相模絵美菜が今日一日こなしてきた仕事の報告だ。普通なら面倒くさいと思われがちだが、言い換えればそれはカンリバに関する「最新情報」であり「非公開の情報」なのでファンとしてはとても興味深い。だがこの日はちょっと内容が違っていた。


「私にはね、お母さんと呼べる人が四人いるの」

「四人?」


 確かに変わった話だ。あんな忌々しい過去があった桂にとって家族……つまり両親の話は今まであまり話したがらなかった。しかも四人って……まぁ何となく想像は付くけど。


「一人目はね、私を産んでくれた実のお母さん」


 桂の実母は「あの出来事」で心労が重なり、それが原因で亡くなったという……桂がまだ中学生の頃だ。


「二人目はねぇ……エンマちゃん」


 アレを「お母さん」と呼んで良いのか甚だ疑問だが。彼……いや彼女は家出少女だった桂を保護し、生活に必要な事を教えてくれた人だ。法的には完全にアウトな行為だが、そのお陰で彼女がアイドルになるキッカケを作った人物でもある。


「三人目はねぇ、大井さん」


 大井さんは現在、カンリバの妹分であるアイドルグループ・チューブルックのマネージャーで教員免許を持っている。事務所に入った桂は中学時代の勉強をほとんどしていなかった。そんな桂に勉強を教え、しかも両親がいなくなった桂のため里親にまでなったそうだ。


「で、四人目は……(えい)ちゃん」


 千曲栄……カンリバの元チーフマネージャーで、現在はカンリバが所属する事務所の社長だ。口は悪く暴力的だが、メンバーから絶大な信頼を得ている。


「まぁ栄ちゃんをお母さん呼ばわりしたらブッ飛ばされそうだけど」

「ハハッ……だろうね」


 千曲さんとは二回だけ会った事があるが、お母さんと言えるだけの包容力というか信頼性を感じた。桂の話によると……家出少女だった桂に対し、前の事務所はアイドルデビューに難色を示していたらしい。そこへ「自分が面倒をみる」と手を挙げたのが千曲さんだったそうだ。

 そういえば千曲さんはカンリバの事を「問題児の集まり」と言っていた。桂以外にもスキャンダルを起こして脱退した荒川夢乃、桂と同じく彼氏持ちの渡良瀬碧など確かに個性的なメンバー……悪く言えば曲者揃いだ。こんなメンバーを最初は一人でまとめ上げ、メジャーデビューまでさせたんだから凄い人だ。


「四人とも全員好き! だからカンリバ再始動の話も、栄ちゃんが持って来なかったら引き受けなかったと思う」


 千曲さんが最初に新事務所の話を持ち掛けた時、桂はその誘いを断った。だがそれは本心ではなく、実際は心の底から喜んでいたそうだ。


「じゃあ復活ライブ楽しみだね」

「うん、当日はエンマちゃんも招待したい! もちろんまっくんも!」

「えっいいよ僕は……実力でチケット勝ち取ってみるよ」


 カンリバのライブはファンクラブ会員でも抽選……プラチナチケットだ。


「駄目よぉ! まっくんにはちゃ~んと来てもらわないと……関係()()用のチケッ()()あるか()()それ……すぅ……すぅ……」


 桂はしゃべっている途中で寝てしまった……やはり疲れている様だ。



 ※※※※※※※



 〝ブゥウウウウン!〟


 桂が寝てしまい僕もそろそろ眠ろうと思った時、突然スマホに着信があった。どうやら桂のスマホらしいが……誰だろう? こんな夜遅い時間に……。

 せっかく寝入った桂を起こすのは酷だ。このまま無視するか、あるいは僕が代わりに……ってそれは駄目だ。なぜならこのスマホは桂……いや相模絵美菜の仕事用だから僕が出る訳にはいかない。そう思って着信を無視していると、


「ふぁい……誰? こんな時間に」


 桂が目を覚まして電話に出た。どうやら着信の画面を見ずに出たらしく、相手がわからずに通話している。


『私よびーなす! 今、話出来る?』


 あれ……もしかしてこの声は?


「え……にこる? 早く寝なさーい」


 やっぱり! 外部にまで漏れるような大きな声で話しているのはカントリバースのリーダー、にこること多摩川二子だ!


『寝なさいじゃないわよ! アンタ、今ネットが大変な事になってるわよ』

「……へっ?」

『ニャインでURL送ったから見て! それと、明日の仕事は全て千曲さん(チクマネ)がキャンセルしておいたからね! とりあえずどこにも出掛けちゃ駄目よ』


 桂を介さずとも聞こえてきたにこるの声が途絶えた。しばらくの間寝惚け眼でスマホを操作していた桂が急に眼を見開くと、ガバッと飛び起きてベッドの上に正座しそのままガクガクと震え出した。これは尋常じゃない事が起こった……と、誰もがそう思う状況だ。


「お、おい……桂……」


 心配になった僕は桂に声を掛けようとした。すると彼女は僕の目を見て、震える声でこう言った。



「どうしよう! バレ……ちゃった」



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