リベンジポルノ
「どうしよう! バレ……ちゃった」
スマホを見た桂がガクガクと震え出した。バレた? その言葉を聞いて真っ先に思うのはもちろん僕たちの関係だ。最近、デートしたりアパートを頻繁に出入りしたりと外部の目に触れられる機会が多くなってきた……調子に乗り過ぎたな。
ついに写真週刊誌やゴシップ誌にバレてしまったのか? でもひとつ不可解なのは、その手の記事は本人や事務所などに予め確認を取ってから載せる筈。以前「週刊ルード」に目を付けられた時も、その様な手順を踏まえて記事になったのだが今回はそれが無い……何故?
「ごめん桂、僕がちゃんと周囲を確認していれば……」
「まっくんは関係ない! これは……私の過去の話よ」
――えっ?
「どういう事? 僕たちの関係がバレたんじゃないの?」
その言葉を聞いた桂は、僕にスマホの画面を見せた。そこには裸になった一組の男女がベッドで並んで寝ている画像が表示されていた。
男性は絵文字風の画像で顔が隠されていた。そして右腕を伸ばして……自撮り写真の様だ。女性の方は目をつぶって……寝ているみたいだ。モザイクや画像の加工はされていない。顔つきは子ども、中学生位の少女に見える。
この顔、面影が残っているかどうか微妙な所だがたぶん……これは家出を繰り返していた時の桂に違いない! そしてこの写真を拡散する行為は、
所謂「リベンジポルノ」というヤツだ!
リベンジポルノ……かつて性的関係にあった者が復讐や嫌がらせ目的でネットなどに公開する行為。インターネットの普及により世界中で問題となっており、日本でも法律によって禁止されているれっきとした犯罪だ。
どうやら画像の流出元はSNSで、スクショされた画面によると「アロヨ」というハンドルネームの男(?)がこの画像を投稿したらしい。添えられた文章には『この女カントリバースの相模絵美菜らしくて草』とだけ書かれていた。
犯罪行為なので誰かが通報すれば警察が動き出すだろう。ネット民も投稿者の特定をしている様だが、どうやら投稿者のアカウントはすぐに削除……しかも管理者から凍結される前に自ら退会したらしい。これは恐らくSIMフリー端末などを使った俗に言う「飛ばしスマホ」で身バレ対策をしたに違いない。
「心当たりは無いの?」
「わからない、写真は絶対に撮らせなかったんだけど……」
そうは言っても寝たら無防備になる。桂も覚えが無い……という事は投稿者の特定はほぼ不可能。用意周到、そして計画的な「犯行」だ。自己承認欲求で何も考えずにアップする様なバカッターとは違う。
これが一般人なら関係者だけで盛り上がり、すぐ収束に向かうだろう。だが真偽が明らかになっていないにせよ「カントリバース」「相模絵美菜」という名前が出てきた以上、この騒動は簡単に収まらないと思う。事実、大元の投稿は削除されているが画像やSNSのスクリーンショットは瞬く間に拡散されている。これらの画像を全て消去するのはほぼ不可能だろう。誰だこんな事をした奴! 何で消えかかった涸れ川に再び土石流を起こす!?
だが……幸いな事に画像は不鮮明、相模絵美菜と断定するには余りにもお粗末な状態。ネットでも『これ本当にびーなす?』『フェイク(画像)だろww』『むしろ未成年と寝た時点で投稿者アウト!』といった書き込みが目立つ……世間は概ねこの投稿に懐疑的だ。もしかすると騒動の収束は早くなるかも知れない。
「大丈夫、すぐ収まると思うよ……だからもう今夜は寝よう」
「……うん」
僕は桂の寝ている方に体を向けると、優しく頭をなでた。桂は僕の腕をぎゅっと握ったが、その手はいつまでも震えたままだ。この反応……桂はこの写真に見覚え無いと言っていたが、ここに写っているのは本人で間違いないだろう。
※※※※※※※
翌日……少しずつ収束すると思われた今回の騒動。その願いとは裏腹に、事態は更なる悪化の方向へ進んでいった。
カントリバースのリーダー・多摩川二子が指示した通り、桂はこの日の仕事を全てキャンセルした。そして一日中スマホで自分に関する書き込みをチェック……つまりエゴサーチをしていた。
僕も桂が心配なので、この日のバイトは全て休んでアパートに籠っていた。パソコンで桂に関するニュースをチェックしていると……
「えっ、何だコレ!?」
「なっ、何よコレ!?」
二人ほぼ同時に声を上げた。僕たちが見た記事は治る兆しのある心の傷口に塩を塗り、更に刃物でズタズタに切り付ける程の衝撃的な内容であった。それはカントリバースの「事務所関係者」を名乗る人物が、例の画像を相模絵美菜本人だと公式に認めた……というネットニュースだ。
おかしいだろ! 普通は根も葉も無い噂や、誹謗中傷からタレントを守るのが事務所の役目じゃないのか? だが僕個人の怒りなどマスコミに届く訳も無く、やるせない気持ちでいっぱいになっていると、
〝ピンポーン〟
インターホンのチャイムが鳴った。こんな時に誰だろう……もうマスコミに居場所が特定されたか? 不安になりながら僕が応対すると、
『私だ』
ドアの向こうに立っていたのは……千曲社長だった。
※※※※※※※
「どうぞ」
僕がドアを開け千曲さんを中に招き入れると、彼女は険しい表情で周囲を気にしながら素早く入った。
「栄ちゃん……」
すぐに桂が駆け寄ってきた。いや、こんな問題を起こしていたら近付いた瞬間に千曲さんから往復ビンタとか食らうぞ! ところが……
「ビナ、巻き込んですまなかった……全て私の責任だ」
千曲さんは桂を抱きしめながら謝罪した。
「えっ、どういう事?」
「ニュースは見ているよな? 実はあの事務所関係者ってのは……」
次の瞬間、千曲さんは思いもよらぬ事を口にした。
「前の事務所の……残党だ!」




