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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十三章「失敗」
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姦淫の女

 

「前の事務所の……残党だ!」


 桂が家出を繰り返していた時代の写真が流出した。だがそれは本人であるかどうか疑わしい画像……ファンの間でもこの写真に対し概ね否定的であった。

 ところが! 事務所()()()を名乗る人物が、この写真を桂こと相模絵美菜本人だと公式に認めたというのだ。何故そんな事を……僕がカントリバースの事務所に不信感を募らせていると、事務所社長の千曲栄さんがやって来てそう言い出した。


「前の事務所? いや、だって事務所の公式だって……」

「言ったもん勝ちだよ! 事務所の移籍騒動だって、マスコミやファンは興味あるかも知れん……でも世間一般は前の事務所だろうが今の事務所だろうがそんなもん興味ない! 関係者って言ってしまえばそれまで……やられたよ」


 千曲さんの話では……現在は解散している前の事務所に居た何者かが、以前桂と関係を持ったという「アロヨ」というハンドルネームの男に接触。彼にSNSへ投稿しても足が付かないノウハウを教え今回の騒動を引き起こし、自分は「事務所関係者」を名乗り公式に認める……という手段を取ったらしい。つまり投稿者と自称・事務所関係者はグルだというのだ。

 確かにそいつは元ではあっても事務所関係者だ。その様なネームバリューがあればマスコミも騙され、世間も認めざるを得なくなるという事か……だが納得する前にもう一つ疑問が残る。


「でも何のためにそんな事を?」

「簡単だよ、私たち……いや、私に対する個人的な嫌がらせだ」


 千曲さんたちによる今回の事務所独立とカンリバの移籍……表向きは円満に進んだと思われていたが、実際にはそう簡単にはいかなかったらしい。まぁそれもそうか、元々放漫経営が原因で倒産するような世間離れした会社だ。この期に及んでタレントの移籍に反対するような輩がいても何の不思議もない。


「本来なら私を個人攻撃すればいい! ウチのタレントには何の罪も無い……しかもこの子たちはタレントである前にひとりの人間だ! そんな事もわからないから潰れたんだよ」


 ひとりの人間……誰だって黒歴史の一つや二つはあるだろう。そういう過去が露呈されるのは公人だろうが私人だろうが辛いものだ。


「ビナ、本当に済まなかった! オマエを守ってやれなくて……しかも私のせいでこんな事に……」

「それは気にしなくていいよ! だって栄ちゃんについて行くって決めたのは私たちの意志なんだから」


 いつもは強気の態度に出る千曲さんが涙を流して桂に詫びていた。あれ? でもちょっと待てよ……


「ところで……千曲さんは桂の過去を知っていたんですか?」


 中学生で性被害に遭い、家出して不特定多数の男と関係を持っていた……そんな事実を知っていたらそもそもアイドルとして採用しなかったんじゃないのか?


「当たり前だよ彼氏! ビナの過去は全部知った上でアイドルやらせてんだよ」


 そっ、そうだったのか!? イメージが大事なこの世界……滅茶苦茶リスキーな判断じゃないのか?


「カンリバは問題児の集まりだよ! 身元のわからん孤児も居れば元ヤンも……小学校でイジメに遭って自殺を図った子も居る! でもそういう過去を経験をした子の方が精神的に強いし、メッセージ性の強い曲が歌える筈……だから私はそういう子たちを積極的に採用したんだよ」


 凄い判断だな。確かにアイドルって僕みたいな部外者が見ても過酷な世界……生き残るには相当強いメンタルが必要だろう。

 その中でもカントリバースは元リーダー・荒川夢乃が作ったロックテイストの曲にメッセージ性が強い歌詞、そして緊張感さえ漂うパフォーマンス……愛嬌を振りまくだけのアイドルとは一線を画す存在だ。そうか、メンバーの一人一人が千曲さんの言う「過去」を持った問題児……だからこそトップアイドルとして成功したという事か。だが、その様なエピソードは今まで一度も公にされる事は無かった。


「ビナ……オマエが現在(いま)こういう問題を起こしたのなら即刻クビだが、これは過去の問題だ! 私はオマエを絶対クビにしないし、これからもカンリバに残ってもらいたい! だが……」


 そういうと千曲さんは言葉を詰まらせた……あぁ、そういう事か。僕は以前、レンブラントという画家の画集で「姦淫の女」という宗教画を目にした事がある。これはヨハネによる福音書の中で語られているエピソードが元になっている。


 ある日、イエスを陥れようとした者たちが姦淫をした女を連れて来た。姦淫とは性に関する不道徳の事で、この女の場合……恐らく現在で言う所のNTRであろう。

 当時の法では女が姦淫した場合、石打の刑になる……つまり死刑だ。この女をどうするか? と意地悪な質問をされたイエスは「あなた方の中で今まで一度も罪を犯した事の無い者がこの女に石を投げなさい」と言った。

 するとこの女の周囲から一人また一人と去っていき、最後に残ったイエスも「私もあなたを罰しない、今後は罪を犯さないように」と言って去って行った。


 要するに人は誰しも過去に罪を犯しており、自己の正義感のみで他人を裁く事は出来ない……という意味だろう。


 ところが! ネット社会の現代ではそれが全く通用しない。匿名性の高い事を利用し「自分は過去に何の罪も犯した事が無い」と豪語する自称・聖人君子が次から次へと現れ、自己の正義感のみでネットに書き込んでいく……


 ――所謂「炎上」だ!


 世間はもう、千曲さんの力ではどうにもならない状況になっていた。

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