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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十三章「失敗」
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苦渋の決断

 思った通り……桂こと相模絵美菜の流出画像は誹謗中傷という形で瞬く間に「炎上」していった。しかも今回写真を流出させたアロヨというハンドルネームの男以外にも、複数の男と一夜限りの関係を持った……という「尾ひれ」までいつの間にか付けられていた。確かに事実だが、一体誰が……?


『最低! 恋愛禁止のルールを破ったとかのレベルじゃない』

『よくも騙してくれましたね もうファンやめます』

『今までつぎ込んだ金返せよこのクソビッチ』

『だったらオレにもやらせてよーww』

『荒川と一緒じゃん! カントリバース終了』

『ヤリマン集団マジで消えてくれ』


 枕営業問題でカンリバを脱退した荒川夢乃と合わせてグループ全体を批判する内容や、口に出すのも憚れる様な罵詈雑言が相模絵美菜のSNSやネットニュースのコメント欄に次々と書きこまれていった。

 ファンを辞めるという書き込みも目立つが、本当にファンの書き込みなのか疑わしいものも多数存在する。それにしても……これだけ見てると日本国民全員を敵に回した気分になってしまう。

 ただ流石にヤリマン集団というコメントは、他メンバーのファンと思われる人たちから猛烈な批判を浴びていた。しかし投稿者からの謝罪コメントは一切無い。


「……」


 普段メンタルが強いと思われていた桂も、スマホを見ながら憔悴していた。現在起こしたトラブルではなく、過去の失態でここまで糾弾されるのか?

 こんなのは正義感による断罪ではない! 退屈しのぎと憂さ晴らしによる「魔女狩り」だと僕は改めて思った。


「気にするなビナ! 世の中には書き込みしたい奴としたくない奴がいる……例え誹謗中傷の書き込みが一万件あったとしても人口の約一万分の一、〇・〇一パーセントだ! いいねが十万件でも〇・一パーセント……しかもこれは無作為に抽出したアンケートじゃなくて自己申告による意思表示だ!」


 千曲さんが桂を励ましたが……どういう計算方法だよ? まぁこれは日本国民の総意では無い、偏った意見って意味か。


「こういう輩の大部分は単にストレスを解消したいだけだから、他に叩きたいネタが見つかったらイナゴの大群みてーに移動するけどな! ただ困った事に……」


 ――困った事?


「一部の粘着質が、今後ビナの名前をネットニュースで見つける度にこき下ろすような書き込みすんだよ……まるでモグラ叩きでもするかの様にな! こういう粘着質に目を付けられると厄介だぞ」


 その昔「ウェブはバカと暇人のもの」と言った人が居たが……言い得て妙だな。結局暇人だから何時までもそういう書き込みを続けられるのだろう。過去に一度でもミスを犯したら、二度と地上へ顔を出してはいけないって言いたいのか?


 僕だってミスを犯した事がある……いや、僕の人生なんてミスだらけだ! 就職に失敗、最愛の彼女を救えず……セフレだって人によっては倫理的に許されない行為だろう。だったら僕は死ぬまで暗い闇の中で生きなければならない事になる。


 ネットニュースのコメント欄を見ると、桂を擁護する意見もある。だがすぐに否定的な返信とそれに追随した「いいね」に埋め尽くされてしまう。

 しかもその否定コメントには必ずと言って良い程「有名税」という言葉が付いてくる。有名税があるんだから誹謗中傷されても仕方ないという謎理論だが……何だよ有名税って? 有名人って異世界の住人だから侮辱罪や名誉毀損罪が適用されないとでも言いたいのか?


 だが少なくとも僕の目の前で落ち込んでいる「有名人」は僕たちと同じ現実世界にいる人間、そして二十一歳になる()()()女性にしか見えない。


 僕は桂の肩にそっと手をやると、もうこれ以上スマホを見ない様首を振って気持ちを伝えた。桂は絞り出す様な声で


「だ……大丈夫だよ、この位の事じゃ平気だよ」


 と強がっていたが、その肩は確実に震えている……そこへ千曲さんが、立場上仕方が無いにせよ余りにも残酷な指示を桂に伝えた。


「ビナ、悪いが……ほとぼりが冷めるまで謹慎してくれ」


 桂が震えている本当の理由は多分これだ。当然この「謹慎」には来月に控えたカントリバースの復活ライブも含まれているだろう。結局、桂こと相模絵美菜は「過去の失敗」によって復活する機会を失ってしまった。


「うん……仕方ないよね、事務所や(他の)メンバーにも迷惑掛かるし……」


 桂は事務所、そしてグループの心配をしていた。この騒動によって他メンバーの活動が制限されたり、CMの違約金等も発生するだろう……経済的な損失も計り知れない。だがそんな桂の気持ちを察した千曲さんは、桂の心配を一蹴した。


「そこは気にするな! そんなモン、ユメ(荒川夢乃)の時だって何とか乗り越えてきたんだ! 私に任せろ!」


 千曲さんは自信満々に答えた。この人って……逆境に強いなぁ。


「それよりもオマエの今後だ! 人の噂も七十五日、とりあえず二~三ヶ月もすれば騒動も収まるだろうから、ファンクラブ向けに謝罪動画上げてからレコーディングとファン相手のライブならどうにかなるだろう……ただセンターは当分の間出来ねーけどな!」

「それは(どうでも)いいけど……」


 そんな先のビジョンまで考えているのかこの人?


「ただし、今後もテレビは厳しいな……ファン以外も見てるから」


 さっきも言った粘着質が現れる可能性があるって事だな。


「それと……しばらくの間ワイドショーや週刊誌、SNSに見つかると厄介だぞ」


 そうだった! 今の状態で姿を現したら……しかも!


 僕と一緒に住んで居る事がバレたら……火に油を注ぐどころか今度こそ桂、いや相模絵美菜のアイドル生命は終わる!


「そこで提案なんだが彼氏さん」


 突然、千曲さんが僕に話し掛けてきた。



「当分の間、ビナを事務所(ウチ)で預かっていいかな?」



 ……僕と桂は、苦渋の決断を迫られた。

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