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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十二章「逢瀬」
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再出発地点

 

「じゃあまっくん、楽しんで行こ!」


 十二月二十五日……今日が誕生日の桂と、僕は初めてデートというものをした。


 鮎川桂はセフレだ。元々はお互いがセックスだけの目的で知り合い、一緒に居るのはラブホだけ……という関係であった。

 しかも桂の正体は国民的アイドルグループ・カントリバースのメンバーである相模絵美菜……その様な人間と二人っきりで外を歩く事など、例え恋人同士であったとしても不可能だと思っていた。


 だがこうして今、僕は素性を隠した桂と初めて二人っきりで外を歩いている。しかも桂はオタクの聖地と呼ばれる秋葉原、もちろんアイドルオタクも大勢集うこの街を初デートの場所に指定した……いくら何でも大胆過ぎる!

 僕は桂との初デートに対する期待値が四割、身バレしないかという不安を六割抱えた状態で歩いていた。


 それにしても……何で秋葉原(ここ)? まぁ何となく理由はわかるが。


「ここはねぇ、カンリバの初ライブをやった場所なの」


 と言って桂は、とあるライブハウスの場所をそっと指差した。やはりそうか……今から四年前、彼女たちカントリバースはこの場所で初ライブを行ったのだ。

 とは言っても某アイドルグループの様な専用劇場では無い。アマチュアバンドも使用する、決してキャパシティーが大きいとは言えない会場だった。


「知ってるよ、確か三回目のライブ辺りからここに来てたから」

「えっそうなの? じゃあ古参(ファン)じゃん!」

「ん……まぁそうなるかな」


 まだ大学生だった僕は、結成当時からのカンリバファン……今は「カンリ人」と呼ばれているが、そのファンだった友人に誘われてライブを見に来ていた。


「あの時は……かすみんが居ない八人体制だったんだよねぇ」


 かすみんこと利根香澄が加入したのはそれから二年後……当時の事務所が新人アイドルとして養成していた研修生の一人だった。後にその研修生たちの一部が姉妹グループのチューブルックとなった訳だが、利根香澄がカンリバの新メンバーに抜擢された理由は未だに謎のままだ。


「そういや、何でかすみんがメンバーになったの?」

「ごめん、それは私たちもマジで知らないの! 当時の事務所の方針ってだけ」


 そうなんだ……まぁかすみんは推しじゃなかったから、正直そこまで気にはしていなかったが。


「かすみんの事はわからないけど……ひとつだけ私の秘密を教えてあげる」


 突然、桂が秘密を暴露すると言って来た。もう桂のプライベートは他のファンに比べてだいぶ知っていると思うが……何だろう?


「私……デビューが十四歳で今、十八じゃん」

「はぃダウト! だったらお酒飲めないよね?」

「あはっ、そうそう! 実はサバ読んでんだけどね」


 カンリバのプロフィールで、相模絵美菜の年齢は十八歳……今日で十九歳となっている。だが実際は今日で二十一歳……彼女は二つ年齢をごまかしている。


「何で二年ごまかしてるか……わかる?」

「それは……メンバーで最年長だって言われたくないからだろ?」

「うーん、それも正解なんだけど……実は『本当の理由』があるの」


 カンリバのメンバーは引退した利根香澄を除き全員が十七歳から十九歳、来年の二月に現リーダーの多摩川二子が二十歳になるまで二十代のメンバーは居ない事になっている。


「本当の理由?」

「うん、実はね……」


 桂は遠い目をしながらぼそっと呟いた。


「私ね、自分の人生で二年間だけ……()()()()()にしたかったの」


 あぁ、あの事か……僕は瞬間的に桂の言わんとしている事が理解出来た。



 ※※※※※※※



 鮎川桂は中学一年の時、当時の担任から性暴力を受けていた。暴力なんて表現だと広義に解釈され、加害者に対して罪の意識を軽減させかねない……要するにレイプされたのだ! 卑劣な犯罪だ! そして桂は中学卒業と同時に家出したって……あれ? だったら三年じゃないのか?


「ごめん、まっくんに嘘ついてた! 実は中学時代から家出してたんだよね」

「マジかよ?」


 桂の話によると……


 当時の担任からレイプされ、挙句の果てに妊娠そして中絶した桂はその後不登校になり……そのまま学校に通う事は無くなった。

 普通なら登校する様に学校側が説得に来る、あるいはフリースクールなどの選択肢を与えるだろう。だが不登校になった原因が原因だけに、学校側も彼女に対してまるで腫れ物の様に扱い……結局卒業まで何の対応もしなかったそうだ。卒業証書も郵送で送られて来たらしい。

 母親が心労で亡くなり、父親は元担任を轢き殺そうとして逮捕……両親を失った桂は児童保護施設へ入所する前に家出した。その後繁華街で知り合った、見ず知らずの男たちの家を転々としながら生活していたらしい。


「そんな時よ、前の事務所にスカウトされたのは」

「そうなんだ」

「初めは風俗かAVの勧誘だって期待してたんだけどねー!」


 よく考えたらその当時の桂って十四か十五だろ!? 絶対に無理じゃん!


「親御さんは? って聞かれた時に素性がバレちゃってね……正直に話したら事務所が何とかするって言ってくれたの! まっくん、チューブルマネージャーの大井さんって知ってるよね?」

「あぁ……」


 今年の夏……カンリバそしてチューブルの夏合宿でバイトした時、お世話になった中年女性だ。とても温厚そうで良い人だった記憶がある。


「大井さんが私の里親になってくれたの! 彼女、えーっと……養育里親とかいう資格を持っててね、教員免許も持ってるから勉強も教えてもらってたよ」


 そうなんだ……千曲さんが里親じゃなくて何より。


「カンリバに入って私の人生は大きく変わったわ! まぁ正直言ってレッスンはキツかったし……まっくんはわかると思うけど、最初の頃はライブやってもお客さん全然入らなかったじゃん!」

「うん、客よりもメンバーの方が多い日もあったらしいね?」

「今はネタにしてるけど、当時はマジで凹んでたわぁ……でも!」


 そう言うと桂は通り過ぎたライブハウスの方を振り返り、


「ここから私の時計は再び動き出した……ここが私の再出発地点よ!」


 桂は僕に、その一言を言いたいがためこの場所を案内したのだろう。彼女の目には一点の曇りも無く、純粋な表情でライブハウスを見つめていた。

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