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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十二章「逢瀬」
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誰?

 

「まっくん! 私、メイクまだ時間掛かるから先に出掛けてくれる?」


 デートのために支度中の桂が急に話し掛けてきた……えっそうなの? 僕は一緒に出掛けるものだと思っていたので、この時は思わず鳩が豆鉄砲を食ったような状態になってしまった。

 だがすぐに桂の考えている事が理解出来た。それは前の彼女、渋谷小春さんと同棲していた時も似たような事があったからだ。


 前に渋谷さんとデートした時、僕は今日みたいに一緒に出掛けようとした。すると彼女は少し不機嫌な顔になり「鶴見君って、女心わかってないよね」と言われてしまったのだ。


 同棲していると何かと合理的で楽しい反面、時が経つにつれ二人の関係がマンネリになりがちだ。するとお互いの嫌な部分が見つかる様になり、それが原因でギクシャクした関係に発展する可能性も出てくる。

 なので出会った頃の二人の関係を思い出してリフレッシュしよう! というのが渋谷さんの考えだった。時間をずらして家を出て、待ち合わせ場所に集合する事で同棲前の気分を味わいたかったのだろう。

 同棲すると「釣った魚に……」ということわざの様に彼女が「自分の所有物」になったと()()()しがちだ……恐らく向こうもそう思っているに違いない。だが家を出て待ち合わせする事で、お互いが「対等の立場」として付き合える……そんな気分になれるのかも知れない。


 きっと桂もそういう考え方だろう。まぁ彼女の場合はマスコミ対策もあるのかも知れないが……。



 ※※※※※※※



 一足先にアパートを出た僕は、電車を乗り継いで桂との待ち合わせ場所に到着した。着いた場所は……秋葉原駅だ。

 この駅は乗り入れている路線がそこまで多くないのに、何故か迷宮(ダンジョン)の様に入り組んでいて迷いやすい混沌とした(カオスな)駅だ。僕は電気街南口で降りた……この駅で降りるのは久し振りだ。


 電気街……とある様に、この街はかつて日本有数の家電市場だったらしい。週末には全国から家族連れが押し寄せ、格安の家電品が飛ぶように売れていたと聞いている。その後、主力が家電からパソコンに移ると客層が家族連れから所謂マニアに変化する……と同時にこの街はアニメなどオタク文化の発信地となった。


 実は僕が秋葉原を訪れる様になったのはこの頃だ。美術……とりわけ彫刻などの造形物に興味があった僕は、この近くにとてもリアルな動物や恐竜のフィギュアを販売している店があるという情報を聞きつけて度々買い物に来ていたのだ……まぁ本格的なフィギュアは高価過ぎて手が出せなかったけど。

 やがて……某アイドルグループがここを本拠地にした事で、秋葉原はアイドルやメイドなどの「萌え」の街にもなった。しかも電器、PC、アニメ、萌え系……そのどれもが完全に廃れる事無く共存しているという、駅と同様に「混沌とした(カオスな)街」となってしまった。


 それにしても……本当に大丈夫か!?


 クリスマスイブが終わった週明けの月曜日。日本では二十四日のイブだけが盛り上がり、二十五日の今日は「何でもない日」という意識が強い。

 とはいえクリスマス……しかも週末ほどの混雑は無いにせよ、ここはあの「秋葉原」だ! やはりというか人はそれなりに多い。しかも以前来た時に比べてビジネスマン風の人が増えた気がするのだが……。


 そもそもここはアイドルオタクが集まる街……そんな中で国民的アイドルグループのメンバーとツーショットで歩いていいのか!? しかも昨日、活動再開を宣言して注目度が急上昇……当然の様に昨日のトレンドワード第一位だった!

 そんな人物と秋葉原デート……バレたら即、地獄が待っている。桂に指定された商業施設の前で待ち合わせているが、今の僕は期待より不安で一杯だった。すると僕の背後から、


「今日オープンしたメイド喫茶でーす!」


 メイド喫茶の呼び込みだ。よくもまぁ次から次へとオープンするよなぁ。


「ご帰宅お待ちしていまーす」


 いやいや、僕はこれからデートだよ。メイド喫茶になんか行く訳が無い。僕が聞こえなかったふりをして無視すると、その店員さんと思われる人は何と僕の上着を引っ張り勧誘してきた。


「えー、来てくださいよー!」


 なかなかしつこいメイドだな? 執拗な客引きは条例違反になるぞ! 僕は仕方なく後ろを振り向き、そのメイドの姿を見ると……あれ?

 そこにはメイドの格好をしていない、どこにでも居そうな女性が立っていた。普通なら持っているであろう店のビラも持っていない……この人は一体何者だ?


「ねぇ君、どう見てもメイドさんじゃないよね……誰?」

「あれぇ~!? まだ気付かないんだぁ……()()()()!」


 彼女の「まっくん」という言葉を聞いた瞬間、僕は一気に鳥肌が立った。目の前にいたは何と桂だったのだ!

 だがその見た目は国民的アイドルグループ・カントリバースの相模絵美菜でもセフレのkでもない、今まで僕が見た事の無い『鮎川桂』その人だった。


「あっ……」

「しーっ!」


 僕は思わず大声を上げる所だったが、桂に口を塞がれて事無きを得た。こんな公共の場所で目立つ言動は絶対に出来ない。

 昨夜、カンリバの事務所社長である千曲さんから「ビナ(相模絵美菜)は変装の達人」と言われていた。まさかずっと一緒に生活している僕までダマせるとは……改めて桂こと相模絵美菜の恐ろしさを知った。


「じゃあまっくん、楽しんで行こ!」


 鮎川桂は僕の手を引くと、軽快な足取りで待ち合わせ場所を後にした。

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