初デート
『そっか、あんたたち付き合い始めたんだねー』
十二月二十五日の朝、僕はある人物と電話していた。
相手は……酒匂梅子だ。
彼女は桂こと相模絵美菜のそっくりさんネタで売り出していた元・ものまねタレント。一部ファンからのバッシングを受けていた所を相模絵美菜本人の公認という形で救われ、以後プライベートで桂の友人となっていた。
僕と桂の関係がマスコミから疑われた時、梅子が「それは私」と名乗り出て僕たちは事無きを得た。だがその代償として梅子は表舞台から姿を消し……現在は「相模絵美菜の激似AV女優」として活動している。
「あぁ……まぁ一応」
『そっか、良かった良かった! まっくんがやっとその気になってくれてお姉さんは喜びもひとしおだよ』
「あ、あぁ……ありがとう」
梅子は以前から僕と桂の関係を応援してくれた。まぁ正確には桂の幸せを願っているのだが……。なぜなら梅子は、桂の「壮絶な過去」を本人から聞かされている数少ない友人だからである。
『じゃあお祝いに私の最新作送るわ!』
「遠慮します」
梅子がAV女優に転身してからというもの、時々こうやって彼女からDVDが送られてくる。だが桂と付き合っている僕がどうやってこのDVDを使えというのか……正直迷惑な話だ。
芸能人のそっくりさんやスキャンダルで有名になってもすぐに飽きられるこの業界……彼女は三十路という年齢を活かし、現在は相模絵美菜のそっくりさんに加えて熟女系AV女優としても活動している。
『えー、そんな事言わないで! 今度はSMに挑戦したから』
「はぁ!? 余計いらんわ」
『いいじゃん! 桂ちゃんとそんな事出来ないでしょ? だったら私を桂ちゃんだと思って楽しんで……』
「そういう趣味ねぇし……それに本人聞いてるんだからAVの話すんなよ」
「えっ、私そういう話平気だけど……」
そう、ここは僕のアパート……梅子とはスピーカー通話で話している。近くにいる桂に丸聞こえだ。
「梅ちゃーん、いつもありがとね! 参考にさせてもらってるよ」
――いや、梅子のAVを参考にするなよ。
『じゃ、SMも挑戦してみる?』
「うーん、ソフトなヤツだったら……」
――やる気あるのか!?
「おい、今日はそんな話をするために電話したんじゃないぞ」
『おーそうだった! レストランだよね?』
今日、梅子に電話した理由……それは所謂「隠れ家レストラン」を紹介してもらうためだ。
「まっくーん! この服とこの服、どっちがいいと思う?」
「えっと……こっちかな?」
何故なら今日は桂の誕生日、そして初デートだからである。桂は今日のデートで着る服を選んでいる最中だ。
桂が僕のアパートに転がり込んで以降、有名人しかも前の所属事務所が経営破綻した事で「渦中の人」となった桂こと相模絵美菜を外に出す訳にはいかない。そう思った僕は彼女をアパートから一歩も出さずに匿っていた。
だが、元チーフマネージャーで現事務所社長の千曲さんから「たまにはビナ(相模絵美菜)をどっかデートにでも連れてってやれ」と言われた。千曲さんが言うには、彼女は「変装の達人」だから心配する必要は無いと……。
まぁ確かに……僕が桂と最初に会った時、まさかこの人が国民的アイドルグループ・カントリバースのメンバーだとは夢にも思っていなかった。なので大丈夫……だろう……まだちょっと不安が残るが。
「じゃあこっちね」
桂は僕が選ばなかった方の服を着た……そんなにセンス無いかなぁ僕は。
『えー見たーい! 桂ちゃん、どんな服選んだか後で写メ送って』
写メって……歳バレるぞ。
『隠れ家的な店でしょ? いくつか知ってるけどぉ~、個室は予約しなきゃ無理だぞ! おまけに今日はクリスマスだし……まぁイブよりはマシか』
「ごめん! 急に決まった事だから」
『まぁいいけど……とりあえず一軒、行きつけの店紹介するわ』
「急だけど……大丈夫なの?」
『オーナーが知り合いなんだよ! たぶんキャンセル待ちになると思うけど、私が話を付けとくよ』
「ありがとう、助かる」
梅子は食通だ。彼女の趣味は「食べ歩き」で、売れていないものまねタレント時代から収入のほとんどを外食につぎ込んでいたそうだ。以前梅子からデートに誘われた時も、一人では入りにくい雰囲気のレストランに行くのが目的だった。
ちなみにAV女優となった現在はそこそこ売れていて、皮肉な事にものまねタレント時代より収入が倍増したらしい。なので行きつけの店もかなり増えたそうだ。
『キャンセル出たら連絡するわ! じゃ、デート楽しんできてねー!』
「ありがとう、よろしく頼むよ」
「梅ちゃーん、後でニャインするねー!」
こうして……酒匂梅子にも協力してもらい、桂との初デートが始まった。




