表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十一章「葛藤」
87/89

活動再開

 今日はクリスマスイブ……だが買い物を終えた僕がアパートに帰ってみると、そこに桂の姿はなかった。

 桂は国民的アイドルグループ・カントリバースのメンバーだ。不用意に外出しただけでマスコミやSNSに晒されてしまう。ましてや現在は事務所のごたごたで雲隠れ中……姿を見られた瞬間、街中がパニックになるのは必然だ。


 ……まさか!? 考えてはいけない事を僕は考えてしまった。


 桂はこのアパート生活で必要な物を、ほぼネット通販で満たしている。後は買った物を時々SNSにアップしたり、ゲームをして過ごしている。

 一応、位置情報や写り込みの対策はしているらしい……桂は用心深い人だ。だがちょっとしたミスで居場所が特定される可能性も捨てきれない。

 そこへ宅配便を装った者が訪ねてきたら……置き配という対策はしているが、いざとなったらどんな手を使ってくるかわからない!


 駄目だ、どうしても悪い方向に考えてしまう! それもその筈、奇しくも今日は前の彼女・渋谷小春さんが事件に巻き込まれ……殺された日だ。楽観視しろと言われても出来る訳が無い。僕は得も言われぬ不安に苛まれていた。


 嘘だろ? まさかクリスマスイブに大事な人を二人も失うのか? 僕はダイニングの床にへたり込み絶望の底に叩き落とされていると、


 〝ピンポーン〟


 インターホンのチャイムが鳴った。誰だこんな時間に……手帳を見せつけてくる奴だったら絶対に会いたくない! チャイムを二~三回無視していると鍵を掛けた筈のドアノブが勝手に開いた。


「もう! 居るんだったら開けてよまっくん!」


 入って来たのは……桂だった。



 ※※※※※※※



 別に同居人が自分の意志で出掛けたところで何の問題も無い。だが今の桂は不用意に外出できない身、しかも僕に何の連絡も無く……どういう事だ?


「え? 何で?」

「あ、あぁゴメンね急な話だったから」


 急な話? 今この状況が急すぎてついていけない。だが桂の後ろに居た人物を見た時、それがどういう状況か少し呑めてきた気がする。


「おー彼氏! ビナを少し借りてたぞー」


 一緒に居たのはカントリバースのチーフマネージャー・千曲栄だ。彼女の顔を見た瞬間、僕は自分の思い過ごしによる極度の緊張感から解放された喜びで思わず泣き出してしまった。


「よ……良かったぁ~!」

「お、おい彼氏! オメー男のクセに何泣いてんだよ!?」


 すると僕の異変に気付いた桂が


「あ、栄ちゃん! 実は……」


 桂は千曲さんに、今日がどういう日か説明した。



 ※※※※※※※



「そっか、そんな事があったのか? そりゃ済まなかったな変に責めたりして」

「あ、いえ……」


 普段は他人に対して謝らなさそうな(憶測だが)千曲さんが僕に詫びた。あの事件は彼女の記憶の中にもあるらしく、以後カンリバのプライベートにも注意を払うようになったという。


「ゴメンねまっくん、こんな日に連絡も入れずに勝手に出掛けて」


 三人にお茶を淹れた桂も改めて僕に詫びた。いや……それは状況によっては仕方の無い事だが、桂は千曲さんと一緒にどこへ行ってたのだろうか?


「えっ彼氏! オメー今日ワイドショーとか見てなかったのかよ?」

「えぇ、今日は(渋谷さんの)墓参りとか買い物をしていたので……」

「そっか……あ、そういやこの時間芸能ニュースやってたよな?」


 桂がテレビをつけると夕方のニュースを放送していた。しかもちょうどスポーツとエンタメニュースの真っ最中だ。画面が表示される前にスピーカーから女性キャスターの声が聞こえてきた。


『……トリバースが活動再開しました』


 ――えっ?


 今、カントリバースって言ったよな? しかも活動再開って……やがて画面が表示されると、記者会見と思われる会場と無数の光の点滅、画面の左上には「フラッシュの点滅にご注意ください」というテロップが……。

 ざわついた会場には長いテーブル、中央に置かれたマイクやボイスレコーダー、そして席には……カンリバのメンバーが勢ぞろいしている! もちろん桂こと相模絵美菜の姿もそこにあった。


『それでは、株式会社キャントストップ社長の千曲栄様より経緯の説明を……』


 右端に座っていた千曲さんがマイクを持って立ち上がった。そういや今着ている服って画面(これ)と一緒じゃん……よく見たら桂も! そうか! この二人は今日、記者会見に臨んできてその帰りだったのか。


「そういう事! 今日からカントリバース、活動再開だよ!」


 これはファンにとって最高のサプライズ……クリスマスプレゼントだ! それにしても桂、いや相模絵美菜は何で僕にも内緒にしていたのだ?


「いやー、会場がなかなか取れなくてな……記者さん集めるの大変だったわ」


 ……しっかりしろ新社長。



 ※※※※※※※



「それよりも彼氏! ちょっと聞きたい事あるんだが」


 カンリバ再始動という嬉しいニュースの中、何故か千曲さんが僕に話し掛けてきた。えっ、桂を介さず僕に……何の話だろう?


「さっきビナ(相模絵美菜)が居なくなってめっちゃ心配してたけど……もしかしてコイツ、普段から外出してないのか?」


 千曲さんはビナこと桂を指差して僕に尋ねた。


「え、えぇ……まぁこんな騒動の真っ最中でしたし、それにアイドルが一般人の家に住んでるなんて事がバレたら……」


 そう答えると、千曲さんが語気を強めて僕に迫った。


「おいマジか! こんな狭いアパートに監禁してたのか? 犯罪だぞ」


 いやどちらかと言えば軟禁だし……監禁でも犯罪でもない。桂をアパートから一歩も出さないのは僕も気が引けたが仕方の無い事だろう。


「おいビナ! オメーもよく耐えてたな」

「うーん、まぁ欲しい物はアマゴンで買えたしSNSもゲームも出来たし苦にならなかったよ……私って意外とインドア派かもね!?」

「あのなぁ!」


 桂の言葉に千曲さんは呆れ返っていた。


「おい彼氏! たまにはビナをどっかデートにでも連れてってやれ」


 芸能事務所社長の意外過ぎる要求に、僕は思わず目が点になった。そんな事したら街中……いや日本中がパニックになる! せっかく活動再開したのに桂(相模絵美菜)は活動自粛……いやいやこれは卒業どころかクビのレベルだ! 大事にしなけりゃいけない自分の事務所の所属タレントを、この人は一体どういう扱いしてるんだよ!?


「えっ、身バレは……」

「ばーか! ビナをナメんなよ、そいつは変装の達人だ」


 ――あっ、そういえば。


 桂と初めてラブホで会った時、この人が相模絵美菜と同一人物だとは全く気付かなかった。いくら彼女が推しでは無いとはいえ、古参のカンリニン(カントリバースのファン)である僕でもだ!


「明日はビナ(コイツ)の誕生日だろ? オマエら何か美味い物でも食ってこい」


 千曲さんは、自分の財布から一万円札を数枚取り出して桂に渡した。


「栄ちゃん、もう一声!」

「ふざけんなテメー! じゃ私は……車にまだグリ(渡良瀬碧)たち残してるから帰るわ! 彼氏! ビナ! メリークリスマス!」

「メリークリスマス! 栄ちゃん!」


 そう言い残して千曲さんは帰って行った……っておいおい! 近くに渡良瀬碧(ぐりんちゃん)が居たのかよ!? うわー会いたかったなぁ! どうやら記者会見の後、メンバーを事務所のワンボックスカーで送り届けている最中だったらしい。


「あらぁ~残念だったね!? せっかく()()がすぐ近くまで居・た・の・に」


 桂は小悪魔的な笑みを浮かべながら着替えていた。その時……


「あれ? その指輪って……」

「あ、気が付いた? ゴメンね! まっくんにはもう一つ謝らなければならない事あるんだった」


 桂の言う「謝らなければならない事」それは間違いなく……今、桂が着けている指輪の事だろう。何故ならそれは……



 僕が渋谷小春さんにプレゼントする筈だった指輪だからだ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ