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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十一章「葛藤」
86/89

消えた……?

 渋谷小春さんの命日でもある十二月二十四日……彼女の墓参りを終えた僕は、ある「買い物」をするためひとり商店街を歩いていた。


 ガーベラは鞄の中に仕舞ってある……潰れないか心配だ。そうだ、せっかくだから花屋にも寄ってガーベラの花束を作ってもらおう。この時期はポインセチアが売れ筋でたくさん並んでいるだろうが、ガーベラの花束も作ってもらえるよな?


 そういえば……桂は何の花が好きだろうか?


 まだ付き合い始めて間もないとはいえ、知り合ってからもう半年以上が過ぎている。流石に彼女の好みも少しは知っていても良いだろう。だって……


 ――彼女はもう、セフレでは無いのだから。


 明日は桂の誕生日だ。今のうちにニャインで聞いておこう。あ、でも今聞いたら誕生日プレゼントで買ってくる事がバレバレ……サプライズじゃ無くなってしまいそうだ。でもまぁいいか、花がメインと見せかけて他のプレゼントをすれば……僕は桂に好きな花は何か聞いてみた。


 〝ピロンッ〟


 しばらくすると桂から返信が来た……ネモフィラが好きらしい。えっ、ネモフィラって某公園で絨毯のように咲き誇っているアレか? どうやら相模絵美菜(びーなす)のメンバーカラーである水色だから……というのが理由らしい。

 いや流石にネモフィラの花束は売って無いだろ? まだ季節じゃないし、そもそも花束向けの草花でもない。でもまぁその答えが出てきたという事は、こっちの意図は読まれていないと考えて良いだろう。仕方ない……ネモフィラ畑はいつかデートコースに加えるとして、今回は出来るだけ水色に近い青系統の花で花束を作ってもらおう。


 と、その前に他のプレゼントを買っておこう。実は買い物の本当の目的は桂の誕生日プレゼントだ。しかも前々から計画して買うものは決めている。


 それは……ピアスだ。


 桂がピアスの穴を開けていることは当然知っている。しかも彼女はアイドル……現在は活動休止中だが、いずれ活動再開した時にテレビやSNSなどでその姿をお目に掛かるだろう。

 その時に僕がプレゼントしたピアスを着けてくれたら……アイドルの「彼氏」として鼻高々な気分になれるかも知れない。ま、他のファンには口が裂けても言えないので自己満足でしかないが……ちょっとした優越感だ。



 ※※※※※※※



 僕は意を決してアクセサリーショップに入ると店内を物色した……うわぁ、思ったより高いなぁ。もちろんリーズナブルな物もあるが、これはテレビに出るような芸能人が付ける代物では無い。これは困った、でもここまで来て何も買わないというのも……


「いらっしゃいませ、贈り物ですか?」


 僕がいつまでも迷っていると、上品そうな店員さんに声を掛けられた……もう後には退けないな。店員さんには「彼女への誕生日プレゼント」という目的と予算だけ伝え、完全にお任せしてしまった。

 美術教師やってる割に、僕は女性の服やアクセサリーを選ぶセンスが無いんだよなぁ……店員さんがラッピングをしている間、僕は自己嫌悪に陥っていた。


 そういえば……三年前もこんな事があったな。


 あれは前の彼女、渋谷小春さんに指輪を買った時だ。三年前のクリスマスイブ、僕は渋谷さんにプロポーズするつもりで指輪を買うと決意した。

 だが……いざ店に入るとどのデザインが良いのか皆目わからず結局、やっとの思いで渋谷さんから聞き出せた指輪のサイズだけ伝え後は店員さん任せにしてしまった。どうやら僕は「サプライズ」が苦手のようだ。


 だが……その指輪は渋谷さんに渡す事が出来なかった。彼女はクリスマスイブ当日、アパートを出たまま生きて帰って来る事は無かったのだ。


「ありがとうございました」


 上品そうな店員さんに見送られ、僕はアクセサリーショップを後にした。結局プチプラと呼ばれる価格帯の商品を購入……店員さんから丁寧なお見送りを受け逆に申し訳ない気分だった。

 今日はクリスマスイブ……普通ならここでケーキやチキンを買って帰る所だが、やはりこの二つのアイテムは「あの日」の事を思い出してしまう。


 なのであの日以降、僕はイブにケーキとチキンを買った事が無い。いつもは小さな花束と渋谷さんが好きだったお菓子を買って帰り、アパートに飾られた彼女の写真(遺影という言い方はしたくない)の前に置くのが恒例となっていた……渡せなかった指輪と共に。


 ただ今年は……まだ実感は湧かないが桂と付き合い始めた。渋谷さんの両親からも「人生という時計の針は止めるな」「常に前進」と言われている。なので今年は渋谷さんの好きだったガーベラと、桂が好きな水色の花をアレンジした少し大きめの花束を買って帰ろう。

 そして明日は桂の誕生日だ。さっき買ったピアスは、日付が変わったらすぐに渡そう! 明日はちょっと豪華な食事にして今夜は……ピザでも配達してもらえばいいか。もし桂がどうしても食べたいと言ったら、サイドメニューでフライドチキンが注文できるし。


 とりあえず誕生日プレゼントも買った事だし、後は花だけ買って帰ろう。僕はお墓参りの前に立ち寄った花屋へもう一度足を運んだ。



 ※※※※※※※



 行きは仏花を買う事ばかり考えていたので、他の花には正直目もくれていなかった。だがお墓参りやクリスマスを考えずに立ち寄ってみると、店内は菊やポインセチア以外にも色とりどりの花が咲いている。


「いらっしゃいませー! 何かご希望はありますか?」


 僕が切り花のコーナーを眺めていると店員さんに声を掛けられた。今度はアクセサリーショップと違い、花の様に元気な店員さんだ。


「ガーベラと……何か水色の花の組み合わせで花束を作って欲しいんですが」

「水色ですか? うーん、じゃあこのデルフィニウムなんかいかがでしょう」


 店員さんが取り出したのは、青や水色の花をたくさん付けている……まるでカスミ草の様な姿をした切り花だ。


「あぁ、それでいいです」

「青系の花束ですよね? でしたらガーベラも青色にしてみませんか?」


 と、ここで店員さんがまさかの提案をしてきた。えっ、青いガーベラ? そんなのあったっけ?


「自然には存在しません! 白いガーベラを特殊な薬剤で染めているんですよ」


 と言って店員さんは鮮やかな青色をしたガーベラを取り出してきた。確かに、こんな色は見た事が無い! でもこれはサプライズっぽい! きっと桂も渋谷さんも驚く事だろう。


「じゃあこれでお願いします」


 僕は青と水色……そしてアクセントとして白い花をアレンジした花束を買って店を後にした。



 ※※※※※※※



 アパートの近くまで帰って来た。もうすっかり外は暗い……そりゃそうだ。つい二日前は冬至だったんだから。

 そういや桂のアパート「軟禁」生活もだいぶ経った。今はリモートワークというものがあり、部屋から一歩も出ずに生活出来る。とはいえ……流石にこれだけの期間、部屋から一歩も外に出ないのはストレスが溜まる事だろう。桂に申し訳ないという気持ちと同時に、早くカントリバースが活動再開出来る事を願うばかりだ。

 ただ……僕はここ最近アパートに帰って来た時、部屋の明かりが点いている事に安心感を覚えるようになってきた。どうやら桂に対してアイドルを続けて欲しい気持ちと、同棲している恋人のままでいて欲しい気持ちの両方が存在するようだ……僕のわがままで勝手な考えだが。


 さて、この角を曲がればアパートだ! 僕の部屋の窓が見える。帰ったら早速ピザでも注文……いや、その前にお腹を空かした桂が先に何か注文しているかも知れない。そんな事を想像しながら角を曲がった僕は、ある「異変」に気付いた。


 ――窓の明かりが点いていないのだ。


 あれ? もしかして昼寝でもしてそのまま夕方になったのか? 前にもそんな事があったので最初は心配していなかったが、玄関を開けて中に入るとこれが異常な事だと確信した。


 桂が……どこにも居ない!


 全ての部屋に桂が居ない、いやそれ以前に玄関に桂の靴が無いのだ。買い物にでも行ったか? いや、桂は全ての買い物をアマゴンで済ませる程ネット通販を利用している。顔バレのリスクを冒してまで外出するとは考えにくい。

 僕はすぐさま桂にニャインを送った……だが何分経っても既読が付かない! これは明らかにおかしい! だってお墓参りの帰りにニャインした時は返信があったのに! まさか……僕の脳裏に、想像してはいけない事がよぎってしまった。


 三年前の……あの出来事だ!


 嘘だろ? 三年前と同じクリスマスイブに……渋谷さんだけじゃなく桂までもいなくなってしまうとは!? そんな偶然、あって良い訳ないだろ!?

 僕は身体中の力が全て抜けた様に床へ座り込んだ。せっかく前を向いて、一歩ずつ時計の針を進めていこうと思った矢先……どうなってんだ!? 何か僕は悪いことしたのかよ!? 今日は神様の誕生日? 前夜祭? 何だか知らんがこんなおめでたい日に、神様は僕に不幸をプレゼントする気か!? しかも二度も……。僕が絶望の底に叩き落とされていると、


 〝ピンポーン〟


 インターホンのチャイムが鳴った。

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