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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十章「崩壊」
80/83

全て受け入れる

※今回はストーリーの関係上、露骨な性描写が多く描かれております。不快に思われる方は閲覧をお控えください。

(一応、今回の話を飛ばしても意味がわかるように次話を書くつもりです)

 十九歳の少年に強姦され殺された僕の彼女「渋谷小春」さん。彼女と同棲していた時の記憶が残るこのアパートの中で、他の女性と関係を持つ事は絶対にしないと心に決めていた。

 だがセフレの桂に「記憶は絶対に消えない」から大丈夫だと言われた。それは彼女自身が持つ忌まわしい記憶がいつまでも消えないのと一緒で、日々の生活の中で完全に忘れてしまったようでも、ふとしたことで思い出す……という意味だ。


 それに僕と桂は恋人ではなく「セフレ」、肉体関係はあっても心は「恋人」である渋谷さんを見たままで構わない……という桂に促され、僕はついに自分に課した禁を破り桂を抱いた。

 ところが! この時僕は目の前にいる女性を「渋谷小春さんの代わり」でもセフレの「桂」でもない、ひとりの女性「鮎川桂」として抱いていた。


 何故だろう……理由がわからない。



 ※※※※※※※



「はぁ、はぁ……あっ……イクッ!」


 この日は桂の様子も変わっていた。彼女は前戯中に何度も絶頂……所謂オーガズムに達していた。俗に言う「イク」という奴だ。

 元々桂はイキやすい体質……だが今回は余りに多すぎる。久しぶりのセックスだから? それとも環境が変わったから? 何故だろう……理由がわからない。


「ねぇ、そろそろ……入れて」


 前戯を充分に堪能した後いよいよ挿入……と、ここで僕はある「重大なミス」に気が付いた。


 ――ゴムが無い!


 渋谷さんがこのアパートから去って三年……その間、この部屋で他の女性と関係を持たなかった……という事は当然この部屋にコンドームなど置いていない。

 渋谷さんと同棲していた当時はもちろん用意していた。だが今は置く必要が無いし、彼女との思い出にそういう行為を加えるのは非常に愚かで下衆な事だと考えている。そもそもゴム製品は劣化するので長期保管はしない方が良い。なので独り暮らしになってから真っ先に捨てた。


 どうしよう! これは全く想定していなかった事……あ、でも待てよ?


 今まで桂とラブホで会っていた時、コンドームはいつも彼女が用意していた。ホテルにも常備されているが、桂はいつも「(ホテルのは)信用出来ない」と言って自分で選んだ物を持ち歩いていたのだ。


「なぁ桂……ゴム持ってる?」


 いつもなら「あるよー」と言って自分のバッグを取り出す桂だが、この日は


「えーっと…………あっ、ごめん! 持ってないや」


 妙な間を置いて桂が答えた。打つ手が無い……これは詰んだな。


 人によってはゴム無し……つまり「生」でする事もあるだろう。だが相手は活動休止中とはいえ現役アイドル、万が一にも「間違い」など許されない! このまま続ける事は不可能……僕は行為を中断し、


「あ、だったら今からコンビニに……」


 と言うと桂はムッとした表情になり


「ちょっと! ここまで盛り上げといてコンビニは無いでしょ!?」


 機嫌を損ねた……まぁ普通はそうなるだろう。するとベッドで仰向けになっている桂は、両手を伸ばして僕の首に抱き付くと、


「いいよ、生で入れて……今日は安全日だから」


 優しい声で囁いた。いやいや、それは駄目だろ! 例え安全日でも百パーセント妊娠しない訳では無い! 僕は「最悪のパターン」を想像したが、目の前には既に臨戦態勢の桂……このまま中断させる事など出来ない。

 仕方がない、頑張って外出し(膣外射精)で終わらせよう……たぶん大丈夫だと思うが。僕は覚悟を決めて桂と交わった。


「あっ、ああっ! いいわ! まっくん」


 桂は今まで見た事が無い程激しく、そして恍惚の表情を浮かべていた。今までのセックスをプロレスに例えるならこれは格闘技……筋書きも予定調和で相手に気を遣う事も無い、真剣勝負(ガチンコ)のセックスだ。それはゴムを着けていないから気持ち良いとかそういうレベルの話では無い、桂の「心情の変化」によるものだ……この女性(ひと)は一体何を考えている?


「あっ、駄目だ……もうイキそう」


 そうこうしている内に僕もイキそうになってきた。とりあえず射精する前に腰を引かねば……僕は自分が絶頂に達する快感よりも「間違い」を起こさない事に神経を集中させていた。と、その時……桂が予想だにしない行動に出た。


 ――えっ!?


 桂は両脚を大きく伸ばすと、その脚を僕の腰に回し強く締め付けた! この体勢は俗に言う「カニばさみ」とか「だいしゅきホールド」という奴だ。

 これはマズい! 今の僕は射精を止められる状態では無い。しかし桂の脚はがっしりと僕の腰を押さえ付け離れる事が出来ない! このままでは……


 ――あっ!


 僕は桂の中で絶頂に達してしまった……所謂中出しだ。


 何て事だ! 僕は大変な事をしてしまった。今の僕は性交後の余韻など無く、ただ恐怖に慄いていた。現役アイドルが妊娠……なんて事になったら日本中が大騒ぎになる。だが桂は少しも慌てる事無く僕の顔を見つめると、静かにこう言った。



「これが……答えよ」



 えっ、どういう事? 答えって……何?



 ※※※※※※※



「まっくん、前に聞いたよね? 私の身の振り方……」


 そういえば……カントリバースが活動休止になり他のメンバーが移籍などを考えている中、桂は自分の身の振り方を明確に答えていなかった。


「私は……カンリバを卒業する! ついでに芸能界も引退するわ」


 何だって!? これは衝撃的な発言だ……でも何で?


「アイドルと恋愛……私はどちらも真剣にやりたいの! 両立なんて出来ない」

「えっ? 恋愛?」


 桂の口から恋愛という言葉が出た。この人はセックス好きだが、恋愛に興味は無かった筈。すると桂は僕の目をしっかりと見つめながら、一語一句噛みしめる様にこう言った。



「私は……まっくんの事が好き」



 ちょっと待って! まさか!?


「だから、まっくんの子どもだったら産んでもいいと思ってる」

「えっ、何で急にそんな事……」

「急じゃないわ! 私は前からずっとそう思っていた」

「で、でも僕は……」

「わかってる、まっくんは小春さんの事が今でも好きなんでしょ? だから私は、まっくんが小春さんを今でも愛してるという事実まで……全て受け入れるよ!」

「え……えぇっ!?」


 突然の桂からの「告白」により、僕は頭の中に様々な憶測が入り込み一気にキャパオーバーになってしまった。


「でも……どうして僕を?」


 桂が僕に恋愛感情を持ってたなんて青天の霹靂だ。当然の様に僕はその理由が知りたくなってきた。


「前に話したよね? 私の過去」

「あ……うん」

「実は以前、一夜限りの関係を持った男たちにも話したことあるの。でも大抵は軽くあしらわれるか、軽蔑されるかのどっちかだったわ……そんなもん、()られるオマエにも非があるだろって感じで……」

「いやいや! それは違うと思うよ」

「そう、まっくんは私の過去に対して真剣に向かい合ってくれた! ちゃんと話を聞いて一緒に怒ってくれた! 私の忌まわしい過去を全部受け入れてくれた!」


 そっそれは、同じ教育者として見過ごせなかったし……そんな辛い過去を持った桂に対して何か力になってやれないかと……


 ――はっ!?


 もしかして僕も……あの頃から桂という女性に対して、セフレ以外の感情が芽生えていたのか!?


 そういえば……あの絵も! 理由がわかった。


「実は僕も……桂に伝えなければならない事がある」

「えっ、何?」


 僕はそう言うと、隣のアトリエ部屋に入りキャンバスを()()持ってきた。


「これ……例の渋谷さんを描いた裸体画なんだけど、桂にも協力してもらってもうすぐ完成する予定」

「うん知ってる! 私も暇だし、早く完成させましょうよ」

「なんだけど……ごめん! 実は桂に内緒でもう一枚描いていたんだ」

「……え?」


 桂は狐につままれた様な表情をした……無理もない。実は桂にモデルをお願いした際、僕は彼女の休憩中にキャンバスをこっそり入れ替えて「二枚の絵」を描いていたのだ。


「それが……これだよ」

「えっ、えぇっ! これって……私!?」


 そう、僕は全く同じポーズで桂の裸体画も描いていた。


「何で二人分の絵を描きたくなったのか理由がわからなかった。でも桂の気持ちを聞いた時、僕にも同じような感情があったって気付いたんだ」

「そ……そんな」

「僕には渋谷さんの思い出がある……でもそれは三年前の悪夢にも繋がる忌まわしい記憶だ。桂、君はそんな僕の過去を全て受け入れると言ってくれた」

「……うん」

「だから僕も! 桂の持つ忌まわしい記憶を全て受け入れる! 桂の過去を全て受け入れた上で……僕も桂が好きだ」

「……まっくん」


「これからはセフレじゃなくて、恋人として付き合おう」

「……うん」


 桂は目に涙を浮かべた。


 夜景が一望できる公園、高級レストランの個室、遊園地の観覧車……そんな洒落た告白は所詮理想、ドラマや小説の話だ。

 人の恋路は千差万別、マニュアルなんてあって無い様な物……だって、世の中には「セックスから始まる恋愛」も存在するのだから。


 僕はこの日……セックスだけは何度もしているのに普通の付き合いがまだ未熟な()()()()()の「恋人」と、ベッドで正面から抱き合ったまま一夜を過ごした。


「あっ! 私そっくりに描かないって言ったじゃん! 嘘つき!」

「えっ、でもアイドル引退するんだからもう関係無いでしょ」


 ……僕たちが本物の「恋人」になる道のりはまだまだ険しい。

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