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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十章「崩壊」
78/83

関係無いから

 

「ただいまぁ」


 そのまた翌日、バイトを終えた僕は足早にアパートへ帰って来た。


 桂との同居三日目の朝、マスコミに追われるため外出が出来ない桂は僕に「バイト辞めて家に居て!」とせがんできた……恐らく一人じゃ不安か、退屈のどちらかだろう。

 確かに身を隠しているとはいえ、こんなセキュリティ甘々のアパートに国民的アイドルを匿っているのはかなり問題だ。しかも桂にはトップアイドルであるカントリバースで稼いだ「貯え」がかなりある。しばらくは無職で生活しても何ら問題は無いのだが……。


 でもそれはあくまでも桂のお金だ! 本人の食費等で使う分には問題無いが、僕が「お言葉に甘えて……」は倫理的に問題だし僕のプライドが許さない。

 それに僕はやっと教員採用試験に合格し、来年度からはフルタイムで働くことになる。今の内から堕落した生活を送っていたら先が思いやられる。


 玄関の前に立ち鍵を開けようとした時、家の中から妙な声が聞こえてきた。


「あぁん……あん、駄目! そこは……」


 ――えっ、何やってるの桂は(アイツ)


 桂は人一倍性欲が強い……毎晩ベッドで自慰行為(オナニー)するのが日課だという。もちろん昨夜も僕の背中越しにしていたようだ。

 だがよく聞くと、微かに男の話す声が……えっ、まさか桂は他の男を連れ込んでいる!? まぁ桂はセフレだから他の男と寝ても問題は無いのだが、それを僕のアパートでするんじゃないよ! 僕は慌ててドアを開けると桂に声を掛けた。


「おい桂! 一体何を……」


 NTRの現場に踏み込んだ事はもちろん無い。もし相手の男がヤバい奴だったらどうしよう……勢いよく踏み込んでしまったが、この時点で後悔の念に駆られている僕の目の前に現れたのは……


『あぁん、あぁん……もっと来て!』

「あっ、まっくんおかえり!」


 部屋のテレビでAVを見ていた桂の姿だった。



 ※※※※※※※



「何見てんだよこんな時間に」


 視聴している内容もアレだが、近所に音が漏れるのは流石に頂けない。例え近所同士が無関心とはいえ、目立つ行為は控えるべきだ。


「あぁこれ? 梅ちゃんが初主演DVDを送ってきたのよ」


 桂の言う梅ちゃんとは元・ものまねタレントの酒匂梅子(芸名・相模厚着)のことだ。彼女は相模絵美菜のモノマネをしたことでファンの怒りを買った。ところが桂こと相模絵美菜が梅子を実質的に「公認」した事で騒動は収まり、二人は親友になった。その後彼女は桂が僕とラブホで密会する際「影武者」となってアリバイ工作に加担してくれたのだ。

 だが週刊ルードのスクープ記事で僕と桂の関係が世間にバレそうになった時、梅子は自分を犠牲にして僕たちを守ってくれた。その代わり梅子は芸能界を追放された形になったが、相模絵美菜の「そっくりさん」としてAV女優に転身したのだ。


「まっくんも見る?」

「遠慮しとく……すげー複雑な気分だ」


 以前成り行きで梅子とも関係を持った事がある。関係を持った女が他の男とセックスしているAV……どういう顔して見りゃいいんだよ?


「あっそうだ! まっくん、ご飯にする?」

「え、あぁ……」


 まだ夕飯前だというのにAV見てるって、どういう感覚してんだよ?


「暇だったからね、今日は頑張って作ってみたの」


 そういや昨日、色々な食材を買っていたな。本当は僕が作る予定だった……かといって得意ではないが。


「へぇ、桂って料理出来るんだ」

「あっ、今もしかして馬鹿にした? 作れるわよ!」


 桂は自信満々にテーブルの上を指差すと、そこにはラップを掛けた皿が並べられていた。皿には揚げ物とサラダ……台所には味噌汁だろうか、鍋が置かれている。


「えっ、もしかしてこれ……全部作ったの?」

「もちろん! まっくんが帰って来る時間よくわからなかったから先に作っちゃったけど……今からチンするね」


 へぇ、これは意外だった。桂は高校生ぐらいの年齢(実際には高校に行ってないらしいが)からずっとアイドルをやっていて、料理などの基本的な家事は他人に任せっきりだと思っていた……僕の勝手な想像だが。


 温め直した料理を前に僕は缶ビールを開け、桂と二人で理由がわからない乾杯をした。いつもなら安い缶チューハイを飲んでいるが、流石に国民的アイドル(公称十八歳、実は二十歳)へそんな物ばかり飲ませられない。ここは桂の経済力の恩恵に与った形だ。


「いただきます」


 桂が作った料理を食べてみた。普通に美味しかったが、全体的に味が濃い様な気がした。それよりも気になったのは、


「まっくん、これも食べてみて」


 と言ってお皿を手渡してきた桂の右手の指先に、絆創膏が巻かれていたのだ。


「ちょっ……その指、どうしたの!?」


 僕が驚いた声を上げると、桂は申し訳無さそうな顔をして、


「ごめん、薬箱の場所わからなくて……部屋の中を少し動かしちゃったけど」

「いや、そんな事は問題じゃないよ! もしかして料理中に?」


 その言葉を聞いた桂は目線を逸らした。間違い無い……恐らく桂は料理中に包丁で指を切ったのだ。


「心配掛けちゃってごめん……ちょっと使い慣れていなかったからね」


 そういえば……桂は左利きだ。ここにある調理器具は僕や渋谷さんに合わせて右利き用になっている。いくら活動休止中とはいえ、現役アイドルに怪我をさせるなんてファンの立場からすれば有り得ない事だ!


「すまない桂! アイドルに怪我させちゃって……」

「まっくんが謝る必要無いわよ! 私が勝手にやった事だし……それにもう、そういうの()()()()から気にしなくていいよ」

「え?」

「あっあぁ! 今は活動休止中だし、いくら何でもさっ、再開するまでには治っているって意味よ」


 今度、左利き用の包丁でも買おうか……いや! それよりも桂に台所へ立たせない様、昨日食べた高級弁当を毎日注文するか……食費がいくら掛かるのか皆目見当が付かないが。


 それにしても……桂が言った「関係無い」ってどういう意味だ? 恐らく再開までとかそういう意味じゃ無いと思う。

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