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「……そもそも、あの髪留めは本当にただのクリスマスプレゼントで、レイモンド殿下とお付き合いしているって知ってたらさすがにあげませんでしたよ……」

 ふてくされてモーガンが言う。少し嘘だ。ちょっと下心もあった。

「私だって、レイモンド様が来るって知ってたらヘンリー先生の家にしていかなかったし……」

「僕だって、シンシアが僕のことを恋人だって紹介してくれたらスネませんでしたよ……」

 三人ではあ、とため息をつく。

「……モーガン君とは本当になんでもないんですよね?」

「……」

 シンシアは押し黙る。

「……なんでそこで黙るんですか?」

「……ええと……、説明が難しい……」

「……しなさい」

 精神的に疲れて命じる口調もぞんざいだ。

「……あの、モーガン君にはこれは初めていうことだからちょっと突飛で申し訳ないんだけどね……、

モーガン君て……その、似てるのよ。私の前世の夫に」

『!?』

 二人が目を見開く。

「前世ってなんですか!?」

「似てるって!? そんなの聞いていませんよ!?」

 二人が詰め寄ってくる。

「ううう……、ちょっとレイモンド様は待ってて。

モーガン君、あのね、私は魔法も使えるのだけど、前世の記憶も実は持っていて享年二十九歳、夫と子どもが三人いたの。つまり、精神年齢は二十九歳+十七歳=四十六歳……ああ、自分で言っててちょっとショックだわ……なのよ。まあいいおばちゃんよ。三人目の出産のときに死んだみたいなんだけど……、それが男の子だったんだけどね……」

 そこでため息をつく。

「……だから、モーガン君が前世の夫に似てるのが重なっちゃって、上手く育ってくれたらこうなるのかなあとか、夫も頭良かったなあとか、黒い固い髪がそっくりだなあとか、一緒に家族で四つ葉のクローバー探したなあとか、そういうことを思ってしまったら止まらなくて……」

「まさか……」

 モーガンは嫌な予感がする。

「……その、モーガン君のこと『育てたい』って思っちゃったのよ……」

 視線をそらして告白した。

「……」

「あはははははははは!」

 レイモンドは大爆笑をしている。

 モーガンはがっくりと肩を落としてうなだれる。

(まさか息子と思われていたとは……)

 斜め上だった。

 淡い恋心とも憧れともつかない感情が、音をたてて完全に崩れ去った。

「ううっ……ごめんね! いや、わかってるのよ! モーガン君はモーガン君だし、私の子どもじゃないし、ああもうホント私って気持ち悪い! 気持ち悪いおばちゃんなのよ!!」

 シンシアは頭を抱えてイヤイヤをする。

「はーっ……最高です! シンシア!」

 レイモンドがシンシアの肩をバシバシ叩く。

 そして、

「ぷっ……! モーガン君、……っ……シンシアを学校に通わせたい、でしたよね? いいですよ! もうなんのこだわりもなくなりました!」

 レイモンドが笑ったまま言った。

「君がシンシアの子どもなら、僕の子どもでもあります。……パパって呼んでもいいんですよ……?」

 ニヤニヤしているところが本当に性格が悪い。

「……遠慮しておきます」

 げんなりと拒否する。

「はー、おもしろかった! ……学校に通うのを許可します。婚約は延期がいいですか?」

 レイモンドが取り直して尋ねる。

「私は……やっぱり卒業までは婚約……したくないです……。

もう少し、あそこで頑張ってみたいんです……」

 シンシアは言った。

「私から言い出したのに、ごめんなさい……」

 しょんぼりと言うシンシアにレイモンドは苦笑する。

「いいですよ、もともと卒業まで待つつもりではいたんです。僕に余裕がなくなってしまったせいで気を使わせてしまってこじれましたね。」

 紅茶に口をつけ、かちゃりとソーサーに置く。

「では、婚約は当初の予定通り卒業まで延期で。部活動もお好きにどうぞ。僕もせいぜい魅力的になって、あなたを逃さないようにがんばることにしましょう」

「……ありがとう!」

「……ありがとうございます」

 モーガンはまだ気持ちを立て直せていない。

「いいえ、こちらこそ。モーガン君、ご助言痛み入ります。あやうく二人で心中するところでした。そうですね、せっかくなら皆死なずに生きていた方がずっといい」

 すっきりとした顔で言う。

「モーガン君、これからもシンシアと仲良くしてあげてくださいね。……でも僕の婚約者になる人だということはお忘れなく」

「……はい……」

 釘をさされたが、『息子』扱いからどうしろというのだ。

(心がせまいんだ、この人……)

 愛が重いとも言う。

「用はそれだけですか?もう遅いのでそろそろ帰った方がよいのでは? 明日も学校はあるのでしょう?」

 もう八時を過ぎていた。

「ええ、本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。……なるべく心配をかけないように、これからはもっと手紙とか、書きます。たまには帰ってきます」

 はいはい、とレイモンドは応じる。

 そして二人は王宮を後にした。



 ウィステリア邸に服を返却し寮に帰る車の中、モーガンはローザに言われたこと、ケンプさんに尻を叩かれたことを話した。

「思ったんですけど」

「うん」

「当事者だけだと、内側に考えが行きがちなのかもしれませんね」

「そうかもね……。私も思い悩む必要もなかったのかもしれないわ……なんか、もう本当に色々ごめんなさい……」

「そうですよ、シンシア先輩が色々言わないでいるからこんなことになるんです。……もうこんなのはごめんです」

 モーガンは言ってぷいっと顔をそらす。

 こんなのただの痴話げんかに巻き込まれただけだ。犬も食わない。

 でも介入しなければこの楽しい時間を失っていた。……だから良かった。

「あはは。ごめんねー。本音で話し合うようにはしてたんだけどー、そうだね、二人だと心中しがちなのかもしれない、私とレイモンド様。気を付けるよー」

 怖いカップルだ。

「ああ疲れた……。でも、良かった……」

 モーガンは疲れて目を閉じる。今日は色々なことがあって本当に疲れた。感情も乱高下しすぎた。でも心地よい達成感もあった。

 モーガンはそのまま眠ってしまった。

「眠ってしまわれましたか」

 ローザが運転しながら言う。

「うん。今日はとってもがんばってくれたから。

 ローザも……ありがとう」

「いいえ。お嬢様の幸せが私の幸せですから」

「ありがとう。……ローザも困ったら私に、ううん、モーガン君でもいいわ、相談してね。絶対力になるから」

「! ……そうですね、そうします」

 その時はこんな風にはちゃめちゃにされるかと思うと笑みがこぼれる。

「少し眠るわ。寮についたら……起こして……。」

 シンシアも眠りにつく。

 ローザは子どもたちをミラー越しに見て微笑んだ。


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