22 流れ星に願いをかけたら
三月に入り期末テストも終わり、春休みに入った。
約束通りカナリアの農園を手伝うことになり、今日は朝から農作業だ。
カナリアが詳細な畑の計画表を書いてきていて、その通りに作業を進める。
畑の拡張ということで、すでに新たな空き地を耕して土を作っていた。リガルドの尽力もあり,畑はかなり広がっていた。
以前から植えられていたスイセンはもう花を刈り取られた後で葉が結ばれている。
バラは若葉が茂り出しているし、ハーブも葉が伸び始めていた。
今日は苗まで育てたスミレとマリーゴールドを植え付けていく。しかし量が多い。
うららかな春の日差しの中、子どもたちがせっせと植えていく。
今日の作業メンバーはカナリア・占い部三人、地域の子ども五人だ。
「一つ一つ丁寧になー」
カナリアの声が飛ぶ。
「はい、ミック、土かけて!」
「わーいミミズ出てきた~」
「アーロンそっちのちょうだい」
「ブライアンそれ深すぎだって」
「ジョージってこういうの手際いいよなー」
「モーガン兄ちゃんこっちひっぱってー」
「はいそこでおろすー」
協力しながら作業を進める。
「モーガン君、次こっちを頼む」
カナリアに指示されてモーガンは畑の端にスコップで穴を掘る。
「……どこまで事業拡大するんですか?」
穴を掘りながら話す。
「もう今年で終わりだ。来春は三年になっているし受験勉強でこんなことしてられない」
カナリアは穴を掘りながらあっさりと言う。
ここまで拡大しておいて来年はやらないとは。
「……」
一抹の寂しさを覚えるモーガン。そうだった、三年になると進路で忙しくなるということがピンと来ていなかった。
「モーガン君が引き継いでくれるならもっと年数のかかる木も植えたいがな」
カナリアはニヤリと笑う。
「それはちょっと……」
さすがにこれだけの規模の畑の面倒は見切れない。
「冗談さ。だが、何をするにも三年なんて短いものだ。
イリスという花がある。根茎から香料を抽出するのだが六年かかる。あれもやってみたかったがあきらめた」
「そんなにかかるんですか……」
「だからこんなチマチマとしたお手軽に栽培できるものしかしていないのだ。農家になるわけでもないからこの程度が限界だ。
だがやってみないと大変さだってわからなかった」
カナリアはクスリと笑う。
それは実際に実践したものだけがわかる感情だったのだろう。
モーガンはこの人もかっこいい人だな、と眩しく思う。
「カナリア先輩は卒業したらどうするんですか?」
「大学に行きたいな。ここじゃない違うところだ。もっと虫の研究をしたい」
「え!? 虫!?」
「そうだ、もともと私は虫をやりたいのだ。虫はいいぞ……、かっこいい。あの独特な姿や動きは憧れるな。
これからがオンシーズンだから忙しくなるぞ」
カナリアはキラキラした目で語る。
「でも天文部で、化粧品づくりもして……」
そちらが好きなのかとばかりに思っていた。なかなかに手広い。
「星も好きさ。でも本命は虫だ。しかし虫部がこの学校にはなかったんだ……」
がっくりと肩を落とす。普通は虫部はない。リサーチ不足にもほどがある。
「化粧品づくりは資金作りだし、シンシアに頼まれたというのもある」
「シンシア先輩に?」
意外な気がした。
「そう、おしろいに含まれる鉛白というまあ鉛なんだがそういうのが毒だと言っていたな。そういうのが抜きのものがほしかったそうだ。
安全安心の混ぜ物抜きのものを作ってみてほしいという、まあ実験だな。私も実験は好きだから付き合った。
ハーブ入りやらバラ入りもあれの提案だ」
「へぇ。」
「あれはたまに妙なことを言う。これは毒だとかこれは体にいいとか安全がどうとか、なぜか『知っている』」
「……」
前に言っていた前世の記憶に関係するのだろうか、とモーガンは考え込む。
『息子』と言われたことは今でも胸にささっていて、たまに痛む。辛い。
カナリアは堀った穴の深さを印のついた棒で測る。
「こっちにもおなじくらいの穴を頼む」
モーガンは言われた通りに穴を掘る。
「気にならないんですか?」
「聞いたら困っていたから聞くのをやめた」
カナリアは穴に苗木を入れて、土をかぶせる。
「誰しも触れられたくないところがあるのだろう。聞きたくても語る準備ができていない相手に強要しても仕方がない。
秘密を抱えるのは心の健康に悪いとは思うが……私とはまだそういう段階ではないということだ」
不満そうに言う。
「せいぜい一緒に楽しく過ごして気晴らしになればいいのだがな」
カナリアはあきらめたような慈しむような眼で話す。
しかし今度はジト目で言う。
「しかしあの魔法の占いの方はどうにかしてほしいな。……運を吸い取られるやつ」
前回のことをまだ根に持っていた。
「あはは……。でもいつも悪い方に転ぶというわけでもないですし……僕の時はなんだかんだ探し物はちゃんと見つかりましたよ」
占いは関係がなかった気もするが、悪いことは起きなかった……と思う。
「……相性の問題か……」
うんざりと言う。
シンシアが遠くから「お茶にしましょー」と遠くから呼んだ。
皆でお茶を飲んで休憩をする。
子どもたちはさっさとお茶とお菓子を平らげて、畑の周りで遊び始めた。
走り回ったり蝶を追いかけたりしている。
「そういえば前に言っていたダンブル山合宿のことなんだが」
カナリアが切り出した。
「メンバーが今回は全然集まらなくてな……中止になった」
「ええ~、残念……」
シンシアはがっくりと肩を落とす。
「その代わり、流星群が来るときにグラウンドで天体観測会をすることになったんだ。来ないか?」
「行く!」
「行きます!」
二人の声がそろった。
「じゃあ、決まりだ。ダンブル山はまた夏には絶対行くから、その時に一緒に行こう。夏こそ虫のシーズンピークだからな!
カブトムシにクワガタムシ、もちろん寮の部屋でも幼虫は飼っているが、山で捕まえるのはまた一味違う。
セミもまた良い。ああ、虫かごがいくらあっても足りないな!収集瓶も買い足さないと……」
虫愛が強い。
「女子寮って……」
ついカナリアの部屋の中を想像してしまい、シンシアを見る。
「うん、カナちゃんの部屋は一番奥の部屋にされて誰も近寄らないよ……。
それをいいことに色々と自由にしてる。ていうか虫以外の花とかはいろんなところにあふれてる……。
花はきれいなんだけどさ……咲いた傍から刈り取っていくから……みんなに文句言われてるし……」
ひそひそと話す。
モーガンの知らないところでも色々あるようだ。
カナリアはそんなことは気にせずに、「虫採集用の天幕も買うべきか?」などとブツブツ言っている。
「しかし、今年は天文部も少なくてな、その上春休みはみんな家業だの旅行だのバイトだの入れてしまって……」
話しているうちにカナリアは不機嫌になっていく。
「嘆かわしいことに最近のこの学園の大学連中の興味はこぞって電気電気、化学、物理、そっちばっかりだ。
いや、電気も化学も物理も楽しい! そこは否定せん! しかし、私は天文と生物が好きなんだ!」
熱く語る。
「そもそも天文と生物の最新研究が盛り上がっていないわけではないのに、この学園ときたら盛り上がりが足りん!
望遠鏡も改良され写真技術も上がっている! 新しい星だって発見された! 進化論だってでてきた! 新種の虫だって見つかっている! 自然観察するなら今だろう!」
ヒートアップするカナリアにシンシアが「まあまあ」とお茶を注ぐ。
それをカナリアはグイっと飲み干した。
「だから君たちが乗り気で私はすごくうれしい。楽しい時間を共有してこそ喜びは倍増する。ああ持つべきはやはり友だ」
作業は順調に進み、立派な農園ができた。
子どもたちに報酬の小遣いと駄菓子を渡すと、子どもたちはまたもう待ちきれない!というように町まで走って行ってしまった。
もう小遣いで買うものが決まっていたのだろう。
カナリアは学校から借りたものを返してから帰るらしく、占い部三人は先に寮へと帰った。




