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一話 辺境の地

いつも読んで頂きありがとうございます♪

ストレス発散目的と本格的に書き始めました。

拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。


この作品は完結まで書く!

 ――ヘイロ海村南の波止場――


 海面から飛び上がってきた青年が一際大きな吐息を響かせると、それに合わせるように桟橋から覗くように伸びている細くも程よく鍛えられた健康的な美脚がぴんっと一度動いた。


 「タリオ、今度は何を仕留めたの?」


 声の主は【ミント】と言う名の女性で、タリオの幼馴染にして学友でもあった齢二十の半妖精族(ハーフエルフ)が桟橋に腰を落として両脚をぱたぱたと動かしながら彼に問いかける。


 タリオは海面から浜辺へと上がると獲物を足下に置いた。


 捕らえた魚類の図体は彼の体格の数倍はあろうかと言うのにタリオは、さも平然とした表情で桟橋に座る幼馴染の女に答える。


 「潮鮫だよ、それも結構な大物。」


 海水で濡れた全身を制御の効いた弱熱魔法と弱風魔法が並列行使されると瞬く間にタリオの全身から余分な水分は乾いていき、ミントは満足気な笑顔を浮かべる。


 タリオを乾かしてから桟橋から立ち上がり、爽やかな緑色の長髪を綺麗に(なび)かせながら彼の傍へと歩み寄ったミントは誂い混じりに言う。


 「いやいや、これ程の大物を獲らえるとは流石は()首席殿。」


 「喧嘩なら買うぞ?首席女王。」


 タリオは両拳を軽く構え二度、三度とその場でミントの顔に向かって素振りし終えると、にこやかな表情を浮かべミントも、にこやかに微笑む。


 「えぇい!お熱い所、申し訳ないッ!」


 二人の和やかな雰囲気をぶち壊しつつ一人の青年が駆け足でタリオに泣きついてきた。


 「どうした?ロウ。」


 かなりの距離を走ってきたのか、これまた幼馴染で学友であった男、ロウである。


 その慌てぶりと呼吸の乱れ具合から察するに事態は一刻を争うのだろう。


 「奴らが来た!今すぐ北門に行って畑が荒らされる前に何とかしてくれ!」


 タリオは救援を求められると即座に動いた。


 ロウに仕留めたばかりの獲物を任せてミントと共に村の北門へと向かう。


 若干距離がある村の通りを風魔法を駆使して駆け抜け北門手前に差し掛かると門の外側で村の大人達は既に魔物と交戦していた。


 だが、闘い慣れて居る筈の大人達は苦戦を強いられている様子だ。


 北門の直ぐ側には幾つもの畑や狭い放牧地が並ぶ。


 そこに作物や家畜を狙って毎度攻め込んでくる猪達だが、いつもと違い妙に数が多く、村側は数的不利によって対処が遅れてしまう。


 集団で襲い来る猪の群れを魔法で払うのは容易だが、それは〝火力〟をしっかりと制御出来ての話。


 下手打てば畑も家畜も殺しかねない。


 それゆえに王国奉仕の経験者ではあるもののゴタつく修羅場を魔法ではなく手持ちの武器で近接戦闘を大人達が選んでいたのは魔法による危険因子を排除出来なかったのだろう。


 数人の大人達は被害を少しでも抑える為に家畜を村内へと誘導し残りの者は猪の相手をするのだが、如何せん数が多く手間取る。


 そんな状況に追い討ちをかけるが如く魔物群を割りながら一際大きな体格の猪が村の大人達に向かって突進する。


 その直後、次々と大人達が耐えきれず宙を舞って落ちると負傷してその場に伏せた。


 勢いづく大猪の暴れ姿を見たミントはつい先程まで潮鮫を仕留めた(もり)を投げるよう言おうとしたが、隣で既に銛を投げ終えていたタリオは一言だけ彼女に返し、大猪へと向かう。


 タリオの投げつけた銛は猪の額をしっかり捉えいた。


 大猪はその反動で少しばかり仰け反ると両前脚を天高く上げ怯み、走りを止めて雄叫びをあげながら数歩後退りする。


 そしてそこからは一瞬の出来事だった。


 鈍い切断音が気絶(けたた)ましく聞こえたと同時に大猪の頭部は転げ落ち、人の何倍もある体躯は一度だけ地を揺らしながら重低音を響かせて横たわる。


 何が起きたのか状況を判断する村の大人達にはその瞬間が見切れなかったのかも知れないが、タリオとミントはしっかり状況を理解していた。


 目に焼き付いた光景は、クライフギルド所属時代、最上級元冒険者にして村の守護隊(ガーディアン)である【ルガード】による上級魔物の首を一刀両断する姿。


 「まだまだ!ハリュネ、援護してくれ!」


 ルガードが文字通り飛んできた方角の後方、守護隊の剛腕女流魔法士【ハリュネ・ハルバート】が斧槍を構え万全の準備を整え終えている。


 親玉をやられた有象無象の猪は散り散りに逃げゆく中、タリオはルガードとハリュネの援護に回り、ミントは負傷者の手当てに回る。


 ミントはかすり傷から深手まで負っていた村の大人達を片っ端から魔法で癒してゆく。


 「助かるよ、ミントちゃん。」


 彼女によって傷を癒される大人達が次々と礼を述べていたが、ミントは優しくも上品に気遣い無用と言ってのけタリオ達の方向を眺める。


 「ハリュネ、一掃しろ!」

 「ええ、一匹たりとも逃しはしないわ!」


 ミントの眼前に映る姿は、かつて憧れた冒険者そのものであったが、完璧に魔法を使い熟すハリュネの腕の良さに言葉をのんだ。


 流石はルガードと共に名を馳せた最上級元冒険者だ。


 田畑や放牧地を囲う木柵を壊さぬよう制御された雷撃と呼べるそれは散り散りに逃げる全ての猪を痺れさせ動きを封じる。


 ルガードが次々とそれを屠るが、負けじとタリオも参戦すると、魔物の掃討はハリュネの想定を超えたものとなる。


 「また腕を上げたな、タリオ。」

 「へへっ。毎日鍛えてるから。」

 「確かにな……だが、まだまだ俺には遠く及ばないぞ、精進しろよ。」

 「なに、偉そうに言ってんのよ?さっきまで必死こいて間に合えって焦ってた癖に。」


 ルガードとタリオの余裕綽々な話しぶりにハリュネが加わると一層と場は和む。


 やがて村内に退避していた村民達が続々と北門に集まり始め、狩猟の基本的な後始末である〝解体〟が始まると皮や肉といった素材の仕分け作業が賑わう。


 村長【スンデ】はその指揮を孫であるタリオに一任すると、彼は張り切ってその場を仕切るのだが、それを他所にスンデはルガードとハリュネを呼びつけて自宅へと姿を消していった。


 北門直ぐ側では、すっかり傷が癒えた男衆の妻達にミントは声をかけられていたが彼女は自惚れる事もせず笑顔で対応しては、横目でタリオを追う。


 その視線の在り方に淑女達は誂うつもりは毛頭無いのだが、自然と彼女の感情に寄り添った結果、ミントは頬を赤らめながら照れた。


 「時代は変われど男と女のやるべき事は何も変わらんさ。」

 「えぇやないの、あんな男前早々おらんのやし。」

 「待ってるだけじゃ、その内誰かに奪われるかもよ?」


 方方から放たれた言葉にミントは少なからず動揺して慌てふためき苦し紛れに話を逸らそうとするが、その立ち振る舞いに業を煮やした熟女【ラチア】がミントの両肩に触れながら、彼女の視点を反転させて背中を押す。


 「ウチらも男共と〝若い芽〟の手伝いをしてやりますかね、ほら行くよアンタ達。」


 ラチアの檄に感化する女衆と半ば強引に連れられるミントが解体作業に参加すると作業効率は格段に凄味を増して軽快に進んでゆく。


 村の倉庫は至る所に点在するのだが、主要倉庫となる村の中央倉庫に素材を運ぶ途中、ラチアは主役二人を労うと休む様伝えたが、タリオの目を盗みながら熟女のウインクはミントをしっかりと貫く。


 「後はラチアさん達に任せておいて……お言葉に甘えて少し話しない?」

 「ん?あぁ、そうだな……そうするか。」


 タリオとミントは平静を取り戻した光景の中、再び浜辺へと辿り着くと、タリオは柔らかな白砂のベッドに気持ち良さそうに寝そべりながら、ミントはその傍らで脚を伸ばして座る。


 「ねぇ、タリオ。ずっと気になっていたんだけど、何で村に帰ってきたの?あれだけ冒険者に憧れていたのに。」


 少し間を置いて考え込んだタリオは眉間に皺を寄せていたが、それを解きつつ正直に打ち明ける。


 「王国奉仕……のお陰かな。」

 「だよね……。」


 ミントはその言葉を聞いて、彼の性格をよく知るがゆえに何となく察しがついていたが、王国奉仕退役後から二年と少し。


 どうにも本人の口から本心を聞く勇気が持てれなかった。


 ――王国奉仕……それは、王都による有望な若手の青田買い政策である。


 他国の王家や貴族は自国内を査察し各地で見つけた有望株を後々囲う、ある種の余興を敢行しているものなのだが、クライフ王国は一味違う。


 大陸一の国土も然ることながら、王族も貴族も怠慢の一語に尽きる。


 奉仕は教養や鍛錬を中央学術院と呼ばれる施設で受けれるのだが、大半の若者はそこで一生の進路を決める事となる。


 成績次第で良い思いを出来る反面、地方の将来性が削られる在り方に反発の声は昔から一定数有るものの、優秀な人材ほど王都や王都周辺の発展都市に留まる。


 恩恵と弊害が入り混じる何とも面倒な制度――


 「そういやさ、そっちこそ首席なのに色んな勧誘蹴ってまで村に戻ってくるなんてな。選択肢は多かっただろ。」

 「う〜ん……どれ選んでも私の〝夢〟は叶えられそうに無かったから、余り魅力的じゃ無かったのよね。」

 「はぁ?癒し魔法扱える上に地と風と熱魔法の【四種属性魔法士(カルテッター)】なのに、それでも叶えられそうにない夢ってどんだけデカいんだよ。」


 少し沈黙するミントは深い溜息を漏らすと語った。


 「……私さ、王族も貴族も嫌い。何かにつけて金だの地位だの煩いし、傲慢だし、強引だし。そんな人達に私の人生捻じ曲げられたくない。」

 「あぁ、そうだな。俺もその口だ。ザッツやルーヴやらみたく、それを望む奴らがそうすればいいだけだ。」

 「そうよ、そんなもの望んでいない私はもっと平凡で良いの……生まれ育った故郷で一人の女としての幸せを望んでるだけで充分。特に貴族共!半妖精族だからってだけしか観てないし、言い寄られるのも気持ち悪い!」

 「ははは!王都でそれ言ったら即極刑だな!……で、平凡な幸せって何だ?」


 予期せぬタリオの一言にミントは急に胸を締め付けられたと錯覚した途端、寸前の言葉を吐いてしまった事を後悔した。


 学術院を退役後、帰郷して二年、一度も自身の決断に悔いは無かったのだが、高鳴る鼓動を抑えようとすればするほど、隠していた感情が増長するのが判る。


 早まる脈拍は確かにミントの脳を活性化する。


 だが同時にある感情も同様に膨れ、それが抑止力となる。


 村での生活は奉仕前後で随分と世界観が変化した。


 王都での六年間という時の流れは良い面も悪い面も豊富にあったが、何よりも自身の人としての成長があらゆる可能性を拡げたせいでもある。


 (とりあえず、落ち着け私!)


 軽やかなさざ波の音色と緩やかな陽射しを浴び、柔しいそよ風に自慢の長髪が揺れながら頬を撫でる。


 寝そべるタリオに視線を向けながら右頬に掛かった髪を指先で掻き上げ耳に乗せると、ミントは溜めに溜めていた答えを教えようとした瞬間、何処からともなくタリオを呼ぶ声が聞こえた。


 ――水を差されるとはこの事を言う。――


 満面の笑みで駆け寄ってきたのは、ミントの妹【モルガナ】や村の幼年層世代数人に加え、保護者役として大人達から面倒を押し付けられていたロウとその婚約者でミントの姉【ロベリー】達だったが、起き上がったタリオに、いの一番に飛び抱きついてきたのはロベリーの飼い犬であった。


 「おぉ、こいつは大猪並みに強烈な体当たりだなジェライス!」


 綺麗に手入れされた漆黒の毛並みがその巨体でミントの視界を遮りながら、タリオの顔を舐め回し、続々と押し寄せてきたモルガナ達の和気藹々(わきあいあい)とした賑やかさにそれまでの空間はぶち壊れされる。


 「あらあら、ジェライスったら本当にタリオが好きなのね。犬って良いわね〜純粋に好きな相手に迷わず飛び込んでいける勇敢さがあって。」


 ロベリーはミントを観ながら諭すように言うと、ミントは不貞腐れながら皮肉を呟いた。


 「ジェライスは犬だからね……。」

 「あらあら、拗ねちゃって……それでも同じ血なのかしら?本当はジェライスが羨ましいんでしょ。」

 「……!」

 「ジェライスみたく曝け出しなさいよ。」

 「私は姉さんのように節操無しじゃないから!」

 「まだまだお子様な実妹ね……。情けない……。」


 姉妹のささやかな攻防を見守るロウはそんな二人の間を割って入りなだめる。


 「ていうか、姉さんは本能曝け出しすぎなのよ……学術院で何学んだの……!」

 「何って……〝狩り〟……かしら。」

 「こんなのが同じ種から産まれてきたなんて信じらんないわよ……。」


 ミントがそう言うと、すかさずロベリーは口を挟む。


 「貴方ね、半妖精族は長命だからと思ってたら大きな間違いよ。人族を知らない訳じゃないでしょ、奴等は短命だからあれもこれも欲望の赴くままに発展してきた結果、王都を観れば解るでしょう。欲に王族貴族も他族も関係ないのよ。生きている内しかやりたい事出来ないんだから。」

 「その考えは一理あるから解らないでもないけど、姉さんは度が過ぎてるのよ。村の子達にとって危うすぎる!昨日の晩、村の納屋なんか使って何してたか自覚あ……。」


 ミントの怒りが込められた口調と言葉を幼年層に聴こえないようにロウはすかさず遮音処置をする。


 彼は音漏れせぬ魔法障壁を、二人の空間丸ごと囲むように張り終えると何食わぬ顔でジェライスと戯れるタリオに話しかけるが、村の幼い子らは姉妹の喧嘩の理由をロウに尋ねては彼は笑顔でそれを捌く。


 「ルガードさんが呼んでるからすぐに家に来いってよ。」

 「そうか、手間かけたな。休憩もした事だし、家帰るか……で、あの姉妹は何してんの?」

 「あー……なんでも無い、いつもの事だ。」


 ロウは両手の平を仰向けつつ涼し気に答え姉妹と子守を続け、タリオは自宅へと足を運ぶ。


 自宅へ戻ると、祖父のスンデ、ルガード、ハリュネの三人が待ち構えていて卓を囲むようにタリオも椅子に座った。


 「で、話ってなんです?ルガードさん。」

 「まぁ、聞くより読んだ方が話は早い。」


 卓上に撒かれた封筒を一つ一つ手に取ると、数枚は王宮印が、残りは王都を始め地方貴族、伯爵家の印が押された書簡が何通もあり、タリオは大きな溜息を吐いた。


 見慣れた数々の印を見るだけでも彼は吐き気を感じて項垂れる。


 「しっかり全部読め。特に最後の一通は誠意を欠けば下手すりゃ投獄ものだからな。」


 タリオはルガードにそう聞かされると、気怠さを隠そうとせずに一通、また一通と目を通す。


 中身はどれも堅苦しい挨拶から始まり本題に差し掛かると王宮や貴族の衛兵、果ては内政官といった職への勧誘であり、それらを読む度にタリオは無の感情を露わにする。


 かつて王国奉仕へ出向いた当初は子供ながら王都の華やかさや賑わう人達の生活に憧れたが、年齢を重ねゆく中、王族や貴族達との接触機会で()()の一角を知ると途端にその気は萎えた。


 文明の近代化は確かに魅力的ではあった。


 だが、それらを扱う者達の器量の矮小さや思考はタリオにとって苦痛以外の何物でもなく、いつしか彼の目には王侯貴族という言葉のみですら嫌悪感しか抱けなくなっていた。


 大半の同郷の(よしみ)達はそんな事を露にも思わず奉仕を終えると王都を中心に進むべき道を歩んでいったが、タリオはミントやロウと帰郷したのだった。


 特に奉仕最後の一年間は悪夢だったと彼はいつぞや祖父のスンデに話したこともあった。


 「前例は無い。本来ならば奉仕期間での勧誘辞退は国家背信に等しいと見なされるのだが、どういうわけかミントを差し置いてお前に再度通達してきたわけだが、どうしたい?」


 ルガードにそう言われてもタリオの答えは決まりきっていて口に出す事すら馬鹿馬鹿しく、無表情から一度だけ深い溜息を吐いたのは最後の一通に目を通した直後だった。


 その様子を眺める三人は、やはり、と顔を見合わせスンデが言った。


 「ならば、辞退状を一筆したためなさい。二度も断れば彼等も流石に諦めるであろう。」


 その言葉を聞くや直ぐ様にルガードは疑念を持つ。


 「そうでしょうか……貴族というのは悪い意味で気位が高いのはスンデ様も御存知の通り、すんなり諦めるとはいかないかと。寧ろ一度ならず二度も辞退となると、良からぬ仕打ちに走る者が多い様に思えます。リーズン王国の貴族の意地の汚さともあれば……。」

 「一悶着……は有るだろうな、だからといって拒む者を無理強いすればどうなるかくらいは理解しておるであろう。なに、力ずくで来るならば色々()()があるゆえ、みすみす孫を渡す事はせんよ。」


 白く染まる長い顎髭を摘み撫でながらスンデは落ち着きを放つ。


 「三下貴族共ならまだしも、厄介な相手からも書状が来ておりますから至極面倒な事にならければ良いのですが……。」

 「タリオの決断に私は賛成よ、ルガード。そんなに心配なら貴方が根回しなり実力行使しなさいな。私も手伝うわよ。村の行末にこれ以上ちょっかい出させないためにもね。」

 「……ハリュネも協力してくれるなら助かるが、タリオ、いつ何時も私達はお前の味方だ。独りよがりにはなるなよ?」


 ルガードがそう言うとタリオは一度だけ大きく頷く。


 「だが、その最後の一通に対しては流石に逃げられんからな。」


 スンデの言った最後の一通は、王宮や貴族達のものでは無かったがタリオにとって手紙の送り主の狙いも粗方察しがつく内容がしたためられていた。


 「しかし、王族も考えたものね。王位継承者を視察に遣わせるなんて、普通そこまでする?」


 ハリュネの言葉通り、通例、王位継承者は政治的利用価値が高くあるために国家にとって利がある場合のみに働きかけるのだが、海村はそれこそ捨てられた集落。


 今回の査察は異例である。


 「全く……ベアラーもしつこいんだよ。」

 「確か、ベアラー王太子殿下とは同期だったな。噂じゃ彼は既に賢王の片鱗が有るとか。実際どうなんだ?」

 「賢王ね……まぁそこらの有象無象と比べたらマシだと思う。現行の国策には塵一つ良しとは考えてないから。」

 「あら、なら良いじゃない。同期なら根回しは幾分しやすいでしょ、相手が相手だけど。」

 「それはそうだけど、今回の査察目的、きっとあの話の続きなんだよなぁ〜。」

 「あの話?」


 ルガードもハリュネも興味深くタリオに注視し、スンデは無言を貫く。


 タリオは一度祖父に顔を向けるが、いずれ公になるだろうと踏んで先に二人へ話すよう促した。


 渋々打ち明けるタリオの言葉、それを聞かされたルガードとハリュネは天井を仰いでから卓へと項垂れた。


 ――書簡が届いてから半月後の朝は村の雰囲気は異様なまでに熱を感じられる。


 王都査察団の一行の馬車が村の西門に到着すると、先導していた騎士が門前で馬から降りて口上を述べると、村長筆頭に村の役持ち達は開門と一礼を告げた。


 続々と村入りする一行を挟むように通りの両端に村民は並ぶと中央広場にて待ち構えていたタリオは自前の剣身を天に真っ直ぐと掲げ両拳で柄を握り剣鍔を軽く胸に押し当て敬礼する。


 「出迎えご苦労である副主席殿。」


 貴族馬車の客室からステップ伝いに降り立つ男の声にタリオは心の底で不愉快を孕むが、直ぐ様にその感情は消え去る。


 王国奉仕、もとい学術院での同期であり、親友でもある【ベアラー・イン・リーズン】王太子殿下の公務とはとても思えない緩んだ表情と態度に、ついタリオも懐かしき面影につられそうになるが、冷静に諭す。


 そのやり取りはベアラーの近衛騎士からすると不敬なように見えたが、王太子殿下はそれを制した。


 ベアラーにとって今回の査察の大部分は各領地の現状確認よりも私情が強いのである。


 「お忍びでこればいいものを……ちと我儘が過ぎやしませんか殿()()。」

 「ハハハ……すまないな、今回は色々あって公務としての行動が良いと判断した。今日という日をどれほど心待ちにしたことか。」

 「なら、〝公務〟としての振る舞いを願います。村民が驚いてますから。」

 「うぇ……お前に言われると、なんか、反発したくなるんだよなぁ……。」


 タリオとベアラーはそう囁き合っていると客室から従者に手を引かれ一人の気品ある若い女性が海村の地に降り立った。


 村民達はその姿を拝見するや口々に恍惚感に浸る。


 【フェリス・イン・リーズン】第一王女である。


 「事前に述べていた査察だが、明日行うとしよう。諸々の話はその後で良いかい?」

 「この村に泊まるつもりなのか?大した(もてな)しは出来ないぞ、それに寝床だって……。」

 「僭越ながら、ベアラー様。この村の宿舎は王侯貴族様向けでは御座いません。少々御時間頂けましたら少しはマシな寝床を御用意出来ます。御容赦お願い……。」


 スンデの言葉を遮る形で手を軽く掲げたベアラーは遮った。


 「そなたが噂のスンデ殿だな。立派な親友を育ててくれた事に先ず敬意を……それと査察はあくまで表向きの口実であって一切の気遣いは無用。ありのままの村を見せてほしい。」

 「はっ。御身のままに。」


 二人の会話が終えようかとした際タリオは背後から軽い衝撃を受け、僅かながら振り返ると自身の背に顔を埋めるフェリスの姿があり、その両腕はしっかりとタリオを締め付ける。


 「無事、公務復帰されたのですね、フェリス王女。」


 王女は何か呟いているが、顔を埋めたままで誰も聞き取れないでいると、ベアラーは彼女を引き剥がすように妹の肩を掴みかけ諭す。


 ようやく離れた王女に兄として王族として妹の蛮行に苦言を呈すが素直に受け入れる様子は無い。


 「兄様だけ不躾な振る舞いが許されて、私は許されないのはおかしいです!そもそも私達は婚約の身なのですから、このくらいどうってことありません!」


 王女の発言に騎士達も村民も大層驚くものの、ベアラーとタリオは肩を落として呆れ果てる。


 「それは何度も言っただろう、王女は他国の王家か有力貴族との婚姻しか認められない。現にタリオだって何回、何十回……いや、何百回と断ってるじゃないか。それをお前が勝手に婚姻扱いに持っていく神経には僕もタリオも疲れる。」

 「あぁ、毎度、婚約婚約言われてもな。そもそも今回〝公務〟だろ?一国の王女が公の場で吐く台詞じゃないな。」


 二年ぶりに再会した後輩は成長した姿ではあったが、当時より更に磨きかかった愛嬌さはタリオにとっても悪い気はしない。


 拗ねている姿を見慣れている従者は平然とした対応を見せ、普段王宮で彼女がどの様に振る舞っているのかが、それだけで計り知れた。


 「いやはや、流石はヘイル王のご令嬢。王の若かりし頃にそっくりなものですな。」

 「爺ちゃんそれ、失言だろ。」


 スンデは王女の姿にかつての王の姿を重ねると思わず口を開かずにはいれなかった。


 「スンデ!いつぶりかしら!?元気にしてた!?」


 活発な王女の問いかけにスンデはその健勝ぶりを伝えながら宅へと招くと、数人の役持ちや騎士達はそれに同行する。


 近衛騎士長に何かを囁いた後ベアラーは数人の従者とタリオを連れて村内を練り歩く。


 村の発展状況や畑の視察に家畜の種類や数の確認だろうか、ベアラーは従者達と記録するのだが、やたら手際が良く思えた。


 浜辺に差し掛かると雄大な水平線から反射する陽射しのきらびやかさに足を止め、浜へと降り立ったベアラー。


 「タリオ、聞いていた話よりも良い場所じゃないか。」


 学術院時代、各地から集った学友の話をよく聞いていたベアラーを思い出すと、タリオは一言だけ返したが、ベアラーは従者達に振り返り、命じた。


 「ふぁ〜、やっと話すことが出来る。」


 外套に身を包んでいた二人の騎士はベアラーの言葉により素顔を晒すと、二年ぶりの故郷の空気を余すことなく吸う。


 「ザッツ!ルーヴ!?」


 そこにはかつてヘイロ海村で共に育ち学術院で切磋琢磨した学友の二人が片手で返事しつつもタリオと再会を果たす。


 「ここに来るなら彼等の同行もあった方が良いに決まっていたからね。」

 「久しぶりだな、タリオ。元気そうじゃねーか。」


 ザッツは王国騎士として既に四年経つが直近の一年は腕を認めらて華型名誉の一つともいえる【霧騎士】となっていた。


 「霧騎士だって!?お前が?」

 「当然だろ。何を驚いてやがる。」


 王国騎士の名誉の一つである称号を持つ悪友が出世街道真っしぐらと知ってからタリオは彼を見る目を変えた。


 霧騎士とは、戦場や迷宮での斥候を任されるのだが優れた戦術眼、卓越した知識や技能、抜きん出た体力が無いと霧騎士どころか斥候部隊すらも着任出来ないといわれる。


 いわば優秀中の優秀騎士。


 「俺ですら三年で手にした、タリオならもっと早く着任したかもな。」

 「いや、俺にはザッツみたく魔物の気配感知や習性を利用した戦術は持ち合わせていないからな。奉仕期間でもいち早く勧誘が来たのもザッツだったし、今思うと当然なのかもな……で、ルーヴはどうなんだ?」


 タリオはザッツを讃えるともう一人の女流騎士に問いかけた。


 「あぁ、私は戦闘馬鹿と違い今はフェリス王女の親衛隊にいる……というのは表向きで、やることと言えば大した事はない。身の回りの世話は執事達の仕事、護衛は親衛隊がやるが、私は専ら王女の話し相手に過ぎない。」


 ルーヴは語る際目を細める癖がある。 


 その癖が見受けられるのは現状の立場に不服なのだろうとタリオは察したが、人口が少なかったとは言え、村一番の美少女と謳われた彼女のあらゆる成長ぶりに彼女の母の記憶を過ぎらせていた。


 「さて、学友が四人いる訳だが……ミントは何処にいる?この際、全員揃わないと意味がない。」

 「ミントなら今頃、宿舎の敷布作りに工房にいるはず……呼んでくるか?」

 「あぁ、是非とも。」


 タリオは足早に工房へとミントを呼びに行き、浜辺に残った三人は互いに顔を見合わせたが、ザッツとルーヴの表情は何処か暗く、ベアラーの表情は堅い。


ここまで読んで頂きありがとうございました♪

極力サボらず毎日マイペースで少しずつ書き出してますが

一身上の都合により不定期更新となります。


また次話読んで下されば嬉しいです♪


書き溜め… …_φ(・_・

修正済

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