第5話 『埃まみれの思い出』
、、、翌朝
「今日もいい朝でござる。見渡せども見渡せども雲一つないこの青空、旅の始まりにはぴったりの朝でござーーる。」
ドカッ
「朝っぱらからうるせえよ。何でそんなにテンション高いんだよ。」
朝から元気すぎる水無月の頭に、慧翔が拳を振るい怒りを露わにする。
「痛いでござるよー。今日から旅が始まるでござるよ。これがテンションを上げられずに済むわけがないでござるよ。」
「京介は王都に行くのは初めてなのか?」
「そうでござるよ。王都どころかここらの田舎地帯を抜けたことはないでござるよ。」
「それでそんなに興奮してるってわけね。でも、それを差し引いてもうるせえ。もう少しだけ静かにしてくれ。」
「了解でござるよ。あっ、そう言えば、拙者は自前の刀を持って行きますが慧翔殿はどうするでござるか?まさか素手で戦いに行くでござるか?」
「確かに素手じゃ話にならないな。京介の家には他に刀とかないのか?」
「もしかしたら、昔、父上が使ってたりしたものがあるかもしれないでござる。取り敢えず倉庫蔵を探してみるでござるよ。」
二人は朝食を済ませた後、屋外にある倉庫蔵で刀探しを始めた。水無月によると、ここはしばらく開けてなかったらしく、中は埃だらけだった。
「すごい埃でござるな。掃除はこまめにするもんでござるな」
二人はおもむろに刀を探す作業に取り掛かった。ここには、使わなくなったものを取り敢えず取って置いているらしい。しかし、、、
ここはゴミ屋敷かと思うほどのガラクタの山だった。
魚を咥えた猫の置物、そこらで拾ったようにしか見えない薄っぺらい丸みを帯びた石、穴だらけの和傘… 何故捨てずに取って置いているのかわからない。しかし、京介はこれらをただのガラクタとは思ってないようだ。
「おおー、これは昔玄関に置いてあった猫の置物でござる。熊の置物を買ったから居場所がなくなったでござるね。」
熊の置物のせいでこんな所に捨てられたのか、かわいそうに。
「おっとこっちには水切り20回を成し遂げた栄光ある石。拙者はあの時が全盛期であったでござるな。」
20回ってすごいな。今度川を通ったら勝負してもらうか。
「このボロボロの傘は、何でござったかな?」
「わからないのかよ。」
慧翔は、心の声を抑えきれずつい突っ込んでしまった。
「さすがに全部は覚えてないでござるよ。この蔵は拙者が生まれる前からあるから祖先の遺品だってたくさんあるでござるよ。」
「あっ、この面は慧翔殿も見覚えがあるのではござらんか?」
そう言って、水無月は赤鬼のお面を見せた。
確かに、これには見覚えがあった。確か、小さい頃に水無月の父がこのお面をつけてよく脅かそうとしてきたな。
でもよく見ると、お面は半分に割れてしまっていた。
「京介の親父さんにはよく遊んでもらってたっけな。昨日も見なかったけれど今はどっかに出掛けてるのか?」
「あぁ、慧翔殿はまだ知らなかったでござるな。父上は、少し前に亡くなったでござるよ。」
「そうだったのか。悲しいことをを思い出させてしまったな。すまなかった。」
「いいでござるよ。いつまでもくよくよしてたんでは父上に叱られてしまうでござる。それよりも、その面は慧翔殿の火傷痕を隠すのにぴったりではござらんか?」
慧翔は、言われるがままに面をつけてみた。丁度火傷の痕がある右側の半面だった上にサイズもぴったりだった。
「確かにこんな物騒な顔で人集りを歩くのはあんまりだったし丁度いいな。でも貰っていいのか?親父さんのものなんだろ?」
「気にしなくていいでござるよ。どうせこんな所にある以上とくに大切ってわけでもないでござるから。」
「それと、刀の方もあったでござるよ。無銘の『黒姫』でござる。拙者の刀 『蔵王』にも並ぶ業物でござるよ。まぁしばらく放置されていたので少々錆が浮いているやもしれないでござるが。」
「その辺の手入れは多少心得ているから問題ないよ。それよりも何でそんな業物倉庫に放られていたんだよ。」
「拙者には蔵王があったでござるから使う人間がいなかったでござるよ。それで家に置いてあっても邪魔だったのでここにしまって置いたでござる。」
「大雑把な性格だからこそできたこの山だしな。まぁでもこんなにいろいろ用意してくれたのは助かった。おかげで万全の準備ができたよ。」
「役に立ててよかったでござるよ。これでやっと旅が始まるでござるね。」
「あぁ、おばさんに挨拶を済ませたらいよいよ出発だ。」
水無月は、おばさんに旅に出ることなどを話した。少し悲しそうな表情も見せたが、
「だったらこれを持っていきな。できたてのおにぎりだよ。ほれ、旅人さんのぶんもたんまりあるよ。」
「感謝するでござるよ、母上。」
「二人とも、無事に帰ってくるんだよ。京介まで死んじゃったら寂しいからね。」
「わかってるでござるよ。母上もくれぐれも身体には気をつけるでござるよ。それでは」
「短い間でしたがありがとうございました。お元気で。」
こうして、2人の旅は始まった。




