第4話 『束の間の休息』
慧翔は、水無月 京助とともに王都を目指すことにした。
「慧翔殿、拙者 王都に向かう前に一度 上郷 によって旅の支度をしたいのでござるが...」
「確かに今のままじゃ何もできないな。わかった。ひとまず上郷に寄ろう。」
二人は旅の支度をするため、上郷に寄ることにした。上郷というのは、水無月の故郷である小さな集落のことだ。王都から離れた地には、このような小さな集落がたくさんある。逆に王都の近くになると、町になり、一つ一つの規模が大きくなってくる。
「ところで、慧翔殿を殺した相手は分かっているんですか?」
「いや、二人いた相手の一人しか分かっていない。一人は、同じ聖十字騎士団の遊馬 昴だ。」
「騎士団の裏切り者ってことでござるね。そのまま放っておいたらまた何かする可能性もあるでござる。」
「あぁ、その通りだ。この裏切りは、団長である俺の責任だ。次の被害が出る前に食い止めなければならない。」
「なら急がないとまずいでござるな。ところでもう一人に心当たりはないでござるか?」
「もう一人は、暗闇で全く見えなかった上に声も一度も聞かなかったから性別までさっぱりだ。だが一つだけ、奴は火炎、つまり呪力を使っていたんだ。しかも、俺の浄化の加護で防げなかった。」
「まさか、そんな奴が...騎士団を、王国を裏切ったってござるか」
「ああ、あいつは間違いなく聖者だ。俺は恐ろしい奴を敵にしてしまったみたいだ。」
「でもそれなら、簡単に探し出せるでござらんか?」
「いや、それが...いないんだ。騎士団の中には聖者が誰一人としていないんだ。もちろん、黒冥騎士団にもそんな奴はいない。だから、聖者である事を隠しているか、最悪の場合騎士団とは無縁の外部の人間って事だ。」
「つまり、手掛かりは、無いに等しいって事でござるね。」
そうこう話している内に、山道を抜けて集落が見えてきた。
「ここに来るのは、かなり久しぶりだな。おばさん達はみんな元気にしているか?」
「みんな年取るの忘れたってぐらい元気でござるよ」
「そうか、それは楽しみだな。」
「あ、でも慧翔殿が生きているって事を言っても大丈夫でござるか?もし生きているのが知られたらまた殺しに来るかもしれないでござるよ。」
「確かに、それは考えてなかった。幸いにも顔は火傷のおかげで俺とは判別しにくいだろうし、何より死んだ人間が生きてるとは思はないだろう。あとは名前をどうするかだな...」
「ナギという名前はどうでござるか?」
「ナギ?」
「そうでござる。みかなぎのなぎをとったてござる。家名は、めんどくさいから無しという方向でどうでござるか?」
「ナギか、悪くないな。ありがとうな、京介。」
「気に入っていただけたなら拙者も嬉しいでござるよ。話している内に着いたでござるよ。」
上郷は、昔と変わらない町並みが残されていた。二人は、京介の家である風呂屋に向かった。
「母上、帰ったでござるよ。旅人さんも連れてきたでござるから風呂を使わせてもらうでござるよ。」
「おお、旅人さんか。よくこんな小さな集落にきただな。さぁさぁ、ゆっくり湯さ入って体あっためな。ここの湯は、傷にもよく効くよ。」
水無月の母は、相手が慧翔とは気づかずに接していた。
「ありがたく風呂を使わせてもらいます。」
「どうぞどうぞ、ごゆっくり。」
先客はどうやら誰もいないらしく、二人だけの貸切だった。服を脱ぐと、顔以外にも、たくさんの切り傷や、火傷のあとが残っているのがわかった。けれど、どの傷も、痛みは一切ないのが驚きだった。
湯は、心地よい温かさで、色々立て込んで疲れていた慧翔には、身体的にも精神的にもよく効いた。
「どうでござるか、久しぶりの温泉は?」
「最高だよ、今までの疲れがどっと消えていくよ。」
二人はしばらくして温泉を出た。水無月は、自分の新しい和服をきた。慧翔も、さっきまで着ていたボロ布では見っともないので、体格のあまり変わらない水無月の和服を借りた。水無月は、青を基調とした和服、慧翔は、黒を基調とした和服を選んだ。
「とりあえず今日はここに泊まって明日からまた旅をはじめるでござるよ。」
「それがいいな。」
水無月は、布団に入るとすぐに寝てしまった。
だが、慧翔は、なかなか寝付けなかった。王都にいる姫が心配だったのだ。姫の住む館が狙われたということは、姫も狙いの内に入っていたのかもしれないのだ。
「わからない事を悩んでも仕方がない。今は休息の方が大事だ。」




