第九章 騎士団の精鋭カリーナ
王都には、国を守る騎士団が存在する。
魔物や盗賊。
時には、他国との争い。
様々な脅威から国民を守るために、日々鍛錬を続けている。
その騎士団の中でも――
「そこまで!」
訓練場に、声が響いた。
「…………」
地面に倒れている騎士。
その前に、一人の女が立っている。
金色の髪。
鋭い眼差し。
騎士団の制服に身を包み、手には一本の剣。
「まだ立てるでしょ?」
「……は、はい!」
「なら立ちなさい!」
「はい!」
騎士が立ち上がる。
だが――
次の瞬間。
女の姿が消えた。
「なっ――」
ドンッ!
騎士の身体が再び吹き飛ぶ。
「…………」
周囲の騎士たちが息を呑む。
「相変わらず、とんでもないな……」
「女性騎士であそこまで強い奴、他にいるか?」
「さあな……」
その女の名は――
カリーナ・オード。
オード家の令嬢。
そして――
ファジー・オードの姉である。
「まだまだね」
カリーナは剣を収めた。
「身体強化だけに頼ってたら、いつまで経っても私には勝てないわよ」
「……カリーナ隊長にそれを言われても……」
「何?」
「いえ……何でもありません」
カリーナの固有魔力。
それは――
多重付与。
一つの付与だけではない。
身体強化。
脚力強化。
腕力強化。
さらには、炎や雷などの属性付与。
それらを重ねがけすることで、通常では考えられないほど自身の能力を高めることができる。
その力と卓越した剣技によって、カリーナは女性でありながら騎士団でもトップクラスの実力を持っていた。
「次!」
カリーナが声を上げる。
「俺が行きます!」
「よし、来なさい!」
再び訓練が始まる。
そんな中――
「カリーナ!」
遠くから声が聞こえた。
「何?」
「陛下がお呼びです!」
「……陛下が?」
カリーナは首を傾げる。
「分かった。すぐ行くわ」
剣を置き、王宮へ向かう。
王宮。
謁見の間。
「失礼します」
カリーナが入室し、国王の前に跪く。
王座には、国王――
イコワ・ホムン。
「来たか」
「はい。何かご用でしょうか?」
「少し、最近の騎士団について聞きたい」
「騎士団ですか?」
「ああ。先日の祭りもあっただろう」
「はい」
「大きな問題はなかったか?」
「特にありませんでした」
カリーナは少し考える。
「騎士たちも警備に出ていましたが、街もかなり賑わっていたみたいです」
「そうか」
「子供たちも楽しそうでしたよ」
「……それは何よりだ」
イコワは小さく頷く。
「王都の祭りは、国民にとって大切なものだからな」
「そうですね」
少しだけ会話が途切れる。
そして――
「そういえば、お前の家も祭りに出ていたのか?」
「はい。妹が行っていたみたいです」
「妹……ファジーか」
「はい」
カリーナの表情が少し緩む。
「ファジーは昔から祭りが好きですから」
「そうだったな」
国王も知っている。
当然だ。
ファジー・オード。
この国で生まれた、その日から――
イコワが監視してきた少女。
「最近はどうしている?」
「いつも通りですよ」
カリーナは少し考える。
「街に出ては平民の人たちと話したり、魔法の勉強をしたり……」
「魔法か」
「はい。あの子、本当に覚えるのが早いんですよ」
カリーナは少し得意げに言う。
「私より魔法は得意なんじゃないですかね」
「…………そうか」
「ファジーの固有魔力は学習ですからね。本人も楽しそうに新しい魔法を覚えてますよ」
イコワは黙って聞いている。
「何か問題でも?」
「いや……」
イコワは視線を落とす。
「少し気になっただけだ」
「そうですか」
カリーナは深く考えなかった。
「そういえば」
カリーナが思い出したように口を開く。
「祭りで、ファジーが知り合った人と一緒に回ったみたいですよ」
「……知り合った人?」
「はい」
「誰だ?」
「えっと……」
カリーナは首を傾げる。
「アノン……だったと思います」
「…………アノン」
その名を聞いた瞬間。
イコワの表情が、ほんの僅かに変わった。
「その男について、何か知っているか?」
「いえ、私は会ったことがありません」
カリーナは首を振る。
「ファジーから聞いただけです」
「そうか」
イコワはしばらく考えた後、口を開いた。
「オード卿も、娘が見知らぬ男と祭りを回ったと知れば、気が気ではないだろうな」
「そうですかね?」
カリーナは不思議そうに首を傾げる。
「良い友人ができたんじゃないですかね?」
カリーナには、悪意などない。
ただ妹のことを話しているだけだった。
「……そうだな」
国王は静かに答える。
「もう下がっていい」
「はい」
カリーナは一礼し、謁見の間を出ていった。
扉が閉まる。
静寂。
「…………」
イコワは一人、王座に座っていた。
「アノン……」
その名を呟く。
そして――
机の上に置かれた一枚の書類へ目を向ける。
そこには、ファジーの名前。
出生時に行われた鑑定の記録。
そして、その固有魔力。
想像。
「…………」
国王だけが知っている。
ファジーが生まれた、その日から。
この力を恐れた私は――
彼女の両親に、本当の力を伝えなかった。
「学習」と、そう伝えた。
それが、あの娘自身が信じている力。
だが――
「……想像」
イコワは、その言葉をもう一度口にする。
そして、別の書類へ視線を移す。
そこには――
アノン。
最近、ファジーと接触した青年についての記録が、すでに作られ始めていた。
「…………」
偶然なのか。
それとも――
ファジーに近づくために送り込まれた者なのか。
まだ分からない。
だが。
「……調べる必要があるな」
国王は、静かにそう呟いた。




