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心の氷が溶けるまで  作者: 海月まったり


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第二十三章 暗殺者

挿絵(By みてみん)

 夜。


 王都は静まり返っていた。


 昼間の喧騒が嘘のように――


 街には静かな時間が流れている。


 その中を――ゼロは歩いていた。


 黒い服。


 顔を隠している。


 腰には短剣――暗殺者。


 男は周囲を確認する。


 人はいない。


 警備も少ない。


「…………」


 標的の屋敷は――目の前。


「ファジー・オード」


 男は小さく呟く。


「失敗は許されない」


 そのまま屋敷へ近づく。


 だが――


「…………」


 屋敷の向かい。


 建物の屋根。


 そこに――


「暗殺者か」


 ゼロは小さく呟く。


 男が屋敷へ侵入した。


 ゼロも動く。


 音を立てず。


 気配を消し。


 一瞬で屋根から降りる。


 暗殺者は気づかない。


 窓から屋敷へ侵入する。


「…………」


 廊下を進む。


 標的の部屋は――二階。


 男は階段を上がる。


 その時。


「――誰だ?」


「…………」


 男が振り返る。


 誰もいない。


「気のせいか……」


 再び歩く。


 だが――


「……遅い」


「――っ!」


 男の背後にはゼロが立っていた。


「な……!」


 男が短剣を抜く。


 ゼロは動かない。


「ここから先には行かせない」


「邪魔をするな!」


 男が斬りかかる。


 ゼロは身体を僅かに逸らす。


 刃が頬を掠める。


 次の瞬間。


 ゼロの手が男の手首を掴む。


「っ……!」


 捻る――短剣が落ちる。


「くそっ!」


 男が拳を振る。


 ゼロは受け止める。


 そのまま――腹へ膝を叩き込む。


「ぐっ……!」


 男がよろめく。


「お前……何者だ……!」


「…………」


 ゼロは答えない。


 男が距離を取る。


 腰から――もう一本、短剣を抜く。


「死ね!」


 再び襲いかかる。


 ゼロはその動きを見ていた。


 だが――


「無駄だ」


 身体を捻る。


 刃を避ける。


 肘を打ち込む。


 男の腕が止まる。


 その瞬間。


 ゼロの手が――男の首元へ伸びた。


「…………」


 一瞬。


 そのまま力を入れれば――殺せる。


 暗殺者として。


 何度もやってきた動き。


 何度も――人を殺めてきた。


「…………」


 ゼロの手が止まる。


 男が震える。


「な……何をしている……?」


 ゼロは答えない。


 ただ――手を離した。


「…………」


 男が驚いた顔をする。


「……情けのつもりか?」


「殺す必要がない」


「…………」


 ゼロは男の短剣を拾う。


 そして――


「誰に雇われた?」


「口を割るとでも?」


「そうか」


 ゼロは短剣を床に置く。


 男を見る。


「……お前がファジーを殺す理由は何だ?」


「…………」


 男は黙る。


 ゼロは目を細める。


「答えられないのか?」


「…………」


「それとも――」


 一歩近づく。


「わからないのか?」


 男の表情が僅かに変わった。


「……っ」


 ゼロはそれを見逃さなかった。


「そうだよな……」


 男は舌打ちする。


「……王宮」


「…………」


 ゼロの目が細くなる。


「やはりか……」


「俺は詳しいことは知らない」


「誰からの依頼だ?」


「…………」


「答えてくれ」


「……さぁな」


 男は俯かき吐き捨てる。


 その瞬間――ゼロは男の腕を掴む。


「痛っ!」


「手荒な真似はしたくない」


「……分かった」


 男が叫ぶ。


「王都の外れにある酒場で仲介人からだ」


「酒場の名前は?」


「……『月影亭』」


「月影亭……」


 ゼロは覚える。


 その時。


 屋敷の奥から――


「ゼロさん?」


「…………」


 ファジーの声。


 ゼロは振り返る。


「起きたのか」


「……どうしてここに?それに何か音が……」


 ファジーが廊下へ出てくる。


 そして――床に倒れている男を見る。


「え……?」


「大丈夫だ」


 ゼロが言う。


「この男は、もう何もしない」


「ゼロさんが……?」


「ああ」


 ファジーはゼロを見る。


 その顔には――驚きと、少しの安心が混じっていた。


「ありがとうございます」


「…………」


 ゼロは何も言わなかった。


 ただ――先ほど自分が男を殺さなかったことを思い出す。


 昔の自分なら。


 迷わず殺していた。


 だが今は――


「…………」


 ゼロは自分の手を見る。


 王宮――マクロは目を閉じていた。


 未来を見る。


 そして――目を開く。


「……やはり」


 未来の一つが消えている。


「暗殺者が――死んでいない」


 マクロは小さく笑う。


 その頃――別の場所では。


「…………」


 イコワが報告書を読んでいた。


「暗殺者が失敗した……?」


 その報告に――イコワの顔が険しくなる。


「誰が邪魔をした?」


「……分かりません」


「…………」


 イコワはしばらく黙る。


 そして――頭に浮かんだのは。


「ゼロ……」


 王宮の中に――疑念が広がり始めていた。

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