↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心の氷が溶けるまで  作者: 海月まったり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/19

第十四章 晩餐

挿絵(By みてみん)

 王宮。


 大きな扉の前で、ファジーは立ち止まっていた。


「……大きいですね」


「何を今さら言ってるんだ」


 隣に立つカリーナが呆れたように言う。


「物心ついてから王宮に来るのは初めてなので……」


「そうだったか?」


「はい」


 ファジーは王宮を見上げる。


 立派な建物。


 多くの騎士。


 そして――普段とは違う空気。


「……少し緊張します」


「別に取って食われるわけじゃない」


「お姉様、それはそれで怖いです……」


「冗談だ」


 カリーナは笑った。


 そのまま二人は王宮の中へ入っていく。


「お待ちしておりました」


 案内された部屋。


 そこには、すでに三人の男がいた。


 国王――イコワ・ホムン。


 そして――


「初めまして、ファジー嬢」


 第一王子、シーラン・ホムン。


「初めまして、ですね」


 第二王子、マクロ・ホムン。


「本日は来ていただきありがとうございます」


「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」


 ファジーは丁寧に頭を下げる。


 その隣で、カリーナも礼をする。


「楽にしてくれ」


 イコワが言った。


「今日は堅苦しい話をするつもりはない」


「はい」


 ファジーは席につく。


 カリーナもその隣へ座った。


 そして――食事が運ばれてくる。


「……わぁ」


 ファジーの目が少し輝いた。


 それを見たシーランが僅かに笑う。


「お気に召しましたか?」


「はい。とても美味しそうです」


「それなら良かった」


 シーランは穏やかに答える。


 その様子を見ていたカリーナが、少しだけ目を細める。


「……」


 そして――マクロは黙ってファジーを見ていた。


「…………?」


 ファジーが気づく。


「どうかしましたか?」


「いえ」


 マクロは笑う。


「少し、あなたのことを知りたいと思いまして」


「私のこと……ですか?」


「はい」


 マクロは自然な口調で続ける。


「普段はどのように過ごされているのですか?」


「そうですね……勉強をしたり、街へ出たりしています」


「街へ?」


「はい。街の人たちと話すのが好きなんです」


「なるほど」


 マクロは頷く。


「では――最近、よく街で会っている男性についても聞いていいですか?」


「…………」


 ファジーの動きが止まる。


 カリーナも少しだけマクロを見る。


「アノンさんのことですか?」


「それは私も気になるところだな」


「最近、ずいぶん仲が良いようではないか」


「妹の交友関係は、姉としても気になるところであろう?」


 カリーナが口を挟む。


「そういうものですか?」


「そういうものだ」


 マクロは笑う。


「失礼しました」


 そして再びファジーを見る。


「アノンさんとは、どこで知り合ったのですか?」


「お祭りです」


「どのような方ですか?」


「……不思議な人です」


「不思議?」


「はい」


 ファジーは少し考える。


「感情があまり表に出なくて……何かに興味を持つことも、あまりないみたいです」


「それでも、一緒にいるのですね」


「……はい」


 ファジーは小さく笑う。


「でも、時々笑うんですよ」


「…………」


 マクロの笑顔が僅かに変わる。


 イコワは黙ってその様子を見ていた。


「その男は信用できるのか?」


 イコワが尋ねる。


 穏やかだった食卓の空気が、僅かに変わった。


「……はい」


 ファジーは迷わず答えた。


「そうですか」


「アノンさんは、悪い人じゃありません」


 その言葉に――イコワの視線が僅かに鋭くなる。


 悪い人ではない。


 だが――本当にそうなのか。


 ファジーは知らない。


 その男が何者なのか。


 どこから来たのか。


 なぜ、過去の記録が存在しないのか。


 そして――なぜ、自分へ近づいたのか。


「……ファジー」


「はい?」


「その男から、何か変わった話を聞いたことはあるか?」


「変わった話……ですか?」


「ああ」


「特には……」


 ファジーは考える。


「ただ――」


「ただ?」


「アノンさんは、自分には夢も欲しいものもないと言っていました」


「…………」


 イコワは黙る。


 マクロも黙っている。


 だが――マクロだけは、その言葉を聞いた瞬間、僅かに目を細めた。


 夢もない。


 欲しいものもない。


 それなのに――ファジーに近づいている。


 ならば、何が目的なのか。


「……興味深いですね」


 マクロが呟く。


「そうですか?」


「はい」


 マクロは笑う。


「ますます、彼に会ってみたくなりました」


 食事は続いていた。


 その間、シーランは何度もカリーナへ話しかけようとしていた。


 だが――


「…………」


「…………」


 なかなか話しかけられない。


 そんな兄を見て、マクロが笑う。


「兄上」


「何だ?」


「先ほどからカリーナ嬢を見てばかりでは?」


「見ていない!」


「そうですか?」


「そうだ!」


 シーランは少し顔を赤くする。


「……まあ、いいですが」


 マクロは笑った。


「カリーナ嬢」


「はい?」


「兄が失礼しました」


「いえ、気にしてません」


 カリーナは淡々と答える。


「それより――」


 カリーナはシーランを見る。


「何か私に用があるのでしたら、直接言えばいいのでは?」


「……!」


 シーランは固まる。


「い、いや……その……」


「?」


「……今度、騎士団の訓練を見せてもらえないかと思って」


「訓練ですか?」


「ああ」


「構いませんよ」


「本当か?」


「はい」


 シーランの表情が明るくなる。


「ええ、お待ちしています」


 カリーナは少しだけ笑った。


 その様子を見ていたマクロは――何も言わなかった。


 兄のことなど、どうでもいい。


 自分が欲しいのは――ファジーの力だ。


 食事が終わる。


「今日はありがとうございました」


 ファジーが頭を下げる。


「こちらこそ」


 シーランが答える。


「また来てください」


「はい」


 そしてマクロがファジーへ近づく。


「ファジー嬢」


「はい?」


「もしよければ――」


 マクロは微笑む。


「今度、二人で話しませんか?」


「二人で……ですか?」


「ええ」


「…………」


 ファジーは少し困った顔をする。


 その瞬間――


「マクロ」


 イコワが口を挟んだ。


「今日はもう遅い」


「……そうですね」


 マクロは引き下がる。


「では、また改めて」


「はい……」


 ファジーは微笑む。


 だが――ほんの少しだけ。


 何か引っ掛かるものを感じていた。


 理由は分からない。


 ただ――マクロという青年が、どこか自分を観察しているように思えた。


 王宮の外。


 カリーナとファジーは並んで歩いていた。


「どうだった?」


「え?」


「王子達だ」


「……優しい方達でした」


「そうか」


 カリーナは少し考える。


「マクロ王子は?」


「…………」


 ファジーは少し黙る。


「……よく分かりません」


「そうか」


「でも――」


「?」


「なぜか、少しだけ怖かったです」


 カリーナは足を止めた。


「怖い?」


「はい」


「何かされたのか?」


「いえ。何も……」


 ファジーは振り返る。


 遠くに見える王宮。


「ただ……」


 自分を見ていた、あの目。


 笑っていたのに――


 なぜか、笑っていないように感じた。


「……気のせいだと思います」


 ファジーは再び歩き出す。


 カリーナもその後を追った。


 その頃。


 王宮の一室。


「……どうだった?」


 イコワがマクロへ尋ねる。


「はい」


 マクロは窓の外を見ながら答える。


「まだ、彼女の本心までは分かりません」


「そうか」


「ですが――」


 マクロは振り返る。


「彼女は、思っていた以上に普通の少女でした」


「…………」


 マクロは小さく笑った。


「だからこそ、余計に興味が湧きました」


 その瞳には、欲望が宿っていた。


「必ず、手に入れてみせます」


「マクロ……お前は……」


 イコワは息子の背中を見つめていた。


 その表情には、僅かな懸念が浮かんでいた。


 王都。


 夜。


 アノンは屋根の上にいた。


「…………」


 王宮を見つめる。


 ファジーは王宮へ呼ばれた。


 そして――無事に戻ってきた。


 それだけなら、問題はない。


 だが。


「……あの王宮で、何があった?」


 アノンには分からない。


 だからこそ――調べる必要がある。


 王宮。


 ファジー。


 そして、暗殺依頼。


 全てを繋げる。


 そのために――


「……もう一度、王宮へ入るか」


 アノンは静かに立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。