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心の氷が溶けるまで  作者: 海月まったり


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第十二章 探り合い

挿絵(By みてみん)

 路地裏。


 先ほどまで俺の後をつけていた王宮の騎士と、俺は向き合っていた。


「…………」


 男は剣に手を掛けたまま、動かない。


 俺も同じだった。


 二人を包む空気が張り詰めている。


「……ファジーとは、どういう関係だ?」


 やはり来た。


「……友人だ」


「それだけか?」


「さあな……」


「…………」


 男は俺を見つめる。


 何かを探るような目。


「祭りの日から、何度か彼女と会っているな」


「何を話した?」


「たわいのない話だ」


「…………」


 男の眉が僅かに動く。


「それだけか?」


「嘘をつく必要もないだろう」


 嘘ではない。


 全部を話していないだけだ。


「……お前は、いったい何者なんだ?」


「アノン……ただの善良な国民だ」


「真面目に答えろ!」


「なら――」


 俺は男を見る。


「お前にも答えてもらう」


「何?」


「なぜ王宮がファジーを監視している?」


「…………」


 男の表情が変わった。


 一瞬、ほんの僅かだった。


 だが、俺には十分だった。


「……知らない」


「嘘だな」


「なぜそう思う?」


「分かりやすいやつだな」


 俺は男を見据えた。


「騎士に向いてないんじゃないか?」


 男は黙り込む。


 やはり何か知っている。


 だが――俺も、すべてを話すつもりはない。


「ファジーには、いったい何がある?」


「なぜ彼女を付け回す?」


 男は答えない。


「王宮があの少女を監視している理由は?」


「…………」


「答えられないのか?」


「答える必要がない」


 俺は小さく息を吐く。


 これ以上話しても意味はない。


「もういい。時間の無駄だ」


 俺が路地の出口へ向かおうとした、そのとき。


「待て」


「…………」


「最後に一つだけ聞く」


「何だ?」


「お前は――あの少女に何をするつもりだ?」


「どういうことだ?」


 俺は足を止めた。


 そして――


「……何かしようとしているのはお前たちだろ?」


「…………」


「やらせはしない」


 それだけ答え、歩き出す。


「待て!」


 背後から声がする。


 だが――


 俺は振り返らなかった。


 路地を出る。


 王都の喧騒が戻ってくる。


「…………」


 俺は歩きながら考えていた。


 あの男。


 王宮。


 ファジー。


 そして――想像という固有魔力。


 すべてが繋がっている。


 だが、まだ足りない。


 決定的なピースが足りない。


 俺は懐に手を入れる。


 王宮から持ち出した書類と、暗殺依頼書。


 この二つを繋げるもの……。


 それを探さなければならない。


 その頃。


 王都の別の場所。


「……アノンさん、どこにいるんでしょう?」


 ファジーは一人、街を歩いていた。


 手には買い物袋。


 今日は家の用事で街に出ている。


「アノンさんに会えるかと思いましたが……」


 ファジーは周囲を見渡す。


「一人で出歩いていると、また心配を掛けてしまいますね」


 ふと、足を止める。


 昨日までなら、気にも留めなかった。


 だが――


「……少し、寂しいですね」


 小さく呟く。


 祭りの日から、アノンと話す時間が増えた。


 隣を歩き、一緒に食事をした。


 ……ほんの少しだけ、彼のことを知れた。


 感情が薄く、何にも興味を持たない。


 それでも――時々、ほんの少しだけ笑う。


「……不思議な人」


 ファジーは微笑んだ。


 そのとき――


「お嬢様!」


「……?」


 後ろから声を掛けられる。


 振り返ると、オード家の使用人が立っていた。


「またですか!」


「はい……少し買い物を……」


「お一人でですか!」


「そうですが……」


 使用人が周囲を見回す。


「お屋敷までお送りします!」


「大丈夫ですよ……」


「貴族令嬢としての自覚をお持ちください!」


「本当に大丈夫ですよ」


 ファジーは困ったように笑う。


「今日はいい天気ですし、もう少し歩きたいんです」


「…………はぁ……」


 使用人は大きく息を吐いた。


「……承知しました」


 そう言って、一礼する。


 ファジーは再び歩き始めた。


 その表情は、いつもと変わらない。


 ファジーは何も知らない。


 自分が王宮に監視されていることも。


 自分の本当の魔力も。


 そして――


 自分を殺すために送り込まれた暗殺者が、今では自分を守ろうとしていることも。


 まだ……何も知らなかった。

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