第九話
小型帆船は岸壁に接岸していた。船からは何本もロープが出てあちこちにある係留ポイントに結ばれていた。海面は波もあり小型帆船は揺れていた。
小型帆船の舳先は洞窟の外側に向いていた。左舷には頼りなさげなフェンダーが二個ぶら下がり岸壁と船の間で挟まれていた。
「ちょっと想定より荒れるのが早かったね」
「早かったというより少し南にいたみたい。いつもなら縁を通れた航路で少し入り込んでたわ。クローズホールドギリギリだと引き込まれたと思う」
岸壁の上で敷布を広げリーグとリーナは寛いでいた。多少の潮はリーグの丸洗いと脱水にリーナの温風でどうとでもなった。
加熱魔道具にはじっくりコトコト煮出したスープが作られていた。小さな灯光魔道具が何個か置かれ洞窟を照らしていた。
この洞窟は孤独岩に人為的に作られたとリーグとリーナは考えていた。リフールで孤独岩を知っている人でも洞窟の話を聞いた事はなかった。
そもそも孤独岩は多くの航路から外れていた。そして海流が複雑で南方諸島でも有名な難所の一つだった。つまりリーグ的には試験場だった。
洞窟は奥行きが25mぐらいで幅は15mぐらいと大きいと言える物だった。しかし明らかに人の手で作られた完成度の高い係留岸壁だった。
「今日はもう出れない。明日のお昼過ぎまでは影響が残りそうなんだよね?……なら明日の良い頃合いで出て東に向かう海流に入ろう」
リーグが海流に頼って移動する案を示した。
「少し環礁より南に出るけど夜中も流されるし楽さでは上かな。このあと少し釣りをして食材確保すれば夜はまったりできるね」
基本は潮の流れに乗るので細かい事は考える必要もないので楽だと話した。リーナもここに来た時の定番航路なので頷いた。
リーグは釣具を船から持ち出した。釣り竿を組み立てリールを付けて竿のリングを通して仕掛けを付けた。金属で作られた疑似餌は少し重めを選んだ。
「その釣り竿ってもう二年は使ってるよね?」
リーナは編み物の手を止めてリーグに話しかけた。リーナは釣りを嗜まないのでこういう暇な時間は編み物をしている事が多かった。
「そうだね。この釣り竿はめちゃ仕上げが丁寧だから手入れしてる限り使えそうな気がする。釣り竿をくれるって聞いた時は荷物になるって考えてたけど」
この釣り竿も貰い物だった。珍しく一本マストの冒険用といった感じの帆船だった。船体はほっそりしていてとてもお洒落だった。
男性が投げ渡した釣り竿は組み立て式だった。リールは王国でも最新と言っていたがリーグに真偽は分からなかった。ただとても使いやすかった。
組み立て式なので収納空間に入れやすく重宝することになる。帆走中は今もいわゆる手釣りという形ではあるが常に携帯していた。
洞窟の出口付近に来ると外では風が巻きかなり酷い状態だった。
リーグは何回か疑似餌を投げ込み中型の平べったい魚を何匹か釣った。この孤独岩付近はかなり良い漁場ではあるが漁師は絶対に近づかない場所だった。
夕食は美味しいスープと大量の生魚だった。食べてもなくならない切り身はリーグが釣りすぎた証しだった。後から追加されたアラスープも良い味だった。
翌日は昼までは風も海も荒れていたが午後は風だけが少し巻いていた。リーグは海中に入り岩場にいたエビを獲って帰った。
エビは乾燥させてオヤツ袋に仕舞われた。
風も波も落ち着いたので船を出す事にした。水色の板で駆け回り係留索を外した。そのまま洞窟の外も確認しリーナに合図を送った。
リーグは手に持っていたロープを引いた。人力で洞窟から小型帆船を出すためである。入れる時ももちろん人力だった。
「王国にはスラスターっていう空噴魔道具があるらしいけど……帆船の装備だから貰ったことないんだよなー。リフールの魔道具屋で見たこともないし」
リーグは小型帆船を手繰り寄せながら呟いた。王国ではどちらかというと連絡船の装備の扱いで大型外洋船は装備していなかった。
出し切ったところで風上に船首を向けてリーナと入れ替わった。
リーグがメインのガフを展開したところでリーナが戻り船尾に座り込んでティラーの固定を外した。リーグが船首を手で押してクローズホールドに位置を合わせた。
メインのガフを左舷に押し出しジブシートを両方まとめて引いた。ジブセイルを引き出し左舷側のジブシートを引いてクリューを左舷に流し帆に風を当てた。
ジブセイルがパンッと小さく鳴り小型帆船にジブの推進力が上乗せされた。突然生まれた大きな推進力で弾けるように小型帆船は海上を帆走し始めた。
真っ青な空には雲が浮かび上空の風に流されていた。
2026/08/22 クリーブをクリューに変更
2026/08/19 少し推敲しました




