第十話
小型帆船は沈みゆく夕陽を背に帆走していた。風は左舷前方から入っているが細かく揺れ風速も安定しているとは言い難かった。
左舷中央に座るリーグは風に合わせてジブシートを扱っていた。メインシートは動かすのを止めクリートに掛けて固定してあった。
「んー、海流が見えてきた。少し南寄りだけど上がってくると思うからこのままでいこう。出来れば暗くなる前に海流に乗って縮帆したいね」
海面から差し入れていた手を通して水中探査をしていたリーグはリーナにまだ直進と伝えた。海流に入るまで夕陽との勝負になる。
「トンガリの小さな群れが右舷側に出たわ」
リーナが右舷から襲撃される警告を出した。
「小規模ならいつも通りで」
リーグが軽くリーナに返すとリーナの右側面に水色の板が現れた。ジブシートをクリートに掛けたリーグが屈んで右舷側に移動する。
海面を見ながらメインシートの固定を外しグイッと引きメインブームを力で右舷側から引き込んだ。クルクルとクリートに掛けて固定する。
海面から飛び出したトンガリが襲いかかってきた。
小型帆船の右舷側に小さな水色の板がポンポンと姿を現す。襲撃してきたトンガリがブスブスと水色の板に刺さった。口の先が刺突武器のように尖っていた。
空中が少し揺らぎトンガリが突然黒い霞になり霧散していく。水色の板はさらに増えトンガリがどんどんと刺さり黒い霞になり霧散していく光景が続いた。
「今ので終わり。海中にトンガリはいなくなったよ。今回のトンガリはリーナを狙わなかったね。前回は突然来て落水しちゃったよね」
リーグは笑顔でリーナを揶揄った。
「もう! それは一月は前の出来事ですよ! そもそもリーグが守ってくれなかったからじゃないですか! あーん、リーグに大事にされてないよ〜」
リーナはいつもの返し手でリーグに反撃した。
「えぇー大事にしてるよー。落水した時も真っ先に救助に向かったよ?」
リーグはワタワタとリーナに言い訳をした。リーグの不思議なところは同じやりとりなのだが毎回同じ反応を返すところである。
「えー、大事にされてるのかなぁ。なんか自信がなくなってきたぞ。これは環礁で美味しい果物を収穫してみないとダメかもしれないな〜」
リーナのセリフが棒読みになっていた。
「環礁ベリー! 沢山収穫しちゃうよー」
リーグは任せろと言わんばかりに胸を張った。
「わ~い! 環礁ベリーさいっこ〜」
リーナは楽しくなって歓声を上げた。環礁ベリーは大好きだがこの茶番のやり取りが好きだった。環礁ベリーはどうせ二人での収穫作業になるのだから。
「少し滞在が延びても問題ないしね。それより海流に入るからティラーは中立ね。ガフは引き込んでるからこのまま縮帆しておくね」
リーグは海中に入れた手から海流の存在を感知した。先ほどは探知でトンガリを見ていたが水中探査に戻した事で海流に気が付いた。
「はーい、夕食作るから灯りをつけるよ〜」
リーグが慌ただしくガフセイルを落とし始める。前回止めたフックを通り過ぎ次のフックまで降ろした。リーチ側も手当しメインブームに固定した。
スロートとピークのハリヤードをクイクイ引いて調子を確認した。最後にジャックラインも確認してクリートに掛けて固定した。
ジブセイルもファーラーのロープを引いて半分以上を巻き取った。
作業が終わる頃には辺りは暗くなっていた。三個の灯光魔道具が小型帆船を暗闇から浮かび上がらせていた。
リーグは船首に向かって歩いていった。海面に手を付ける海流と船との相対速度を感じ取った。海流の方が少し早い事を確認した。
バウの収納空間から四角い布とロープを取り出した。バウに設置された二つのクリートにロープを結び布を海面にポイっと投げた。
投げ込まれた布はふわりと広がり海流を捉えた。
小型帆船は小さな布に引かれ船首を海流の流れの先にゆっくりと向けていった。小さく出したジブセイルとガフセイルは風を受けていた。
2026/08/19 少し推敲しました




