第十一話
夕食が終わったリーグとリーナは掃除を始めた。
二人は取り敢えず両舷にある普段は座るステップに上がった。リーグが水を撒いて軽くブラシで汚れを取った。水は操作して船外に捨てた。
絞った布でサッと拭くとリーナが高めの温風で湿り気を飛ばした。二人は素足になって足の裏を拭いて最初にリーナが立った。
リーグは狭い場所だが水球を出してリーナを丸洗いした。そして水分を飛ばした。ニコニコ顔のリーナは場所を空けて温風で髪を整え始めた。
自分自身も丸洗いしたリーグはリーナの温風で頭を乾かしてもらった。この髪を乾かすという行為をするためわざわざ髪の水分だけ残していた。
最後に両方のステップを綺麗に拭いた。
船体中央にある収納空間から寝具のマットを取り出した。あまり厚くすると入らないためそれほど厚くなかったが中身は柔らかいレジンだった。
ステップに敷いたマットに寝転んで二人は雑談を始めた。話題はトイレだった。前の改装で試しに最新の木屑トイレを設置してみたのだ。
今乗っている小型帆船は現役帆船では最新型だった。リーフの木陰で乾燥されている小型帆船はあくまでも試作であり現役ではなかった。
この小型帆船には本来のガフではできない縮帆ができるように建造されていた。試験的にガフを降ろせるようにスロートハリヤードなどの索具を通していた。
リーグにしてみれば検証中のガフが既に実用化され王国から南方諸島まで航海してきた事実は驚きだった。リリーナ号に強い興味を持った理由である。
この小型帆船も縮帆できるガフという意味では完成品である。リーフ時にガフセイルのフットが上手く折り畳まれない点だけが課題として残っていた。
「リリーナ号のガフって縮帆の時は綺麗にフットが収まるのかなぁ」
考えていた事をリーグは言葉にしてみた。
「それは見てみないと分からない疑問ね。戻った時にドルナンさんがまだいたら縁があったと思って頼んでみれば?……それか……」
リーナはリーグに顔を向けて少し悪戯を思い付いた顔をした。
「話の流れが良ければサンゴを見せて誘うとか」
リーナはくすくすと笑った。
「あー、あのサンゴかぁ。確かに良いお土産にはなるね。環礁の冒険者たちも販路で悩んでるところはあるけど……そもそも数が集まってないみたいだよね」
リーグはリーナの提案は面白そうだと思った。
「リーグの海中探査の精度が良すぎるのよ。普通はサンゴを見つけるだけで大変よ? 私がいくら探したって影も形もない幻としか思えないもん」
目指すサンゴをリーナは自力で見つけた事がなかった。
「普段は観察して楽しむだけだけど……久しぶりに少し採集しようか。あの色はリーナの耳に良く似合うから新しいイヤリング作らない?」
リーグは可愛く飾ったリーナを想像して笑顔になった。
「うーん、あれはあれでトラブルを招くから。何人もの商人が投獄されちゃったから。南方諸島で巫女に手を出せば最悪死罪なのにバカよね」
神殿が認定する巫女は風と海に分かれていた。風巫女は風を詠み嵐や凪を警告する存在である。海巫女は海流を詠み変化を警告する。
海と共に生きているのは『海の民』だけでなく南方諸島に住む人は海と共にあった。大波は海巫女の領域だが重要な警告と位置づけられていた。
二人が話している『サンゴ』は南方諸島でも希少……というよりもほとんど知られていなかった。逆に伝説的な意味で広く知られていた。
現在知られている産地は二人が向かっている環礁だけであった。
「まぁ……サンゴは見つかったらで無難なパールを多めにしようか。もう直ぐ夏も本番で神殿の儀式があるから必要になるし女神様に渡さないと」
「そうだった! パールはマシマシで持ち帰らないと。神殿長がいつも声を掛けるのに忘れていたに違いないわ!」
リーナは大事なイベントを伝えなかった神殿長にプンプンした。横目でリーグは『リーナは忘れっぽいよね』と微妙に戻ってくる感想を思い浮かべていた。
2029/08/19 少し推敲しました




