第十二話
早朝の日が出た後からリーグとリーナは朝食の準備を始めた。
この後は海流から外れほぼ東進する事になる。海上の風は夏本番に近づくにつれて揺らぎが大きくなる。まだ時期的に安定していると言える範囲であった。
「おおよそだけど昼頃に風の境界を通るはず。そこはちょっと忙しいから乾燥エビと冷えちゃうけどコネ焼きパンにしよう」
リーグは冷却保管箱からコネ玉を取り出し加熱魔道具で熱した浅い鍋で焼き始めた。顔を洗ったリーナはグッと伸びをして調理を変わった。
リーグは船首に移動して小さな布を海中から回収した。布は絞りクリートから外したロープで纏めてバウの収納空間に仕舞った。
続けてリーグは抵抗をなくした水壁を船首付近に展開した。海流で動いている小型帆船の船首に側面から圧力をかけ船首の向きを風上に向けた。
メインブームに固定していたガフセイルを解きクリューとタックで固定するためのフックを外した。
リーグは「メインを上げるよー」とリーナに声をかけた。
スロートとピークのハリヤードをクリートから外しジャックラインも外した。二本のハリヤードを引っ張りガフを上げていった。
手で上がるところまで上げたリーグはクリートに掛けて両方のフックを掛けてフットを固定した。クリュー側でフットの張りを調整した。
スロートハリヤードを外して体重を掛けて引き上がり切ったところでクリートに掛けた。ジャックラインを引いてラフの張りを調整した。
リーナの調理が終わっていたので二人で朝食とした。
「風の境界まではできるだけ東に真っすぐ。南に結構下りてるから境界を越えたら三個目のクリートまで右に進路を変えよう」
リーグは船首方向に基準にできる雲とかがなければ多少の誤差は諦める事も伝えた。この辺りはいつも通りではあるが毎回口にする定型文である。
リーナが船尾の左舷側に座り中立だったティラーを引き面舵を当てた。リーグは左舷側中央に座りメインシートの固定を外し右舷側に押し出した。
ガフセイルがシバーしたところでメインシートをクリートに掛けピークハリヤードを引いてリーチに張りを持たせた。
小型帆船がグラッと右舷に傾き加速を始めた。ハリヤードをクリートに掛けステップに戻りメインシートを少し出して風の抜けを整えた。
メインシートを固定してジブシートを外し右舷側のジブシートを主として引いた。ファーラーから引き出されたジブセイルがシバリングを始める。
出し切ったジブセイルを確認したリーグは右舷側のジブシートを引いて風に沿わすとパンッと小さく鳴りジブセイルが張りを持って広がった。
ジブシートを左手で持ち右手でメインシートを引いてセイル間の調整をした。セイル間の風が加速し小型帆船をさらに引っ張った。
東に進むといつものようにトンガリの小集団が襲撃を仕掛けてきた。こちらに気が付く集団が増えると集団が合流して数が増えていく。
「小集団が多いね。いつもの航路より回数が多いのは南寄りだからなんだけど……標準航路での襲撃自体は増えたって聞いてないよね?」
リーグは夏に向けて魔物の増加は風物詩だと思っている。それに対応するのは義務というよりしなければ死ぬだけだと思っていた。
「聞いてませんよ。ただ浮き草が増えて舵に絡まるという話は聞いてるよ。そのせいか落水事故は三件って聞いてる。縮帆しないで作業させてるみたい」
リーナは神殿に集まる情報や町中で会う商人たちから情報を集めている。本人は子どもの頃からそうしていたから情報収集という意識は薄かった。
風の境界で南風がいきなり北風に変わる。境界そのものは風が巻いている。ジブセイルとガフセイルは中央に戻しそれぞれのシートはクリートで固定した。
境界を抜けたところでメインシートを外し左舷に押し出しジブシートも左舷側を引いてクリューを左舷に流し帆に風を流す。
昼も過ぎ日が斜めになり始めた頃からリーグは手を入れて水中探査を続けていた。海流で楽ができないので浅い場所を探していた。
「反応からすると深くはないんだけど……ウィンドラスなんて積んでないよ? 巻き上げ機もないよ? まぁ……錨が重くないんだけどね」
アンカリングする場所を探している時のリーグがいつも呟く自虐ネタだった。小型帆船だと場合によっては錨の代わりに石で代用する事すらあった。
「あったー。リーナ、浅瀬があっちにあったよ〜」
リーグがニコニコ伝えると「どっち?」と目を細めたリーナがいつもの返しをした。リーグは目が泳ぎ南の方を指さした。
「そっちは追い風ね……」
リーナは残念そうにティラーを引いて取舵を当てた。リーグは慌ててメインシートの固定を外しメインブームを左舷側にさらに押し出した。
ジブシートは右舷側を引いて中立の位置でクリートに掛けた。海面に手を差し込み水中探査を行い進路と浅瀬の位置を確認しリーナに伝えた。
リーナはティラーを中央で固定すると袋から『爽快の実』を取り出して美味しそうに食べ始めた。お土産分は船体中央の収納空間なので食べて減る事はない。
リーグは苦笑いを浮かべた。足元から棒を取り出し船首に向かいジブセイルを棒で右舷側に押し広げた。追い風を受けたジブセイルはしぶしぶ開き風を受けた。
ジブシートをクリートに掛けてまったりとした。追い風の中ではジャイブだけを警戒していれば良くリーナは見逃さないので雑談で時間を潰した。
浅瀬に着くとジブセイルを少し出して固定した。船首を風上に向けポイっと錨を投げ込む。ティラーも中央で固定しガフを縮帆して小さくした。
「ジブを右舷側に少し出すから面舵で固定しといてー」
リーグはジブセイルのクリューを右舷側に動かした。軽く正面からの風を受けるように調整した。これによりローリングが減った。
今日はこの浅瀬で一晩過ごし明日には環礁に着く予定だった。
2026/08/22 クリーブをクリューに変更
2026/08/19 少し推敲しました




