第八話
大海原を一隻の小型な帆船が帆に風を受け帆走していた。マストは一本で船体中央より船首側に置かれていた。マストにはガフ帆が張られていた。
大きく開いたガフセイルは薄い藍色の帆布で彩られていた。船首にはマストを覆うような大きなジブセイルが同じ薄い藍色の帆布で張られていた。
小型の帆船にはリーグとリーナが乗っていた。少し前に乗っていた小型帆船よりふた周りぐらい大きな帆船は現役では最新のリーグが建造したものである。
「今日は風が凄く心穏やかだわ。年に数回しかないけど……どうする?」
船体中央でジブシートを持つリーナが船尾のリーグに声をかけた。
「あれかー。出たばかりだから戻れるけど……」
ティラーを少しだけ取舵に当てたままリーグは少し考えた。
「孤独岩まで風が持てば退避はできるよね。進路を少し南に落として海流を掴めばこいつの速度で十分に逃げ込めるね」
結論を出したリーグはリーナに進む案を示した。
「それで行きましょう。リフールに警告を出しそびれたのがちょっと悪かったかな。それっぽく朝から鼻はムズムズしてたのよね」
リーナはジブシートの固定を外した。リーグもメインシートの固定を外しティラーをクイッと引いて面舵に変えメインシートを少し出した。
小型帆船の船首がクイッと右に向き舳先の先にあった遠くの雲たちが左方向に移動し始めた。左舷前方からの風が角度を緩くしていった。
かなり締めていたジブセイルとガフセイルが右舷側に広がっていった。二人は重心を左舷の縁から外側に移しヒールを少し打ち消した。
リーグはティラーを戻し取舵に入れて船首が風下に落ちないように支えを入れた。風は安定しているのでメインシートをクリートに掛けた。
リーナは船首から伸びていたロープをクリートから外し横のウィンチにクルクル巻いて引いた。カチカチという音を鳴らしながら引いてロックした。
カチカチという音に連動してジブセイルが巻き取られ少し小さくなった。その状態でジブシートを専用のクリートに掛けて固定した。
「もう少し進むと風が厚くなるわ。ガフのリーフを準備しておいて。ジブはこのままだからチェンジしましょう」
リーナはジブシートを手放したので両手で簡易ファーラーのロープをクリートに掛け直した。そして屈んで中腰になりリーグの動きを待った。
「あいよー」
リーグは取舵を少し緩めティラーを固定した。メインシートの固定を外し右手に持った。リーナと視線を合わせ屈んで立ち上がりリーナと場所を変えた。
「ワンポイントにするよー」
リーグは軽くリーナに声をかけるとガフのピークハリヤードを緩めた。ガフセイルのリーチが張りを失いジバリングを始めた。
風が抜けたところでメインシートをグイッと引いてメインブームを船体側に寄せた。床のクリートに掛けメインシートを固定した。
ダウンホールを引きガフを落とし始める。
ガフが落ち始めるとガフセイルがたるみ遊び始めるが船首側はリーグが下から引いき船尾側はリーナが引っ張って帆を落とした。
ラフのリーフポイントにあるフックを掴みリングからフックを外し付け替えた。ジャックラインを引いてラフのテンションを戻した。
リーグは念のためスロートハリヤードを引きスロート側の位置を確定させクリートに掛けた。船尾側に移動してリーフ側のリーフポイントのフックを変えた。
落ちた分のガフセイルを畳みメインブームに固定した。スロートとピークのハリヤードを引きガフの位置を調整して二本のハリヤードをクリートに掛けた。
リーグは「メインを戻すよー」とリーナに声をかけた、
リーナは「はーい」と応えジブセイルの張りを戻すためティラーを調整した。リーグはメインシートの固定を外し右舷側に押し出した。
ジブが風を掴み直し加速し始めたところにメインのガフが戻ってきた。
リーグがメインシートを調整する事でジブセイルとガフセイルの間を抜ける風が加速し小型帆船を前へと引っ張り上げた。
「風が厚くなるわ。ジブを半分にして少し下げて」
リーナが風の流れが強い場所への進入を宣言した。リーグは右足でジブシートを踏みファーラーのロープを外して一気に引いた。
クルクルとジブが巻き取られる。
巻き取りに合わせて右足でジブシートを送り出した。半分程度の場所でファーラーのロープをクリートに掛けてジブシートを引いた。
周囲の風が濃厚になり風速もグンと上がった。船外までリーグは身体を出しヒールを抑える。リーナは周囲を監視しながらティラーを操作した。
「孤独岩が見えた! パラシュートを落として。コースはいつも通りで裏側で止める」
目の前に海面から突き出た岩礁が見えた。小型帆船は岩礁に向かい進路を取っていた。一つだけポツンといるため『孤独岩』と呼ばれていた。
2026/08/19 脱字と少し推敲しました




