第八十話
本編の最終回となります残りはエピローグのみになります
小型帆船にリーグとリーナに加え海巫女ゼリナが乗りリフールから北方に帆走で上がっていた。南風は完全に落ち着き海上はいつもの風景に戻っていた。
「ほんとに分流が弱くなってるわね。昨日見た東側はもう少し待たないと東方航路を開放できないけど北方の交易航路は開放できそう」
海流を感知していたゼリナが呟いた。
三人は一昨日と昨日はブラナン島の東方の海域を確認していた。監視船を出すよりもこの方が早いとリーナが主張してゼリナが同乗していた。
リーグの「二人乗りだよ?」という一言は完全に無視され船体中央に二人が陣取っていた。姉妹のように育ったリーナとゼリナは大の仲良しである。
こっそり試食会に混ざっていたゼリナと風巫女のオリアも環礁ベリーを楽しんでいた。二人も連続した暴風対策で疲れた身体が癒えたと笑っていた。
夕食の後にドルナンは裏に呼ばれ神殿長とリーナとリーグによって署名されたパールの贈与許可証を渡された。そして『青いサンゴ』の贈与許可証も加わった。
「まぁ……こっちは念のためじゃ。贈与許可証自体が久しぶりじゃて悪いが前国王陛下への手紙も届けてくれ。それとルクレイ殿にも頼んじゃぞ」
神殿長は爆裂ココナツより威力の高い手紙を二通も取り出した。
「えぇー……前国王陛下とルクレイ様に手紙を届けるのですか?」
ドルナンは真っ青になっていた。
ヴァルディス前国王は王宮内の離宮で生活しているらしいとは噂で聞いた事があった。つまり王宮に出向き届けるという事で及び腰になった。
「贈与許可証は前国王と現国王と前公爵と現公爵を含む三兄弟とアルフォンス殿とルクレイ殿にしか書いとらん。まぁ……念のためじゃよ」
神殿長はクククと笑いながら手紙をドルナンに押し付けた。
「ル……ルクレイ様はどこにいるか分かりません!」
「前にレンデールに別荘を作ったと手紙が来たぞ。アルデン侯かメルカド伯爵領で聞けば教えてもらえると思うぞ。あぁ……この特使の身分証明も付けとくか」
ドルナンは大人しくしてればこの意味不明な押し付けが止まるのか真剣に考えていた。どんどんと重そうな荷物ばかりが増える状況だった。
「あぁ……リーグくん。冷却室だがリリーナ号は復路では使わないと思うから魔道具は君に渡しておくよ。調整は魔道具工房で出来ると思うから使ってくれ」
ドルナンは考えていた事を出して全力で話の筋を変えた。
「えっ? いいの? すごく助かるけど……」
「トンガリの落とし物や乾燥カニをかなり貰ったから食料は十分だ。冷却室に眠ってた食材は神殿で引き取ってもらえたし大丈夫だぞ」
リーグは恐縮したがドルナンはガハハと笑い大丈夫と請け負った。この後は積み込み予定の積荷を積めばいつでも出航できると話した。
「あーそれなんじゃが行政機関から冒険者の件でお礼がしたいそうじゃ。明日にでも顔を出してくれ。あと航路の方はどうなりそうじゃ?」
神殿長は悪戯顔でドルナンに行政機関に顔を出すように話した。
「風が落ち着いたら確認して交易航路の開放が出たら先導しますね」
リーグから話があってから七日後に交易航路の開放がドルナンに伝えられた。すでにリリーナ号は準備万端で船首を外に向け停泊していた。
小型帆船が先導しリリーナ号が追従する形で桟橋を離れた。港湾事務員や冒険者たちが盛大に見送った。冒険者ギルドからも感謝状を受け取っていた。
リフールの湾を出て北西に少し移動した。レンデールに向かう交易航路に入り北上を開始した。リリーナ号は大人しく小型帆船の後に続いた。
「この先の海流は問題なし。ここでリリーナ号とはお別れだね」
リーグが海流を確認してリーナに伝えた。リーナは頷き持ち込んだ鐘を取り出した。そして「女神様を挟んだ縁は残りますよ」とリーグに答えた。
「カーン! カーン! カーン!」
リーナが旅立ちの三連鐘を鳴らした。
リリーナ号は全ての帆を開らきグングンと速度を上げて小型帆船に追いついた。ドルナンや船員たちが力強く手を振り歓声を上げていた。
「カーン! カーン! カーン!」
リリーナ号も三連鐘を鳴らした。リーグとリーナも手を振り歓声を上げた。
「「良き風に出会えますように!」」
二人は声を揃えて船乗りの旅立ちに言葉を贈った。
リーナはティラーを操作して南に船首を向けた。船尾にはどんどん遠ざかるリリーナ号の船尾が見えていた。
南方諸島でリリーナ号が繰り広げてきた冒険の終焉である。
◇ ◇ ◇ ◇
今年の暴風の季節は中々に大変だった。
今年は暴風の当たり年でポンポンと湧き出るように巣から飛び出しブラナン島を始めとした南方諸島の島々を翻弄し駆け回っていた。
そんな暴風の中でもリーグは新たな小型帆船を建造していた。現行の小型帆船より少し大きく船首斜柱を固定したリーグとしては最大級の小型帆船だった。
船首寄りに置かれたマストと長いメインブームはギリギリ持てる大きさにしてあった。特徴的なサイドキールと以前より大きい疑似フィンキールは健在だった。
船体は二月も掛からず組み上げセンターキールとサイドキールの一部は魔鉄になり重しとなった。これによりマストが少し高くできた。
大きく変わった点は船首斜柱の中ほどにフォアステイが移動した事である。これによりジブセイルを更に大きくできた。
また船首斜柱の先端にもステイが張られもう一枚の帆が張れるようになっていた。リーグの構想では追い風を掴める帆を考えているところだった。
何度も監視を兼ねた試験航海を暴風の合間に行った。
ジブセイルとメインセイルの大きさと形が決まり本帆をデルア製布工房でリーグが仕上げた。本帆はリーナの色である『淡い藍色』で染め上げた。
船底に積層した撥水シートと樹脂は最終的に真っ白に塗り上げられた。リーグが建造した帆船では初の白い船体を持つ小型帆船だった。
そして暴風の季節が終わった。
「リーグ! ほら〜行くよ〜 環礁ベリーを収穫するよ〜」
リーナの弾んだ声がリーフに響いた。
「あと食べ物を積めば出れるよ!」
リーナの弾んだ声にリーグの声が返った。
リーナは「積んだー」と答え家からリーフの砂浜に抜ける小道を駆け抜けていった。リーグは水路の確認を済ませるとリーナを追って小道に駆け出していった。
リフール湾の海面を真っ白な船体の帆船が西の水路に向かって滑走していた。
小型帆船は前帆に大きなジブセイルが張られ後帆も三角形で大きなメインセイルが張られ風に沿って淡い藍色に染められたセイルが綺麗に膨らんでいた。
真っ白な航跡を残しながら小型帆船は水路を抜け大海原へ飛び出していった。
リーグとリーナの物語を読んで頂きありがとう御座いました。かなり駆け足で書いた作品なので荒い部分もあるかなって思います。ここまで読んで感じた評価をぜひポチッとしてもらえると嬉しいです。




