第七十八話
小型帆船が大海原を帆走していた。船尾ではリーグがティラーを操作しながらセイルの調整をしていた。船体中央にはリーナと海巫女ゼリナが雑談していた。
三人はブラナン島北方を西から東に流れる海流を確認するため北上していた。南からの風は落ち着きリーナによると暴風の残滓も消えたとの事だった。
リーグたちがリフールに戻ってから既に七日ほど経っていた。リフール帰還直後はブラナン島全体が騒がしくなった。
リーグとリーナがリフールに戻った時に話を戻す。
やはりリフールのある北部は東岸に被害が集中していた。北西岸にあるリフール自体は流れ込んだ風が街中より湾に入り込み船舶に被害が集中した。
それに対し南部の被害は把握しきれていなかった。
南北に細長くなっている南部は東から暴風の風をもろに受け東岸と西岸の街道が寸断され使えなくなった。そのため北部と南部は分断され情報が途絶していた。
「次の暴風が接近中とは……」
なぜかまた神殿に行政機関の役人やギルド長や港湾職員などが集まりリーグとリーナの報告を受けていた。明るい話は冒険者たちの引き上げだけだった。
「復旧作業は止めてみんなを避難させてください。南部へは私とリーグで分殿に入ります。北部はオリアおばさんにお願いしますね」
リーナが南部の風巫女として退避の指揮を取ると提案した。現在は港湾も閉鎖中で直ぐに動けるのはリーフに係留している小型帆船だけだった。
湾内で沖止めしていた船にも損害が多く被害状況の確認に手間取っていた。造船工房も直ぐに動ける状況になく帆船に関しては棚上げとなっていた。
「そうじゃな……南部はリーナに任せるとしよう。北部は作業してる人たちへの連絡は優先して出すように。街中への警報も出しておいてくれ」
神殿長は方針を決めリーナを南部にある分殿派遣を決定した。
リーナとリーグは再び小型帆船を出し西岸を回り南端の岬に入った。この岬は小型カッターぐらいしか入れない難所の奥に小さな入り江があった。
入り江に係留し分殿に入ったリーナは風巫女として指示を出し始めた。街道の復旧作業も停止し避難指示を出した。避難所の開設などする事は多かった。
リーグも各地に伝令に出たり待避所への誘導など雑務を行った。
リフールに戻ってから三日後に暴風が最接近した。強さを残した暴風は南風に抗いブラナン島の南側をかすめるように通過していった。
いつもよりブラナン島に近く再び東からの強風となった。ただ避難指示が徹底されていたので人に被害は出ず通過後は復旧作業が再開した。
リーグはリーナに「迎えに行ってくる」とリリーナ号が退避している孤独岩に一人で向かった。ブラナン島南方の海流も確認しながら航海を続けた。
リフールの港湾事務所も被害状況を整理し湾内の閉鎖は解いた。しかし海巫女ゼリナは出航禁止を解除しなかった。ブラナン島近海の海況が不明なためだった。
リーグは孤独岩の更に南側で投錨し停泊しているリリーナ号を発見した。
「無事で良かったです。暴風は通過したので当分は大丈夫なのでリフールに入りましょう。リーナが南端の岬にいるので俺は拾ってから入ります」
リーグはドルナンや船長たちに大歓迎された。冒険者たちも元気な姿で船上にいた。二日ほど停泊していたらしく釣りをして過ごしていたようだ。
「少し気掛かりなのは環礁ベリーなんですけど確認しますね。何個か冷却保管箱でリーナに届けたいですし。女神様にお供えするのが楽しみで……」
リーグは頭を掻きながらドルナンに話した。ドルナンはにこやかに頷き冷却室に同行した。どうやら船員たちが毎日確認して並びを整えていたとの事だった。
「船員たちも風巫女様に傾倒したようでね。リフールで風巫女様の置物を買うと意気込んでるよ。あれは……王国に戻った後に布教しそうだな」
ドルナンはニヤニヤしながらリーナ教が生まれそうだと揶揄った。
「突き抜けて女神様にさらなる想いを届ける形で広まると良いですね」
リーグはドルナンの冗談として受け取った。ドルナンは苦笑を浮かべ『たぶんかなり本気だよ』とリーグの誤解は放置することにした。
リーグは綺麗に並べられた沢山の環礁ベリーを見て目を丸くした。他に置かれていた物が退けられ環礁ベリーが棚を占領していた。
「これならお供え出来そうです。お供えの場には船員さんも参加するように促してくださいね。みんなで女神様に戻れた事を報告しましょう」
リーグはドルナンに祭事の参加をお願いし小型帆船に戻った。
小型帆船とリリーナ号はその場で一度別れそれぞれ帆走してドルナン島に向かった。帆が受ける南風はいつもの風となり二隻の帆船を北に押し出した。




