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海の民と南海の風  作者: うにまる


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第七十四話

 月明かりだけの海上を小さな灯りが二つ動いていた。ひとつは小型帆船のバウに括り付けた灯光魔道具でもうひとつはマストの根元に括り付けられていた。


 この灯りは視界確保のためではない。リーグが船首の位置と進む方角を知るための物である。その情報と受ける風から風上を判断しティラーを操作していた。


 既に日は落ち夜間航行に入っていた。岩礁群は思ったよりも南にありかなり北に上がった状態だった。それは北側に位置取りできた事を意味し悪くはなかった。


 夜間航行時の風上を知る事は中々に難しい。少しだけ船首を南に落とし真西からズラしいる状況では尚更だった。


 風上はほぼ真横に近いがリーグの感じている風は右舷前方である。これは小型帆船がかなりの速度で西進しているためである。


 本来の風向きに移動分の動きが加わり見かけ上は斜めから入る風に感じる事になる。しかし帆が受ける風は見かけ上の風となり帆の操作に影響する事になる。


 特に風上が船尾側に動くと見かけ上の風も船尾側に動き帆が瞬間的に推進力を失う。ある程度の妥協をすれば推進力を失うリスクを減らす事ができる。


 一方で妥協すると速力が落ちる。帆船の強みは淡々と推進力があれば進み続ける点である。長い時間を進み続けるため速度の低下は移動距離に直結した。


 リーグとしてはブラナン島近辺の確認とリフールで使える時間を多くしたかった。そのためかなりギリギリの線で速度優先の操船をしていた。


 とはいえリーグが夜間航行を選択する時はこんな状況ばかりである。ある意味で夜間航行中にギリギリを攻める操船は慣れた行動になっていた。


 小型帆船の面白いところは速くしたければ軽くすれば良いわけではない点である。軽くすると帆走中のヒールがきつくなりサイドキールの効きが悪くなる。


 帆船は風を帆で受けて進む。角度のついた方向から受けた風で前に進む形になるが必ず横に押す力も生まれる。この力が船体を斜めにするヒールとなる。


 加えて横に掛かる力は船体を横滑りさせ斜めに進もうとする。


 リーグが辿り着いた結論が海面を滑る滑走である。リーグは滑走させる事で色々と発生する不都合を強引になかった事にしているとも言えた。


 そのため向かい風なのに滑走していない時が最も乗り心地と操作性が悪いという帆船としてダメな状況となる。滑走してやっとまともな操作性になる。


『暗いとやっぱり暇だよなー。操船していても見えないと手応えがちょっと少ないよね。暗くてできる事はそもそも少ないから風の変化だけが楽しみとか微妙』


 夜間は風も日中ほどは強くない。揺らぎ自体も少なくなる。冷たい海流や雨雲が近づくと揺らぎは大きくなっていくが今のところ問題になってはいなかった。


『ただ……確かに西に移動するほど南風が少しずつ強くなってる。普段の夜間と比べたらかなり強くなってる。ジワジワくるから誤魔化されそうになるじゃん』


 少しずつ風速が上がっている事にリーグは気が付いていた。普段の夜間航行に比べると船足も速くなっていた。やばい場所に引っ張られている感覚があった。


『日が出る前後で縮帆した方が絶対に良いって感じるよ……』


 日の出までは鐘一つは残っていた。目視はできなかったがいくつか目印になる岩礁郡や小島は水中探査で確認できていた。


『日が出ればリーナは起きるし風を見てもらって縮帆を再検討だな。もう少し風速が上がったら一段目の縮帆をしても滑走から抜けなさそうだし……』


 リーグにしてみれば縮帆して滑走が終わらない風速はちょっと嫌だった。理由は波である。風速が上がれば波が立つため滑走だと跳ねる回数が増えてしまう。


『絶対にレジンシートはリーナに奪われる。レジンシートなしだとお尻のダメージが大き過ぎる……。やっぱり一人二枚にしよう……お尻保護のために……』


 リーグはすやすや寝ているリーナをチラ見した。リーナに「お尻が痛いのー」と言われたらレジンシートを渡さないという選択肢が取れないので切実だった。


 過去に幾度となくレジンシートを奪われお尻の痛さで涙目になった事を思い出していると周囲が明るくなってきた。


『おっと……流石に少し帆を絞らないと早朝の揺らぎで帆が暴れちゃう』


 リーグは左舷側のジブシートをクリートから外して少し引いた。元気に小型帆船を引っ張っているため重いがグイッと引いてジブセイルの推進力を削った。


 ジブシートをクリートに掛け右舷側の緩んだジブシートを整えた。


 同様にメインシートをクリートから外し引きブームを少し中央に寄せた。身体に受ける風が少し弱まるのを感じ当て舵を少しだけ緩めた。


 明るくなってきた周囲を見渡すと白い線がチラチラと増えていた。明らかに波が立ち始めていた。もう少し南に船首を落とすか思案した。


「んー、おはよー。明るくなってきたら揺れ始めたよ?」


 速度が少し落ち波が立ってきた事で小型帆船が揺れ始めていた。その変化を感じて目を覚ましたリーナが揺れた事を指摘してムクッと起きた。


「南風が強くなってて帆を絞ったんだ。風で立った波も横から来てるからこの先も揺れるかなぁ。南風のご機嫌を詠んでもらってもいいかな?」


 リーグが状況をリーナに話して風の状況確認をお願いした。リーナは「んー」と応えながらステップの上に立ったので水球で全身水洗いをした。


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