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海の民と南海の風  作者: うにまる


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第七十二話

 フィリーエル環礁の姿が見えなくなったところでリリーナ号は進路を西に向けた。リーグたちの小型帆船と並走するため帆は縮帆気味だった。


 リーグとリーナは位置を変え船尾側にリーグが移動しティラーを操作して西に進路を向けた。少し北寄りに進路を取り船尾と船底に抵抗なしの水壁を展開した。


 帆走から滑走に移行した小型帆船はグングン加速しリリーナ号に並んだ。


 リーナが風を纏い小型帆船から飛び出してリリーナ号に駆けていった。進路を変えた直後でもリリーナ号は6ktを越えているためリーグだと少し心もとなかった。


 船長は小型帆船からリーナが駆けて来るのを見て帆の調整を弱めにするよう指示をした。加速するとリーナの移動距離が伸びるためである。


 リーナを受け入れたリリーナ号はドルナンと船長がリーナから軽く状況の説明を受けた。リーナたちは北上すると聞き状況がかなり悪い方に倒れたと分かった。


 リーナの説明を受け入れリリーナ号はこのまま南寄りを西進する事に同意した。トンガリ対策はフォアのガフセイルは畳みジブセイルも半分程度とした。


 風壁魔道具は予備品が一つあるので可動式として運用するとドルナンはリーナに伝えた。リーナは「良き風を!」と声を掛け小型帆船に駆け戻った。


 小型帆船では二人が位置を変えクイッと進路を北北西に変えた。海面を滑るように駆ける小型帆船はドルナンの目から見てもカッコ良かった。


 リリーナ号の甲板からは「「がんばれよー」」と船員たちが大きな声で歓声を上げ手を振っていた。小さくなる小型帆船から「行ってくるねー」と声が届いた。


 小型帆船はクローズホールドギリギリの角度で北北西に駆け上がっていた。北に上がるなら境界を越えた南風では滑走できないため境界の手前を駆けた。


「このまま滑走して東方航路まで上がっちゃおう。環礁の北側にある双子海流の一部は流れ込んでるけど無視して跨いじゃえば境界に掛かる前に入れる」


 リーグは最短を抜けて東方航路に入り西進する案を提示した。


「んー、この先にあの暴風が抜けた残滓があるわ。かなり重い空気が漂ってるから一度タックして北北東にしましょう」


 リーグの案にリーナは暴風の残滓が邪魔をしそうと告げて北北東に進路を変える案を提示した。昼食後に再度タックして北北西に戻す案とした。


「えぇー、あの暴風の残滓ってまだこの辺りに残ってるの? どんだけ強力だったんだよ……。そこまで強いなんて……ブラナン島は大丈夫だよね?」


 リーグは雑談を続けながらもタックする準備に入った。座っていたレジンシートを右舷側のステップにポイッと投げた。


 リーグはジブシートをクリートから外して左手に持ちメインシートも外して右手に持った。リーナが「タック」と声をかけ移動しながら取舵を当てた。


 小型帆船はフワッと船首を左に回し風上が一気に左舷側から右舷に移動した。


 メインブームの下を潜りジークはブームの動きをアシストしながらメインシートを握りブームが行き過ぎないように制動を掛けた。


 右舷側のステップにドスンと座り荷重を背中に掛けジブシートの左舷側をグイッと引いてジブセイルのクリューを右舷から左舷に回した。


 ジブセイルがシバーして嫌がる間にメインシートをクリートに掛けた。ジブシートを調整しシバーを抑え右舷前方の風に沿わせるとリーチが張った。


 ジブセイルとガフセイルが綺麗に張るとリーナが横滑りに対して当て舵した。


 左舷側のサイドキールが深めに刺さり右舷側が浮き気味になった。リーグがジブシートをクリートに掛け両手が空いたので右舷側に体重を掛けた。


 リーナもティラーの延長棒を掛けて船縁に座り右舷に荷重を掛けた。


 浮き気味だった右舷側のサイドキールが刺さり船底のチャネルも活発に水流を圧縮し後方に噴出し始めた。左右のチャネルが均衡し直進性が増し安定した。


 安定した滑走に戻った事で二人はステップに腰を降ろした。リーナはまだ新鮮な状態をギリギリ保っている環礁ベリーを摘みニッコリした。


 リーグは曰く付きの乾燥カニを取り出しておやつとして摘み始めた。


「そういえば冷却室に並べてた環礁ベリーはどんな感じだった?」


 リーグが乾燥カニから滲み出る風味を味わっていたが思い出したように尋ねた。


「バッチリ! 綺麗に並べてお祈りしたから綺麗に冷やされて鮮度の落ちが遅かったわ。あの冷却室の性能も良いし冷却保管箱とはやっぱり違うわね」


 リーナはスターンに嵌め込んだ冷却保管箱からササッと環礁ベリーを二個取り出して一個をリーグにポイッと投げた。


「んっ! これって冷却保管箱で冷やした直後ぐらいだね。少しシャリシャリして冷たいのが良い! これが一晩置いた状態なら女神様に十分お供えできるね」


 リーグは環礁ベリーを口に入れ目を丸くした。


「でしょ? 少しリリーナ号が遅れても十分にお供えできる品質は確保できそうなの。やっと……やっと生の環礁ベリーをお裾分けできるわー」


 リーグの反応に満足気に頷きリーナは満面の笑顔でお供えできるとニコニコした。乾燥した環礁ベリーは環礁から戻るとお供えし子どもたちと堪能していた。


 今回初めて乾燥していない環礁ベリーを創世の女神にお供えできるとリーナは高いテンションを維持していた。


 冷却保管箱を弄り色々試したがやはり鮮度が持たなかった。リーグは滑走速度を向上させるため船底をかなり試行錯誤したがやはり時間切れでダメだった。


 リリーナ号の冷却室は冷却保管箱より強力で均一に室内を冷却していた。


「今の試作船で船体構造の確認が取れたら次代の建造を始める予定なんだ。この小型帆船より大きくする予定。船体中央を冷却室にしてみる?」


 リーグは構想中の冷却室を持たせた小型帆船の構想をリーナに提示してみた。


「良いの? 用途が限定されると積載量的に厳しくならない?」


「たぶん大丈夫。船底を重くするから収納空間の高さも上げられる予定なんだ。目標は暴風の季節が終わる四月後に試験航海かな」


 リーナは航海で必要な物を積めなくなる心配をした。リーグは収納空間を広げる構想も進めているから大丈夫と請け負った。


 リーナは笑顔をリーグに向けて「楽しみ!」と大きな声で応えた。


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