第六十八話
「さて……次はこっちだよ」
水洗いした環礁ベリーを二つの袋に戻して口を閉じたリーグが空中に水壁を展開した。リーナに一袋を渡し手を繋いで水壁を歩き出した。
ドルナンは二人の雰囲気が少し変わった事に驚いたが後について行った。ドルナンの前を歩くリーグとリーナは真面目な顔をしたり笑ったり忙しそうだった。
二人は小さなリーフに向かい降り始めた。リーフに降りた二人は袋を置いて海面の下を覗いていた。ドルナンがリーフに降りるとリーグが振り返った。
「ここにある物は女神様の暇潰しだと思います。ドルナンさんに見せたいだけなのかは分かりません。今回は水壁を張りませんのでその目で確認してください」
真面目な顔でリーグがドルナンに話した。注意点として慌てない事と急に動かない事だった。息は苦しくなる前に息継ぎするようにと笑顔で告げた。
ドルナンはニヤニヤする二人を視線から外し意を決して海中に入っていった。久しぶりの海水に目が痛かった。子どもの頃に父親に騙された記憶が戻った。
ドルナンは少しずつ目を慣らし慣れた頃には息が苦しくなってきた。いちど海面から頭を出して息を整えた。整えたところで身体を沈め目を開けた。
目の前には彩り鮮やかなサンゴたちの楽園があった。小さな魚がチョロチョロとサンゴの中を抜けて遊んでいた。ただドルナンは首を傾げた。
『綺麗なサンゴだとは思う。レンデールの海より遥かに色鮮やかなだし彩りもあざ……なっ……あれってフィリーエルが見つけた『青いサンゴ』では!』
ドルナンは叫びを上げて溺れそうになった。慌てて海面から顔を出して盛大にむせた。ゲホゲホしているドルナンをリーグたちはニヤニヤ見ていた。
そんな二人に気が付かずドルナンは息を整え再び海中に入った。
『やっぱりフィリーエルが見つけた青いサンゴだ。本当にあったんだ……。王国でサンゴの色の調査が大々的に行われる事になったのは絵本が原因だった……』
ドルナンは絵本の中でフィリーエルが青いサンゴを見つけたシーンは特に強く惹かれなかった。何となく潜り何となく見つけたシーンで盛り上がりもなかった。
しかし海岸航路に青いサンゴは存在しなかった。架空のサンゴという話になりかけた。しかし上位貴族の一部が「青いサンゴはある」と混ぜ返した。
そしてとうとうレオンハルト国王が「ある」と宣言し王妃殿下がイヤリングとして大舞踏会で披露した。上位貴族だけの舞踏会だが噂は広まった。
『はっきりしているのは青いサンゴの在り処を示してるのが絵本だけという事のみ。フィリーエル環礁にのみ在るという真偽不明な情報だけ……だった』
海面から頭を出しドルナンは息を整えリーフを見た。リーグとリーナは腰掛け環礁ベリーを食べ雑談をしていたようだった。
「青いサンゴってあったんだね」
ドルナンは色々と情報を削ぎ落とし見た事実だけを二人に告げた。
「神殿長から青いサンゴ騒動というのがあったと子どもの頃に聞いたよ。南方諸島では伝承のような話になって収拾がつかないってボヤいてた」
リーグはドルナンに明確な答えを返さず伝承化してる事を伝えた。
「王国ではフィリーエルの絵本で存在が示され国王陛下が存在をお認めになった。存在する事になっているけど見たという人には会った事がない……」
ドルナンは王国の状況をリーグに伝えた。
「ふふ、ドルナンさんは青いサンゴを目撃したのね。そうねぇ……せっかくだしチョンチョンって触ってみたら? 見ただけでなく触った人になれるわ」
リーナが目を細めてドルナンに触るように勧めた。
「それ良いね。……そういえば女神様の暇潰しと言ったでしょ? 暇潰しには色々と種類があるんだけどドルナンさんは触って女神様に感謝を伝えなよ」
リーグが触る事に感謝の祈りを加えた。積み上がったドルナンは創世の女神が積まれた事で逃げ道を塞がれたような気分になった。
『最後に女神様への感謝を言われたら……するしかない』
ドルナンは二人との出会いからフィリーエル環礁までの繋がりを創世の女神に感謝していた。そして王国でも謎のままな青いサンゴにまで辿り着いた。
ドルナンは二人に誘導されているのは分かっていた。それを楽しんでいる事も理解しながらも提案を受け入れる事にして小さくため息をついた。
ドルナンは意を決し息を整え再び沈んでいった。
「これは確かに荒れそうな気もしますね。場所的に暴風が来るかもしれないけど……外ではあまり気配はなかったわ。これで来られたらちょっと厄介ね」
リーナはため息を吐きリーグを誘ってドルナンの顛末を見届けるため海中に入った。ドルナンは息を止め青いサンゴをちょこっと触り祈りを捧げていた。
「ポロッ」
ドルナンが触っていた青いサンゴがポロっと折れた。ドルナンは『はぁ?』と声を出さずに驚きを示した。リーナとリーグは首を振り肩を竦めた。




