第六十七話
リーグがドルナンに小声で声を出さないように指示をした。リーグはリーナに目の前のリーフを指差した。リーフは変な岬のような形をしていた。
リーグが先導してリーフから少し離れ海面まで降りた。リーナは先に下に降りるとジェスチャーしてそっと海面から海中に姿を消した。
「相手は神経質なので絶対に慌てて動かないでくださいね。水壁を前回みたいに張るのでゆっくり海中に入ってください。慌てたら惨事になりますからね」
リーグは小声でドルナンに念を入れた指示を出した。真剣すぎる視線にドルナンはコクコクと頷く事しかできなかった。
ドルナンの周囲に水壁が展開された。ドルナンは喉を鳴らし指示されたように静かに海中に入った。思わず叫びそうになったが声は出さず飲み込んだ。
『なんだあれ?……あれが環礁ベリー? 灌木みたいなのが集まってる? 枝のようなのがうねうね動いて気持ち悪いんだけど……枝に付いてるのがベリー?』
ドルナンは初めて見る環礁ベリーと思われる魔物に慄いた。よく見ると何本かは移動していた。位置を変えながらうねうねしているため視覚が痛かった。
『リーグくんとリーナちゃんは水壁も風壁も展開してない? リーナちゃんは海底まで沈んでいった……。リーグくんは袋を一つだけ右手にもって……』
ドルナンの思考は突然の気泡の爆発的な発生で切れた。
突然生まれた気泡が環礁ベリーの灌木を包んだ。ドルナンが目を見開いた時には次の気泡が膨れ上がり更にもう一つの気泡が膨れ上がり視界が閉ざされた。
『んなっ……何が起きたんだ?』
ドルナンの周囲には気泡が乱舞していた。乱舞しながら海面に向かう気泡に気を取られていたドルナンは視界が開かれてるのに気が付かなかった。
ドルナンが気が付いた時には二つの袋を持ったリーナが海面に向かっていた。リーグは残りの袋を移動しながら振り回し海中を濾していた。
『海中にいたけど何をしてたのか全然分からなかったぞ……。二人の手際が良すぎて理解が追いつかないやつだ。取り敢えず終わったみたいだし上に上がろう』
ドルナンは袋を振り回しているリーグを残して海面に向かって水壁の階段を上がった。海面に上がるとリーナがリーフの上で笑顔で袋を覗き込んでいた。
ドルナンは『よく分からん』とリーフまで展開されたままの水壁の上を力なく歩きリーフに着くとへたり込んだ。少ししてリーグが海中から出てきた。
「リーナー見てみてー。枝が落ちたよ? 初めて環礁ベリーの木が落とし物で枝を落としたの! さすが女神様の暇潰しだよねー」
リーグがリーナに駆け寄り手にした枝をブンブン振り回していた。それを見ていたドルナンは『あれが日常か……』と盛大なため息をついた。
「うわーすごーい! それきっと女神様が育てろって渡してくれたやつ! 問題は地上と海中のどっちが良いのかな? 私は地上だと思う!」
リーナは嬉しそうにリーグから枝を奪い掲げた。
「挿し木みたいに地面に挿してみようよ。暴風の時に風が巻き込まないとこにする? それとも持ち運ばるように最初は鉢にする?」
「まずは鉢一択です!」
ドルナンは二人の謎の茶番を眺めていた。なぜ持ち運ぶのか分からなかったが理解は諦めた。たぶん航海する時にも持ち運ぼうという事を結論にした。
『普通に庭で良いと思うんだが疲れるから黙ってよう』
ドルナンが気が付いた時には二人は環礁ベリーを大きな鍋水壁で水洗いしていた。二人は楽しそうに魔法でグルグル回しながら摘み食いしていた。
「ほらドルナンさんも摘み食いしないとだよ! この新鮮な環礁ベリーは一日しか持たないからね。でもリリーナ号の冷却室は広いから多めに冷やせるね」
リーグが手招きするので腰を上げて近付いた。水壁の中では細かい泡を含んだ水がグルグルと回っていた。ドルナンは言われるままに口に入れた。
「んなっ……美味い……凄く美味い……フィリーエルが感動していた味はこれか! これだけ美味しい新鮮な環礁ベリーは一日しか持たないのか……」
ドルナンは濃厚な甘みと隠れた酸味の絶妙なバランスに驚いた。甘み自体も後に引かず何個でも食べれると頭の中で考え危ない果物と理性が警告した。
『これは習慣性があるんでは?』
ドルナンは環礁ベリーは危険な食べ物なのではと警戒した。物語の中でもフィリーエルは大きな袋一杯の環礁ベリーを完食して倒れていた。
しかしドルナンの意思とは別に手は環礁ベリーを摘み口に運んでいた。




