第六十六話
リーグは水壁の上を駆けて先ほどまで進んだ場所に戻ってきた。見た限りパールのカイは直ぐに増やす必要そうはなかった。
「そうとなればやはり環礁ベリー探し一択だよねー。リーナはニコニコだしドルナンさんは初環礁ベリーだから喜ぶだろう。乾燥させれば奥さんも口にできる」
案の定というか「また行ってくる」の行動指針が完全に変わっていた。もっともリーナのニコニコが浮かんだ瞬間にこの変更は正当化されていた。
「リーナの様子を見る限り環礁ベリーは引き籠もらないと思うんだよね。奥にいると言ってもこの辺りは十分に環礁ベリーがいても良いぐらい奥と言える」
リーグはある程度を移動すると水中探査と探知を行った。パールのカイはかなり群れを見つけたが無視した。水中探査で海底を見ていくと目を丸くした。
「これって……ドルナンさんが女神様に気に入られたのかな。何となくフレッシュチーズのお礼って気がする。……で環礁ベリーも群れてると……」
リーグはこの先に広がる海底の地形で創世の女神が何をさせたいのか理解した。状況的に『女神様の暇潰し』を感じさせるものだった。
「もう直ぐお昼だけど……昼食を我慢してここまで移動して片付けた方がたぶんいい。暇潰しなら絶対にリフールに戻る航海はバタバタする」
リーグはこの後のバタバタを想像した。冒険者たちは真面目なのでリリーナ号に荷物を運んでいると思っていた。爆裂ココナツは積み込み終わっている。
リーグは上空に水球を展開した。そして全力に近い速度で駆け戻った。グングン流れる景色は気にせずリーグは駆けリーナたちの姿が見えた。
「リーナー予定変更だよー」
リーナたちのいる場所に戻ったリーグがリーナに声をかけた。リーグの声にリーナは顔を上げ「急ぎ?」と駆け降りてきたリーグに首を傾げて尋ねた。
「暇潰しの可能性が見えてきたんだ。対応として冒険者たちにリリーナ号へ撤収準備を進めるようにリーナが伝えてきて。俺はドルナンさんと先に進む」
「あら……そういう事ですか。集合場所はいつもの水球?」
リーナは目を丸くしているドルナンをチラリと見て小袋にパールを仕舞った。カイ柱も別の小袋に詰めて荷物に仕舞い込んだ。
「リーナは冒険者に伝言したら水球を目安に追いかけてきて。ちょっと時間が読めないからドルナンさんはおんぶして行くね。環礁ベリーも収穫するよ」
リーグの一言にリーナは満面の笑みを見せた。
リーナは背負い袋を肩に掛けて「楽しみ」と鼻歌交じりに一層の入口に向かった。リーグも荷物を纏めて身体の前に掛けてドルナンに背に乗るよう促した。
「いやしかし……」
ドルナンが躊躇ったので「早く」とリーグは低い声で再度促した。目には笑いの欠片すらなかった。気圧されたドルナンは背中に乗った。
リーグは水壁を展開し手袋と脛当に魔力を渡し駆け出した。煌めく小さな光の粒を手袋と脛当から零しながら駆け進んだ。
『悪いけど女神様の暇潰しの気配があるからドルナンさんには責任を取ってもらわないとね。絶対フレッシュチーズが原因だと思うんだよね……』
自分で発動した水球の位置に向けてグングンと加速しながらリーグは駆けた。ゆっくりしてると風を纏ったリーナに追い越され揶揄られる未来しかなかった。
リーグが水球の場所に着いたのでホッと息を吐きドルナンを降ろした。
「やっぱり……もうそこまで来てる」
リーグが振り返るとリーナの姿が見えた。リーナが風を纏って駆けると前にいる空気は避け後ろの空気はリーナを後押しするのでリーグは絶対に勝てなかった。
「取り敢えず移動しますね。昼食は抜きで行動を優先します。女神様がドルナンさんにお礼をしたいようなのでお礼を受け取ってもらいます」
リーグが水壁を見つけた地形の場所に向かって展開した。テクテク歩いて鐘半分ぐらいなのでこのまま少し速歩で歩いて行く事にした。
『帰りはおんぶした方が良いよなー。まぁ……鐘一つぐらいで入口に着くから……鐘二つぐらいは時間がある。余裕……なはず』
リーグはドルナンを促して歩き始めた。リーナも降りてきてリーグの横に並んだ。リーナは環礁ベリーの規模を聞いてきた。
「女神様は大盤振る舞いだよー。三掬い分ぐらいだと思うから荷物を減らした甲斐はあるよ? 帰りはおんぶするからリーナの荷物が増えるけど良いよね?」
リーグが環礁ベリーの群れの規模を伝えるとリーナは「やったー」とクルクル周り始めた。そして「どっちが先?」と訪ねてきた。
リーグは「環礁ベリー」と順番を伝えた。リーナは歩きながら荷物からカイの入った目の粗い袋を取り出しカイを海中に投棄した。
リーグも荷物から同じ袋を二枚取り出した。そして口を広げるレジン棒も取り出して六本をリーナに渡した。リーナは袋の口にある折り目に棒を差し始めた。
リーグも同じようにレジン棒を差して袋の口を開いたままにした。同じようにもう一つも細工した。リーナから袋を受け取り三つを束ねて持った。
無言で袋の準備をする二人にドルナンは何が始まるのか気が気でなかった。




