第六十五話
フィリーエル環礁の亀裂一層でドルナンはリーグが行なっている行動に唖然としていた。リーグは目の粗い大きな袋を持ち海中からカイを拾い集めていた。
海中からは海水がピシュッと飛び出すがリーグは手で振り払いカイを拾っていた。ドルナンの目には飛び出す海水は勢いがあり危なそうに見えた。
「ふー、ここの群れはこんな感じですね。あっ! あとこれがトゲトゲです。……なんていうかトゲだらけですよね。裏側だけトゲなしです」
ジャブジャブと浅瀬からリーフに上がってきたリーグが黒くてトゲトゲした魔物をドルナンに見せた。トゲはかなり痛そうなのにリーグは気にしていなかった。
「これがウサンかぁ。絵にあったのはまさにこれだ。手抜きの絵かと思ってたんだけどかなり似てる。こんなのは王国にいないから見て描いたのか?」
ドルナンはリーグが手のひらに乗せたトゲトゲをまじまじと見た。
「トゲトゲはあまり多くは集まらない感じです。落とし物は黄色い変なのと刺突針……このトゲトゲが落ちます。縫い針の評価は高いけどまず落ちないですね」
リーグはペシッとトゲトゲをリーフに叩きつけると黒い霞になり霧散し刺突針が落ちた。リーグは「珍しい」と呟き刺突針を拾いドルナンに渡した。
「黄色い変な物は美味しいは美味しいです。でも数は出ないしリーナは微妙な顔をするのでトゲトゲは普段見なかった事にしてますね」
トゲトゲの解説をしたリーグは刺突針は奥さんに渡す事を勧めた。
「せっかくなのでカイの討伐をしていきましょう。叩くのに良さげな石というか礁島の欠片を持ってきました。ドルナンさんは使いやすい石で叩いてください」
カイを入れた袋を置き一つ取り出してリーフに置いた。ドルナンは勧められた石を手に取り「えぃ!」とカイを殴った。潰れた感触は伝わってこなかった。
「もうちょっと重い方が良いかもですね。リーナが見届けでお願い。俺の方でもう少し集めてくる。リーナのローチェアは出しておくね」
リーグはドルナンのお守りをリーナに任せた。予備の袋を荷物から取り出し周囲の確認をするためウロウロしカイの群れを探した。
リーグは入口から見ると一層の左側に来ていた。その流れで左奥に向かって水中探査と探知でカイを探していた。何箇所かカイの群れがいたので集めた。
三個ほど群れを拾い集めリーナのいるところに戻った。カイは魔石を落とすが小さすぎて拾えない。たまにカイ柱が落ちて稀にパールが落ちる。
落とし物の置き場にはカイ柱が五個とパールが一個置いてあった。
「おーパール出たの? ドルナンさん引きが良いね。その調子で沢山パールを出しましょう。奥さんのリリーナさんにお土産で贈れば喜ばれますよ!」
リーグは黙々とカイを置き石で叩きカイを置き石で叩くを繰り返しているドルナンに声援を送った。ドルナンの動きがピタリと止まった。
「いやいやいや、パールを持ち帰ったら罪人になっちゃうよ!」
ドルナンがパタパタと手を振り頭もブンブン振った。
リーグは苦笑いを浮かべリーナに視線を向けた。リーナも苦笑いになり首を振った。説明なしでドルナンにカイ潰しをやらせていた事に気が付いた。
リーグはまずドルナンに謝った。リーグたちはドルナンにパールを贈るつもりである事を伝えた。そして贈る手続きがあるので贈与は可能と説明した。
「今回のルールはドルナンさんが自らの手でパールを手に入れ俺たちが見届けます。その話を神殿長に話して贈与許可証を発行しようと思います」
リーグが説明するとドルナンは目を丸くした。
リーグは前例の話をして是非とも奥さんのリリーナさんに贈って欲しいと伝えた。それがこの贈与許可証が生まれた理由であると告げた。
「とても嬉しい……王国でパールを買うことは可能だけど……贈られたパールは唯一の想いを込めた贈り物になります。でもなぜそこまでしてくれるんだい?」
ドルナンはリーグに想いを伝えながらも贈ってくれる理由を尋ねた。
「ドルナンさんは今回の交易で私の言葉を聞き入れて女神様のために奉納しました。まだそのお礼が出来てませんからね。私とリーグからのお礼です」
リーナが行動の理由をドルナンに伝えた。
リーナの言葉を聞いたドルナンはジワジワと目が赤くなってきた。思わず俯きうんうんと頷きまたカイを叩く作業に戻った。
リーグはリーナにほほ笑みを向けた。
そして集めてきたカイを作業待ちの袋の中にザラザラと加えた。踵を返したリーグは「また行ってくるー」とリーナに声をかけて駆け出した。
カイの残量が最初の時の三倍ぐらいになった。




