第六十二話
南方諸島のパールは祭事に必要とされる品物である。元は拾った物を創世の女神にお供えする事から始まった。しかし厳密な意味では儀式ではなかった。
今では祝い事には感謝を災い事には祈りの意味を持たせた解釈がされている。神殿は特に祭事の意味は唱えていなかった。ただパールをお供えするだけである。
この祭事をヴァルディス前国王が知り敬虔な宗教的儀式と感じた。この当時はお供えをしてもなくなるわけではないため海に撒かれていた。
ヴァルディス前国王は同行していたアルフォンスと共に海に撒く儀式に参加した。撒かれたパールがキラキラと瞬き沈みゆくのを静かに見届けた。
この時に神殿はフェルノート王国から訪れた前国王た前両妃殿下に加えアルフォンスの三人の妻たちにパールを贈っている。
「女神様も遠方より来られ祭事に参加してくださった皆様にお裾分けしても怒ららません。このパールを見た時に女神様に声を掛けて頂けたら幸いです」
神殿長はそう言葉にしてパールを贈った。
この時にヴァルディス前国王とアルフォンスは辞退し妻たちにパールを贈りたいと持ちかけたと言われている。この時のパールは今も妻たちが持っている。
この話が婚姻の申し込みにパールが使われる切っ掛けと言われているが真偽は不明である。ただ祝い事という事で神殿はその行為を温かく見守っていた。
ヴァルディス前国王たちは南方諸島から王国へと戻った。その頃からリフールでパールを買い求める商人が現れた。最初は好意的なやり取りで持ち帰った。
しかし時と共に商人の一部に問題のある取引を仕掛ける者が出始めた。
そんな時に王国から見た事もない船体を二つ繋げた奇妙な帆船が訪れた。しばらく街中で滞在していた夫婦はいつの間にか神殿で生活していた。
ふらりと奇妙な帆船が姿を消した。帰ったのかと思えば妻の女性は神殿にいると噂になった。神殿は沈黙を続け真偽不明の噂だけが広がった。
一月もすると奇妙な帆船がリフールに戻ってきた。そして男性がパールや不思議なベリーなどを神殿に奉納したと噂が流れた。
「南東に環礁が見つかりフィリーエル環礁と名付けられた。海底に不思議な亀裂がありパールや環礁ベリーや爆裂ココナツが手に入るそうです」
神殿から発表された内容はこれだけだった。そして違う驚きの発表がなされた。
「創世の女神様にお供え物をお渡しできるようになりました。女神様はパールに掛ける祝いや供養の思いはとても素晴らしいとお褒めくださりました」
この発表にリフールの住人は驚いた。本当にお供えできるという意味が理解できなかった。そして神殿は祭壇を公開し多くの人が驚きの世界を知った。
本当にお供え物がキラキラと瞬き消え去る光景は圧倒的だった。
その年の祭事からパールがお供えの祭壇に置かれ一年の感謝と供養を祈るようになった。
海に撒く儀式はなくなったがパールを奉納した者がお供えの儀式に参加しお供えの祭壇に関する噂はどんどんと広がっていった。
「私はドルナンさん……というよりリリーナさんにパールを贈りたい。でもパールを持ち帰れってしまえばドルナンさんは犯罪に問われることになる」
リーナはパールを贈りたいが単純な話ではなかった。
「実はたった一つだけ方法があるの。神殿長と海巫女と風巫女の三人の署名が入ったパールの贈与許可証があれば持ち込んでも罪には問われないの」
リーナが話した事は本当である。ヴァルディス前国王とアルフォンスに発行された贈与書が元になっているフェルノート王国の法律に記載されていた。
「ドルナンさんにリリーナさんへの贈り物を願い討伐してもらうの。私とリーグが見届人。私とリーグと神殿長の署名で正式な贈与許可証になるわ」
リーナは胸を張ってグレーな行為を誇らしげに宣言した。
『あー……ドルナンさんに頑張ってもらうか……』
ドヤ顔のリーナに指摘する必要もないのでリーグは頷いた。取り敢えず集団を見つければ一つぐらいはパールも落ちるだろうと考えた。
「それでいこうか。ただそれならパールの収穫はなしにしよう。頑張って討伐してる横で何十個とパールを収穫するのは無粋すぎるよ」
リーグは妥協案としてドルナンによる討伐という形でドルナンの運しだいとした。出なければ諦める。そして万が一小箱が出たらその場で開ける事にした。
この小箱に関しては「人が開けるのは楽しい」という微妙な話が隠れていた。リーナはドルナンに手袋か髪飾りを推すつもりでワクワクしていた。
明日の悪巧みが済んだので就寝とした。ふとリーグはリーナに尋ねた。
「そういえば暴風ってまだ出てこない感じ?」
リーグの問いかけに「もう少しは大丈夫」とリーナは答え欠伸をして寝た。




