第六十話
フィリーエル環礁に久しぶりに大きな帆船が停泊していた。ラグーン内には入ってないが水路の傍に佇む姿は綺麗だった。
対して環礁内で一番大きな礁島は以前を知る人にしてみると木が激減していた。知らない者は砂で構成された礁島と勘違いするほど様変わりしていた。
「リーグ! 収納空間は無事! 桟橋はこのまま仕舞っておくよね?」
リーナは再び先乗りして収納空間の物品を確認していた。この収納空間は四月ほど閉じ込められた時にリーグがコツコツと掘り進み工作したものだった。
「完全撤収だから資材と桟橋はそのまま。それ以外はリリーナ号に積み込むよ。爆裂ココナツはタイミングをみて俺が運ぶから置いておいて」
リーグは砂に埋もれた係留柱を掘り出しながらリーナに答えた。頭を掘り出したところで水壁を展開し手袋に魔力を渡してガンガン叩いて緩みを飛ばした。
「ちょっと亀裂を見てくる。後でココナツ水を出すから大鍋を出しておいて。いつものように落とし物はそのままにしといてね」
リーグはリーナに後を頼んで水壁を展開しながらラグーン内を駆け抜けた。亀裂に着くと「浮きも飛ばされた?」と係留設備が見当たらなかった。
この辺りは冒険者たちが入る時に持ち込んでいる場合もある。リーグは水壁を身体に添わせた形で展開した。海中に飛び込み亀裂の奥に入っていった。
「おーみんな元気そうじゃん」
入口を入ると直ぐの場所に拠点が作られていた。規模感から全員がいるとリーグは確信した。ダラダラしている冒険者たちにリーグは声を掛けた。
「うおっ……リーグか。リーグが来たってことは迎えの船が来たのか?」
ネガがタープから顔を出しリーグに質問した。
「きたよー。めっちゃ強い暴風と鉢合わせて空を飛んじゃったよー。礁島の木も飛んじゃったみたいだね。あれは飛ぶよね」
リーグは飛んだネタを披露しうんうんと頷いた。
「飛んだのかよ!……えっ? 礁島の木が飛んだのか? 収納空間は飛んでないよな? パールとか集めんの大変だったんだぞ!」
「収納空間は残ったよー。あれも少し叩いて締めとかないと次は危ないかも。戻ったら叩いておこう。そういえば外に出てない感じ?」
リーグは収納設備の確認を心にメモした。
「出てねえぞーていうかヘルムが海を見に行って真っ青な顔で逃げ帰ってきてから出てねえ。風は強いし雲を見てヤバさで逃げてきやがった」
ネガはパーティーメンバーの醜態にゲラゲラ笑った。リーグはその光景を想像してくすくすと笑った。規模的に笑い事でないことは理解していた。
「今日はこのままここで野営ね。後で血の気の多いツナが釣れたから持ってくる。ちなみにシイラはいる? パーティー事に四匹は配れるよ?」
リーグが魚の在庫調整を始めた。シイラは釣りをすれば増える一方なので在庫調整は必須だった。リーグの頭にはリリースという概念がなかった。
「ちなみに血の気の多いやつは?」
ネガは少し警戒感を漂わせリーグに在庫量を確認した。リーグは毎回獲りすぎたと魚を持ってくるが適切な量だった事がなかった。
「五匹だから割り切れないね。取り合いで喧嘩しちゃダメだよ?」
リーグの答えに『やっぱり……』とネガは思った。血の気の多いツナもそれなりに大きい。ネガのパーティーは五人だがオガミのところは四人である。
「一匹だって食い切れねぇよ! リーグが釣るやつは大抵これぐらいだろ!」
ネガが両手を広げた。目測で1mぐらいだった。リーグは目を丸くして「それよりは小さいよ」と両手を目測で80cmぐらいに広げた。
「それだってデケえよ! そんなんにシイラとか物理的に入らねぇのに四匹とか何日魚漬けなんだよ。それでなくてもトンガリの切身に飽きてんだよ!」
ネガが魚地獄に変わり種でも魚を突っ込むなとリーグに抗議した。
「おいおいうるさいぞ。ネガは相変わらずリーグに揶揄られてんな。それより迎えが来たんだろ? ここに広げまくった荷物の整理始めんとヤバいぞ」
別のパーティーリーダーであるベルクがネガとの会話に割り込んできた。ネガはハッとしてパーティーメンバーに撤収準備を伝えに行った。
「思ってたより早かったな」
「リリーナ号に頼んだからね」
ベルクの質問にリーグは軽く答えた。ベルクは「リリーナ号?」と聞き覚えのない船名に首を傾けた。リフールは地元なので大抵の船は知っていた。
「フェルノート王国の大型外洋船だよ。知り合って丁度良かったから頼んだんだ。二本マストのめちゃカッコイイ帆船だよ。中型カッターより速いしね」
リーグの返事にベルクは「はぁ?」と抜けた声を上げた。フィリーエル環礁まで大型外洋船で来るという非常識な行動にベルクは固まった。




